【専門職】「ICTとビジネスの知識でグローバルに活躍できる人材」の育成を目指す/情報経営イノベーション専門職大学
1951年の創立以来、運営する日本電子専門学校から数多くのエンジニア、クリエイターを輩出してきた学校法人電子学園。同法人が2020年4月に新たに開学したのが、情報経営イノベーション大学、愛称「iU(あいゆー)」である。「これまで日本の大学がやってこなかったことを全部やりたい、という考えで作った」と話す中村伊知哉学長に、設立の背景や育成を目指す人材像についてうかがった。
産業界と連携した大学をゼロから作る
情報経営イノベーション大学(以下、iU)が育成を目指す人材像について、中村学長は「ICTとビジネスの知識を持ってグローバルに活躍し、世の中を変えていくことができる人材」と話す。背景には、郵政省、MITメディアラボ、スタンフォード日本センター研究所、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科を経てきた中村学長が長年抱いていた、日本の大学に対する課題意識と、産業界のニーズがあったという。
「私が長年携わってきたITやデジタルの分野では、GoogleやFacebookを始めとした世界的なサービスの多くが、現地の大学から生み出されてきました。一方、日本では、ウォークマンや初音ミク等、企業が生み出した素晴らしい製品・サービスはたくさんありますが、大学から生まれたものはない。日本でも、大学がプラットフォームとなって様々なイノベーションを起こし、新しいものを生み出すべきではないか、と考えてきました」
「慶應のメディアデザイン研究科の立ち上げに参画したのも、この課題感に合致したからでしたが、伝統ある組織の中で新たな挑戦を進めていく難しさも感じましたし、産業界の需要は、より即戦力となる人材にあることも実感。『産業界と連携した大学をゼロから作らなければ、世の中のニーズに真に応えられる人材は育てられない』という結論に達したのです」。
この中村学長の考えに、専門職大学の構想を練っていた電子学園が共鳴し、iUの設立構想が立ち上がったという。開学に向け、さまざまなIT・通信系企業に人材ニーズをヒアリングしたところ、高等教育機関への多様な期待の存在を実感したそうだ。
「『セキュリティーやAI、IoT等の分野を学んだ人材をたくさん採用したいが、即戦力が足りないので、育てるところに関わっていきたい』『大学と連携して新しいサービスを生み出したい』『産学連携の取り組みに関わる企業や人材のコミュニティーに入り、一緒に面白いことを仕掛けたい』等、様々な声を頂きました。大学を使って、もっと経済や産業の役に立つことができる芽があるのではないかと感じましたね」。
「ICT」「ビジネス」「グローバルコミュニケーション」の3つの柱
そうしてi U が設計したのが、「ICT 」「ビジネス」「グローバルコミュニケーション」を3つの柱とするカリキュラムだ。プログラミングやシステム開発等、情報通信技術に関する基本的な知識・スキルから、セキュリティーやIoT、AIなどICT分野のトレンドまでを網羅的に学習するとともに、企業の戦略や組織に関する理論、英語はもとより文化的背景の異なる人々と協働するために必要となる文化の違いやビジネスのルール等を身につけ、イノベーションを起こせる人材の育成を目指す。出口として見据えているのは、IT業界に限らない、全産業。さらには、自ら会社を作り、経営していく人材の輩出も目指すという。
「ここ20年間で、どの産業でもICTが使われるようになり、各業界でICTの知識を持ってビジネスを切り盛りできる人材の重要性が高まっています。そこに応えていきたい。高校生にも、情報通信技術を学ぶというよりは、ICTをベースにしてビジネスを学ぶ学部だよと説明しています」。
4年間のカリキュラムは、おおまかに「1・2年次に情報と経営、英語をがっつり学び、3年次に半年間インターンシップに行き、戻ってきたら起業に向けて取り組むという流れ」と中村学長は話す。大きな特徴は、「産学連携」と「全員起業」の2つだ。
「ほとんどの学習は、具体的な産学連携のプロジェクトを進めながら学ぶ、プロジェクトベースの形で行います。連携する企業は200社超。専任教員も8割近くが産業界出身で、産業界を中心に200人超の客員教員も迎えます。また、3年次の全員必修のインターンシップは計640時間。システム開発や保守等を行うようなIT系企業と、ICTを用いて経営企画や商品開発等を行うような企業の計2社に行きます」。
「全員起業」については、起業のための知識やスキルを学ぶ必修科目「イノベーションプロジェクト」を1年次から4年次まで設け、学生全員が4年間かけて起業を目指すこととしている。中村学長は、「失敗を含めて、起業のプロセスで学ぶことは大きい」と期待を込める。
「魅力的なアイデアやビジネスプランを描いても、そのプロセスでうまくいかないこと、例えば、投資家からの評価を得られない、スタッフが集まらない、やっと起業してもお客さんが来ない、といったことはたくさんあります。そのつまずきや失敗こそ学びのタイミング。全員がもうかるビジネスを立ち上げる必要はなく、社会や地域の課題を解決するNPOを立ち上げたり、そのためのアプリを作ったりと、内容や規模の大小はいろいろあっていいと思っています。全員が起業した結果、目指すは『就職率0%』でいきたい」。
支援体制として、専任教員と職員が2名1組となり、「イノベーションマネジャー」として個々の学生をサポートする体制を整えるとともに、独自の事業により起業資金の調達を担う「i株式会社」も設立したという。こうしてイノベーションを起こせる人材を育成しながら、「学校や学びに携わる人々をつなぐコミュニティーのハブとなり、学校発のムーブメントを作っていきたい」と将来像を描く。
『超学校』で大学発のムーブメントを起こす
「1学年200名の小さな大学なので、iU単独でできることはとても小さい。だからこそ、私たちが『超学校』と呼んでいる、チャレンジする学校や学部、研究室、教員をつないだコミュニティーを作り、iUがハブとなって大学発のムーブメントを作っていきたいですね。既に、起業とeスポーツの分野について、複数の学校と連携の話を進めています」。
iUが掲げる建学の精神は、「変化を楽しみ、自ら学び、革新を創造する」。「変化の仕方は予測できないものの変化することだけは確実に分かる時代に入ったこれからは、自ら学び続けることによって変化を楽しめる人しか生きられなくなる。iUでの4年間を通して、世の中に出ても学び続けるくせをつけることで、革新を創造する人になれる」と話す中村学長。その大きな挑戦に期待したい。
(文 浅田夕香)