「世界をおいしく、おもしろく」。グローバルテーマ「食」を分野横断で科学する/立命館大学 食マネジメント学部

立命館大学キャンパス

POINT
  • 1869年西園寺公望が創始した私塾「立命館」をその源流とし、前身となる「私立京都法政学校」は1900年に創設、2020年に学園創立120周年を迎える伝統校
  • 16学部22研究科を擁し1学年あたりの定員は約8000名という大規模校
  • 食マネジメント学部の入学定員320名に対し、一般入学試験の志願者数は、2018年度3217名、2019年度3621名


立命館大学(以下、立命館)は2018年に食マネジメント学部を設置した。今年で3年目となる状況をお聞きするべく、滋賀県草津市のびわこ・くさつキャンパスを訪ね、朝倉敏夫学部長にお話をうかがった。

グローバルテーマ「食」に多様な観点でアプローチ

 昨今、グローバル化の進展や生活構造の変化の中で「食」というテーマに注目が集まっている。食材の研究開発・生産・加工・流通・飲食・廃棄に至るまでの食循環、食関連産業の多様化、飽食や飢餓、食文化継承、家族の在り方の変容等、現代社会において様々な問題を孕む「食」について、その包括する領域の大きさに鑑み、多彩な学問を横断する視点を軸に、課題解決のための学問的アプローチを模索するべきではないかとの考えから構想されたのが食マネジメント学部である。社会事象や社会ニーズから翻って学問的アプローチを模索するという性格上、もともとは大学院構想から検討が始まったという。

 同時に、多様な業種がある中で食産業が相対的に地位を低く見られがちな実情にメスを入れたかったという。「アカデミズムの中でも同様です。伝統的な学問と比べて実践から派生した学問は低く見られがち。我々は教育展開・研究集積で、こうした現状を変えていきたい」(朝倉学部長)。単なる新しい学問領域というだけではない社会からの期待と自負を背負っている。

 学部の教学理念は、「経済学・経営学を基盤としながら、食科学の深い知見を培い、高度なマネジメント能力と実践的な行動力を備え、食の人類的な課題の解決に寄与できる人材を育成する」ことである。具体的に見ていこう。

「世界をおいしく、おもしろく」

 「食を学ぶ」とはどういうことか。「食マネジメント」という学部名が示すように、食領域を扱うのに家政学や農学からではなく経済学・経営学をベースにしている点は非常に興味深い。図表1の概念図にあるように、多様な「食」を総合的に捉えるため、食マネジメント学部で掲げるのは「マネジメント」「カルチャー」「テクノロジー」の3つの切り口だ。俯瞰的・多面的な学びにより視野が広がり、横断的思考がイノベーティブな発想につながるものと期待されている。


図表1 食マネジメント学部が包括する学領域イメージ図

図表1 食マネジメント学部が包括する学領域イメージ図


 学部として身につけさせたい能力は、図表2にあるように、様々なスキルやコンピテンシーを複合的に組み合わせ、食分野で高いマネジメント能力を発揮できる総合的な能力だ。自然科学(実験)・人文科学(書籍探究・リサーチ)・社会科学(フィールドワーク)の複合横断的アプローチを統合できることが、競争優位性となると考えているという。「具体的には、自分のテーマについてどうやってデータを集めるのかの設計から、自分の独自性をもってどう分析するのか、成果のアウトプット・コミュニケーションといった一連の流れを1人で自己完結できることです。本学部では分析思考を培うために統計学を必修にしたり、対外的に躊躇なくコミュニケーションをできるように第二外国語を必修にしたりと、身につけさせたい能力に即した科目配置を心がけています」と朝倉学部長は話す。

図表2 食マネジメント学部の教育で身につく力(概念図)

図表2 食マネジメント学部の教育で身につく力(概念図)

初期段階で興味関心を喚起する機会を多く配置する

 学問領域の基礎力を身につける初年度は、網羅的に基礎科目や入門科目が多くなるため、その分カリキュラムがタイトとなることが、現在の課題の1つだという。過密なカリキュラムが、もともと食に高い関心がある学生の学習意欲を削いでしまう可能性があるということだ。

