世界水準の学びをデファクトスタンダードに/立命館大学 グローバル教養学部
- 1869年西園寺公望が創始した私塾「立命館」をその源流とし、前身となる「私立京都法政学校」は1900年に創設、2020年に学園創立120周年を迎える伝統校
- 16学部22研究科、学生・院生数約3万5000人を擁する総合大学
- 「自由と清新」を建学の精神に、常に時代の先端たることを理念とする
立命館大学(以下、立命館、RU)は2019年にグローバル教養学部(以下、GLA)を開設した。オーストラリア国立大学(以下、ANU)とのデュアル・ディグリープログラムである。その内容や設置背景について、大阪いばらきキャンパス(以下、OIC)を訪ね、金山 勉学部長にお話をうかがった。
グローバル・アジア・コミュニティの構築と人材育成を掲げる
立命館の国際化は、1988年、西日本で初めて国際と名のつく学部「国際関係学部」を設置したことに端を発する。そもそも建学の精神の「自由と清新」の「清新」はイノベーションを指すという。多様性の創造、多様性への理解がイノベーションを生み出し、また、グローバル教育を通じた異なる価値観への理解・尊重が、平和を実現するとの考えの下、現在も多様な国際プログラムを展開している。
近年の改革の契機となったのは2014年にスーパーグローバル大学創成支援事業(以下、SGU)タイプB「グローバル化牽引型」に「グロ-バル・アジア・コミュニティに貢献する多文化協働人材の育成」が採択されたことである。ここでは、「アジア共生マインドを持つ科学技術高度化の担い手=アジア高度人材、ならびに、アジア共生マインドを持ち社会の在り方を変える担い手=アジア・イノベーティブ人材を大胆かつ大規模に育成していくための教育・研究の徹底したグローバル化と、その仕組み・環境・体制づくりを全学あげて推進する」とある。GLAの設置は当然こうした文脈の中にある。金山学部長は言う。「アジアというコミュニティの中で国際通用性の高い大学教育を実現し、多元的でグローバルな学びを経験できる世界水準の知的鍛錬の場を提供する。それがGLAのチャレンジです」。
オーストラリアの「若者にアジア志向を」という国家戦略
まず、教育連携しているANUをご紹介したい。1946年開設したオーストラリア唯一の国立研究大学で、当初の研究領域は物理学・医学・社会科学・太平洋学の4領域であった。現在は人文社会科学、商学/経済学、アジア太平洋学、工学/情報工学、法学、医学/生物学/環境学、数学の7つのカレッジと9つのリサーチスクールを擁し、学部生約1万1000名、大学院生約1万2000名という大規模総合大学である。QS世界大学ランキング2019では総合評価として世界24位にランキングされている。首都キャンベラ中心部に145ヘクタールもの広大な土地を有し、200を超える建物を保有している。メインキャンパス以外にも4つのキャンパスを持ち、観測所やリサーチセンターを備える。
今回の学部設置に当たっては、ANU側がRUの提案を受け入れた形になるというが、ANU側のメリットは何だったのか。連携が構想され始めたのは2013年頃からだが、この年にはオーストラリア外務大臣ジュリー・ビショップ氏により、「アジアに精通した未来の人材をより多く輩出するのを目標に、オーストラリアの若者にアジアを意識した教育を受けさせ、留学や就業を促す」とする重点政策「新コロンボ計画」が掲げられた。ビショップ氏は、2020年1月、ANUのチャンセラー(総長)に就任し、こうした方向性を大学としても強く志向し続けている。RUとの連携は日豪関係のなかでも肯定的に捉えられたというわけである。
2014年7月には両大学はアジア研究を視野に入れた共同学位課程設立検討に関する覚書を締結した。調印式には当時の安倍晋三首相も立ち合い、日本政府としてもこうした動きを支援する構えであることを内外に示した。両国とも広範なグローバルエリアにおける連携と人材育成の必要性を国家として支援していることになる。「本学同様の仕組みを考える大学が増えてほしい」と金山学部長は言う。
相互のキャンパスで学び複眼的視座を手に入れる
では、教育内容を具体的に見ていこう。
GLAは学部全体が海外大学とのデュアル・ディグリーを前提として作られた日本初のプログラムである。RU側の学位はグローバル教養学、ANU側の学位はアジア太平洋学。日本(Cohort A:90名)とオーストラリア(Cohort B:10名)それぞれで学びをスタートさせ、双方に日豪間を移動する定員100名の学部である。
