私立大学の中期計画に関する学長調査 詳細分析vol.3

中期計画の策定・実施におけるリーダーシップ


宮里 愛・両角 亜希子


2020年4月から中期計画の策定が義務づけされた。そこで、四年制大学の学長に対するアンケートを『カレッジマネジメント』と東京大学大学院教育学研究科の両角亜希子准教授と共同で、私立大学の中長期計画の策定・運用状況等について実施。同研究科において詳細について分析を実施した。

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カレッジマネジメント220号「私立大学の中期計画に関する学長調査」
両角 亜希子(東京大学 大学院教育学研究科 准教授)

1. 中期計画における学長のリーダーシップを探る

 近年、学長のリーダーシップに大きな関心が寄せられており、学長への権限強化・集中や学長補佐体制の強化などのガバナンス改革などが進められている。学長のリーダーシップに関する先行研究からは、組織としての方向性を示し、教職員の当事者意識を引き出すうえでのリーダーシップの重要性が示されている。しかしながら、大学経営は多岐にわたる分野をカバーしており、実際に大学のリーダーシップがどのような分野で発揮され、具体的にどのような効果をもたらしているのかはよく分かっていない。

 本稿では、本調査において「中期計画を実施する中での効果や課題」を尋ねる設問において、「計画推進者がリーダーシップを発揮して実施している」という項目に着目し、中期計画の策定方法等との関係、中期計画において重視する観点の違いを見たうえで、リーダーシップを発揮することの効果を分析する。この項目の内訳は、「とてもあてはまる」44.5%、「ややあてはまる」49.8%、「あまりあてはまらない」4.6%、「あてはまらない」1.1%で、そもそもリーダーシップを発揮していないと回答する大学は限られる。なお、この項目と大学の規模は関係がなく、どのサイズの規模の大学であってもリーダーシップを発揮できているリーダーとそうでないリーダーがいる。

2. 中期計画の成功には、リーダーシップの確立が重要な要件に

 計画推進者のリーダーシップの発揮は、策定方法や回数と関係しているのか(図1)。中期計画の作成主体では、「学校法人と大学の共同実施」の場合に最もリーダーシップが発揮されていた。策定方法では、「大きな方向性を示し部局が具体案を作成」で最も発揮されており、逆に「学部学科で作成したものをまとめて全体計画」でのリーダーシップの発揮度は低い。中期計画の策定回数では、策定回数を重ねるごとにリーダーシップの発揮を強く感じる大学が増える。中期計画を成功させるために、リーダーシップの確立が一つの重要な要件となっていると考えられる。図表は省略するが、策定回数を重ねるとトップの関与も見直し、トップの関与を増やす大学が多いことも分かっている。

図1 リーダーシップの発揮と作成方法、回数

3. 事業計画や責任体制、学内の共有、検証性を重視

 リーダーシップをとても発揮しているか否かで、中期計画を作成・実施するうえで重視する点が異なるかを見てみよう(図2)。いずれの項目もリーダーシップを発揮しているほど重視しているが、「とても重視」(青色)の違いの大きさに着目すると、リーダーシップをとても発揮している大学ほど、「毎年度の事業計画での具現化」「事業の財源や予算措置の明確化」「検証可能な形での計画立案」「計画実施の責任体制の明確化」などをかなり重視している傾向が確認される。

図2 リーダーシップ発揮と重視する項目

4. 「達成目標と責任部署の明確化」「点検強化体制の構築」に影響

 最後に、リーダーシップの発揮度がどの分野で特に影響を与えているかを見てみたい(図3)。いずれの項目もリーダーシップを発揮しているほど十分に実施されている傾向がみられたが、中期計画の浸透に関しては、リーダーシップをとても発揮している大学では、教職員に対する中期計画の浸透度が高いことが分かった。検証プロセスに関しては、特にリーダーシップを発揮している大学では、「定期的な達成状況の点検評価や未達事項の原因分析」が十分に実施されていた。

 また、リーダーシップの発揮度が高いほど、数値目標の達成に対する部署の責任の明確化につながることが示された。図表は省略するが、リーダーシップの発揮度が高くなるにつれて、数値目標を多く設定する大学の数が増えることも確認できている。数値目標の数の多さが必ずしも成果に結びつくわけではないことに留意が必要であるが、リーダーシップを発揮している大学では、計画の達成目標と責任部署が明確に定められ、適時点検評価が行われる体制が整備されている様子がうかがえる。

図3 リーダーシップの効果

5. リーダーシップは「教職員への説明・浸透」「検証プロセスの確立」「責任体制の明確化」で特に効果

 本稿では、中期計画の策定方法等との関係、中期計画で重視する観点の違いを見たうえで、リーダーシップを発揮することの効果を分析した。中期計画の策定・実施において、大学の経営に関する大きな方向性を大学及び法人ならびに経営トップ及び部局が共有することによりリーダーシップの発揮度が増すことが確認された。また、中期計画の策定回数を重ねるごとにリーダーシップの発揮を強く感じている大学の数が増え、策定回数と共にトップの関与も見直され、トップの関与を増やす大学が多いことが分かった。

 リーダーシップを発揮する大学では、毎年度の事業計画での具現化、事業の財源や予算措置の明確化、検証可能な形での計画立案、計画実施の責任体制の明確化などを重視して取り組んでいる。また、中期計画の説明及び浸透においても、リーダーシップを強く発揮している大学では、特に教職員への説明・浸透が十分になされており、目指すべき姿の共有が十分なされている様子が確認できた。計画の検証においては、リーダーシップの発揮度が高い大学では、定期的な達成状況の点検評価や未達事項の原因分析に十分に取り組んでおり、リーダーシップの発揮度が高いほど数値目標を多く設定する大学が増え、数値目標の達成に対する部署の責任を明確にしていることも分かった。本稿では、中期計画の策定・実施において、リーダーシップの発揮は、「教職員への説明・浸透」「検証プロセスの確立」「責任体制の明確化」において特に効果があることが示された。

 リーダーシップの発揮のみでは大学経営の課題を全て解決することは困難である。リーダーシップを発揮できる体制を整えるとともに、リーダーシップの影響が弱い分野においては教学と経営との関係、トップと構成員との関係など補完する体制を整備し、リーダーの能力養成をすることで中期計画の実効性がさらに高まることが期待される。

(2020/4/17掲載)