学生のスイッチを入れる地域の産学協働「寺子屋式インターンシップ」/徳島大学

徳島大学キャンパス


吉田副学長、川崎特別准教授

 大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングといった座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働と、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。

 この連載では、この「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目しながら、学長及び改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく。各大学が活動の方向性を模索する中、様々な取組事例を積極的に紹介していきたい。

 今回は、徳島大学の地域との連携を強める試みについて、COC+とその一環である「寺子屋式インターンシップ」を中心に、吉田和文副学長(地域・産官学連携担当理事)と、川崎克寛特別准教授(COCプラス推進コーディネーター)にお話をうかがった。

『次世代“光”産業』にフォーカス

 徳島大学は、総合科学部、医学部、歯学部、薬学部、理工学部、生物資源産業学部と、理系中心の6つの学部を持つ総合大学だ。大きな特徴として吉田和文副学長は、「光工学を強みとしていること」をあげる。

 「本学の最も有名な出身者の一人が、青色LEDの研究で2014年にノーベル賞を受賞した中村修二氏。彼が在籍していた地元の日亜化学工業との縁もあり、全国に先駆けて光応用工学科を1993年に設置しました。2018年度に採択された内閣府の『地方大学・地域産業創生事業』も『次世代“光”産業』がテーマで、事業主体は県ですが、本学が実行部隊として大きなウエイトを占めています」。

地域と共に未来へ歩む徳島大学宣言

 人口減少・少子化の流れの中で、学生=若者の地域定着は地方大学の大きな役割になっている。徳島大学の学生数は大学院まで含めると約7500人。これは徳島県の20~24歳人口(2010年度国勢調査)の20%以上に相当するというから、確かにその帰趨は地域の関心事だろう。

 吉田副学長は「ただ、地域の人口問題は大学が取り組むべきことなのか、行政がやるべきことではないかと、学内でだいぶ議論がありました」と言いつつ、こう続ける。「とはいえ、大学の使命として社会貢献・地域貢献ときちんと向き合っていかないと、国の財政も厳しくなる中、大学自体の存続が危ない状況です。地方自治体も含めた産学連携も大事になってきています」。

 こうした問題意識のもと、2014年の4月までに県内の全自治体と連携協定を締結、同年8月には「地域と共に 未来へ歩む徳島大学宣言」が発表された。「地域貢献を重要課題・使命とするこの宣言の意義は、学内でも大きかったといえます。全学に周知され、地域との連携を強化する機運が高まりました」(吉田副学長)。

全学で地域理解のための教育科目導入

 この宣言と前後して、トライアル的なものを含む地域連携が様々に始まった。2015年度には、学内のIR室により学生に対するアンケート調査が行われた。COC+事業「とくしま元気印イノベーション人材育成プログラム」の開始に先立つこの調査の結果、「地域に関する授業科目」は、徳島県出身の学生よりも、県外出身の学生のほうが県内就職の割合を一定程度高める効果があると検証された。

 「学生の出身地は約30%が県内。70%を占める県外出身の学生に一定の効果があるならとCOC+にも入学生全員が『地域理解のための教育科目』を受講することを盛り込んで、学内的にも好意的に捉えられました」と吉田副学長は言う。

 COC+事業採択をきっかけに、地域志向科目群はさらに全学で整備が進んでいった。「2016年度の学部再編時に、それまで総合科学部が担っていた教養課程を担当する専門部署として教養教育院を作りました。COC+の採択が決まった2015年秋の段階で、翌年度から教養教育院に「地域科学教育科目群」を編成する等、全学が地域理解のための教育科目を受ける形にしてもらいました」(吉田副学長)。

 COC+は大きく3段階のカリキュラム編成をとっている。第一段階が「地域理解のための教育科目」で、教養教育の地域科学教育科目、もしくは地域志向科目を、全入学生が必ず履修する。

 第二段階は、徳島県で雇用創出と就職率向上が期待される4つの専門分野に関連付けられる「専門プログラム」。責任部局制をとっており、(1)次世代技術関連分野(LEDやロボットなど)は理工学部、(2)地域医療・福祉関連分野は医学部・歯学部・薬学部、(3)6次産業化関連分野は生物資源産業学部、(4)地域づくり・観光・ICT関連分野は総合科学部が、担当学部となっている。

企業の課題を考える「寺子屋式インターンシップ」

 第三段階が「寺子屋式インターンシップ」だ。COCプラス推進コーディネーターの川崎特別准教授はこう説明する。「2 人から4 人の少人数チーム制がまず特徴です。学年学部横断のチームで、企業様の経営課題の解決に取り組んでいくPBLプログラムです」。4月下旬から2月上旬までの長期にわたり、少人数単位で「課題・レポート・ディスカッション」を繰り返す方式を「寺子屋式指導法」と名付けている。いったんプロジェクトがスタートすれば、具体的な作業を直接指導するのは受入団体(企業)のメンターであり、教員は学内メンターとして補助的な役割にまわるのも特徴だ。