 また一方で、「立命館ならどこでもいいから入りたい」という入学者も一定数いるのが実情である。そうした層についても、大学での学びの基軸となる意欲を喚起したい。朝倉学部長は、「大事なのは食に対する興味関心。自分でテーマを持って探求を進める大学教育においてはそれが全ての軸。入学前にそれらを醸成してきた層の維持向上はもちろん、そうではない層に対しても身につけさせる必要があります」と言う。2つに大別される学生タイプに対して、等しく意欲・関心を維持向上する仕掛けが必要だ。その解決策として掲げるのが「現場を知ること」である。まず初年次は、必修の食科学入門や総合講義Ⅰで、オムニバス形式で日本のトップランナーの話を聞く機会を設けるほか、6月に全員参加で福井県小浜市へのフィールドワークで、市役所食のまちづくり課によるプランニングや背景にある食文化等の理解を深める。まずは広く様々なテーマと人により学生の興味を喚起し、その後の学習に繋げるのである。

 2年次以降は教室での学びと実社会の接点となる国内外の食の現場に学生が赴くガストロノミック・スタディ・プロジェクトⅠ(GSPⅠ)と称する研修を用意しており、国外ではイタリア・韓国・ベトナム・アメリカ等に10日前後滞在し、世界の多様な食文化に触れることができる。


写真:学生活動の様子

写真:学生活動の様子


グローバル水準の教育で高い視座と広い視野を獲得する

 食マネジメント学部ではグローバルテーマである「食」を扱う以上、異なる価値観を許容し尊重できる多文化共生の思考を身につける必要があるとして、海外連携機関を豊富に揃えている。

 まず、ル・コルドン・ブルーである。1895年パリで創設した、カリナリーアーツ(料理)とホスピタリティの教育機関で、世界各国でパートナー大学との教学提携を展開し、現在世界20か国35校舎の国際ネットワークを構築している。立命館では入学定員320名のうち希望する16名が、ル・コルドン・ブルーとの共同プログラムであるグローバル・カリナリーアーツ・アンド・マネジメント・プログラムを受講し、よりグローバルな専門カリキュラムを受けることができる。

 イタリア食科学大学(UNISG)は、2004年に国際スローフード協会の創設者であるカルロ・ペトリーニ氏の考案によって、イタリアのピエモンテ州ブラに創設された、世界でも類を見ない「食科学」を総合的に扱う大学である。連携協定の締結により教育・研究・人材育成において相互協力をしており、イタリアへのスタディトリップではUNISGの協力を得ながら現地の農園や食品加工場の見学、UNISGキャンパスでのアカデミック・テーブルへの参加等も検討されている。

 立命館が提供するのは食に関わる諸課題を解決するための資質を培う教育であり、アプローチの多様さに加え、食他分野という掛け算の視点が重要である。「食科学を総合的に学ぶ一方で、誰も考えたことのない組み合わせを考案できる人になってほしい」と朝倉学部長は言う。食というフィールドでの多様な未知との出会いを創出したい。その領域の先輩たる教員の研究テーマを図表3に参考として示した。


図表3 先生の研究テーマ一覧

図表3 先生の研究テーマ一覧


食科学の世界的拠点を目指す次の一手

 学部教育の充実に加え、大学院の開学も構想中だ。「世界で学問集積地として認められるには大学院が必須です。日本初の学部を作ったなら大学院も初でなければ。トップランナーであるためにはスピーディーな改革が必要不可欠」と朝倉学部長は意気込む。

 2014年に前身が開設し学部開学と同時に発展的改組した食総合研究センターでは、食に関わる多くの研究情報を収集し、多彩な研究活動を展開することで国内外の諸課題の解決に寄与することを目指し、教員による外部資金調達で運営されている。教育展開のみならず、研究集積をより強固なものとすることで、食科学の世界的拠点整備を急ぐ。今後の立命館の動きが非常に楽しみである。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/4/15)