カリキュラムは、①世界のヨコの広がりを学ぶ ②世界のタテのつながりを学ぶ ③世界の未来を構想する の3領域に分かれた科目により構成され、社会課題に取り組む多様なアプローチを学ぶ。授業は全て英語で行われ、4年間のうち1~2年間は相手先のキャンパスに通学する。Cohort Aは1・2・4年次RU、3年次ANU。Cohort B は1・4年次ANU、2・3年次RUに通学するといった具合で、単位を互換することで双方の学位取得に必要な単位を満たせる仕組みだ(図1)。また、OICにはANU教員1名が常駐し、学期によってANUからの講義担当教員が加わる。日本にいながらRUの講義とANUの教員によるANUの講義を受講することができる。履修の流れは図2を参照いただきたい。
図1 RUとANUの単位互換
図2 履修の流れ
2種のハードルで国際水準の教育へのレディネスを問う
こうしたカリキュラムを履修するためには、学力と英語という2つの基準を満たす必要がある。それぞれアカデミック・ハードルとイングリッシュ・ハードルと呼ばれ、前者はANUのGPA換算で4000以上を取得すること、後者はTOEFL iBT®でスコアが80以上の語学力がその水準。判定はRU科目の修得単位数が入学後初めて合計32単位以上となった学期末に一度だけ行われる。基準に達しない場合はデュアル・ディグリープログラムにおける履修の継続性が認められず、RU科目のみからなるシングル・ディグリートラックにおいてグローバル教養学士号の取得を目指すことになる。
また、入学時点の英語能力も出願要件化している。通常の4月入学生は「TOEFL iBT®68、IELTS 6.0」、English BasisのAO選抜及び9月入学生は「TOEFL iBT®80、IELTS 6.5」という水準だ(詳細は大学HPの入学試験要項を要参照)。
また、新たな施設として、立命館大学OICグローバルハウスをOICキャンパス内に設置した。欧米諸国ではキャンパス内に「住みながら学ぶ」のが当たり前。国際水準にはこうしたファシリティ整備も当然含まれるという。金山学部長は言う。「キャンパスの近くに寮があるのではいけません。キャンパス内にあるということが重要です。GLAの設立が『世界標準の学びの実現』を約束している以上、外せないポイントでした。幸い、本学卒業生で日本M&Aセンター創業者の分林保弘氏のご寄付により、能楽や茶道等日本文化を学び、国際交流を推進する全ての学生達の拠点ともなる寮を建てることができました」。
異分野異組織で1つの価値を創出する高度なマネジメント
では、こうした日本初のプログラムを計画・運営するうえでの苦労はどういうものがあるのか。
金山学部長が繰り返される「国際水準」とは、GLAの軸であり競合優位性であると同時に、当然最も質保証の難易度が高い概念でもある。「2つの異なる分野を異なる国・文化風土も違う大学同士でどのようにマネジメントするのかというのが、一番の問題です」と金山学部長は言う。まずはシラバスの書き方、授業の仕方、評価の方法やその水準等に至る実践ベースが重視される。その前に厳格な単位スケールの相互調整も必要だった。ANUで教える分量とRUの分量が著しく乖離しないよう定期的にチェックする。シラバスで示したクオリティーを棄損しないよう、教職員のSD・FDもブラッシュアップしていく必要がある。「授業内のテクニカルなスキルトレーニングの問題ではなく、どうやって共通の人材育成を実践していくか、Teaching Philosophyを教員間で共有することが重要」と金山学部長は言う。RU全体としての仕組みは教育開発支援機構が担うが、RU・ANU間で学部が先陣をきって1つの共通目的のために相互努力することから生まれる様々なチューニングは、終わることはない。国際水準に照らしお互いの水準を同質に保つべく、国を跨いで相互チェック関係にあるという緊張感が常にあるという。教育の質を高レベルで保つための教職員の苦労はいかばかりであろうか。しかし、こうした経験は、後々立命館がさらなる国際化を志向する際の貴重な基盤データとなるはずだ。2030年に向けた学園ビジョンR2030で「挑戦をもっと自由に」を掲げる立命館。今後が非常に楽しみである。
カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/4/7)