 「このインターンシップは、普通の学生を対象にしています。その普通の学生の伸びしろを、入学から卒業までにどれだけ伸ばせるかということも、今後、大学の一つの特色、ステータスになると思っています」と川崎特別准教授は言う 。

 この方式の要の一つは、立ち上げ時の課題設定だ。2月から4月にかけてコーディネーターが4つの専門分野に関わる地元企業を訪問し、経営課題を聞き取りながらプロジェクトを構築していく。「ポイントとしては『緊急性はないけれども重要度が高い』もの。ただ、それは社長をはじめ経営幹部の方が考えてもなかなか難しい課題です。学生ができるレベルに切り出していくと『組織変革』『新規事業・商品開発』のどちらかになっていくことが多いです」(川崎特別准教授)。さらに、その課題が解決することによって、企業が次のステップとして何ができるかを握り合う。そうでなければ受入企業側に真剣味が生まれないからだという。

 数回の企業訪問、プロジェクトごとの学内メンター(教員)との調整を経て、プロジェクトが立ち上がると、各受入企業が学生に直接説明する4月の「インターンシップフェア」を迎える。例年100名から150名の学生が参加し、うち30%ほどがエントリー、企業側による書類選考と面接を経てチームが決まる。2018年度は3学部から1年生14人、2年生9人、3年生21人の計44人が、16の受入団体で取り組んだ。

 具体的に学生が作業を始めるのは6月頃だが、川崎特別准教授は「実際、本当に集中して動いている期間は、10月の中間報告会以降の1カ月から1カ月半くらいではないか。そこまではアイドリングが必要で」と言い、こう続ける。「中間報告会は、学生同士がお互いのプロジェクトの進捗を『たたき合う』、よく言えば『切磋琢磨しあう』場。そこでスイッチが入って、熱が増していく」。

 スイッチを入れる役割の中間報告会とは異なり、1月の最終報告会は、成果のお披露目会であり、学生、受入団体、学内関係者の他、数は少ないが、学生の保護者、高校生なども来場する。各チームが受入団体と共に大教室で全体向けショートプレゼンを行った後、専門分野ごとに4つの分科会が行われる。

徳島大学COC+ 実践力養成型(寺子屋式)インターンシップ概略図

友人には勧めないが、自分の弟や妹には勧めたい

 「寺子屋式インターンシップ」の成果としてはまず、学生の能力伸長がある。「コンピテンシーではコミュニケーション能力が、リテラシーでは情報分析力を中心に全般的に、すごく伸びます」(川崎特別准教授)。

 COC+事業の一環として、受入団体である地域企業にとっての成果も上げている。雇用面では、数は少ないながら、インターン生が受入団体でそのままアルバイトを続けたり、結局そこに就職したりという例があるという。

 業績向上面では、売り上げが最高で4倍になった企業があるという。「もちろんこのインターンシップだけの効果ではありませんが、1年目は経営理念、翌年は中期計画、と組織課題に取り組み、しかも策定だけでなく、社員への広報・浸透までを組み込んだことで、経営上のインパクトが生まれたようです。経営者の方は『社員がグッとまとまってきた』とおっしゃいます」(川崎特別准教授)。

 また別の企業では、入社3年目から5年目の若手社員をメンターにしたことで、その社員の育成という成果も得られた。

 企業への満足度アンケートでは「大いに満足」「ほぼ満足」を合わせてほぼ100%だという。ただ、「終わった瞬間は、学生も企業さんも、二度としたくない、やらなきゃ良かった、もうやりたくない、と言います」(川崎特別准教授)という過程もある。しかしこれは「学生も企業側も本気で取り組んだ証拠」だと言う。「お互いにヘビーなのがあたりまえだと思います。未来の課題に挑戦しているわけですから。1カ月くらい経ってようやく、やって良かったな、となります」。

 そして川崎特別准教授は、学生が残した名言を教えてくれた。「(楽をして単位を取りたいと思っているような)友達には勧めない、でも自分の妹か弟が入学したら、絶対行け、って言いたい」。

コンソーシアムとくしまで継続

 徳島大学のCOC+事業は、国の中間評価(2017年度)で全国42事業のうち5事業のみのS評価を得ている。しかし補助事業としてのCOC+は2019年度が最終年度なので、継続方法が最大の課題となる。

 吉田副学長は「財源の問題は大きく、学外に一定の負担を頂かざるを得ない」と言う。COC+の参画企業・団体、高等教育機関による「イノベーション人材育成協議会」を母体に「コンソーシアムとくしま」を立ち上げ、会費的な寄付を得て事業を継続していく方針が、2019年12月の全体協議会で承認されている。

 学内の体制としては、COC+推進本部事務局をはじめ4組織を2019年4月に統合して「人と地域共創センター」を開設した。リカレント教育を中心に、大学ならではの地域のための社会人教育を行っていく趣旨のセンターで、その中の「協働教育部門」でCOC+の継続事業を行うことになっている。


(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)



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