【専門職】地域創生の要として地域社会で活躍するセラピストを養成する/高知リハビリテーション専門職大学

高知リハビリテーション専門職大学キャンパス


小嶋 裕 学長

 高知リハビリテーション専門職大学(以下、高知リハ)は高知県土佐市で開学した専門職大学だ。1968年に開学した高知リハビリテーション学院を前身とし、古参の理学療法士(PT)養成機関として全国に人材を輩出してきた50年もの歴史を持つ。制度初回の認可申請において、保留なしでストレート認可された唯一の学校である。その設置趣旨を振り返りつつ、開学後の状況を小嶋 裕学長にうかがった。

従来からの四大化志向がもたらしたアドバンテージ

 専門学校を専門職大学に改組した理由は、制度設置趣旨でもある「豊かな創造力と高度な実践力」を持つ医療人材を養成するためだ。リハビリテーション職は欧米では修士以上の高度専門職化が進んでおり、そうした国際水準に合わせるべく、学院時代から四大化志向が強かったという側面もある。四大化を見据え、従来から教員は大学設置基準上で必要な研究実績を重ね、今や全体の2/3が修士以上のキャリアを持つ。だからこそ、今回の申請に当たっても教員を公募せず、既存のリソースと伝統に裏打ちされた人脈や紹介等で揃えることができたという。また、施設設備も大学用に設計し、2014年には図書館も造っていた。初回審査で苦戦した学校が多かったといわれる教員審査とファシリティにおいて、早々に着手していたアドバンテージは大きかったことだろう。

地域創生に資する人材を養成する

 もう一点、四大化志向が強かった理由には県の状況もある。2019年学校基本調査によると、高知県の最新の大学進学希望者は2436名、県内残留率は24.2%。これは県内に大学が5校(2020年4月現在)しかないことも要因の1つである。高等教育の過疎地域は人口減少と少子高齢化が同時進行しているエリアだ。新たな大学の誕生は歓迎される動きであろう。

 高知リハの場合、土佐市からは「地域実践」「地域連携」「地域貢献」の3つの観点で地域創生を担うことを期待されているという。「地方大学として、地域創生は外せない輪です」と小嶋学長は言う。

 では、地域で実践・連携・貢献を担うためにどのような人材養成を行うのか。小嶋学長は、「従来のリハビリテーションのスペシャリストにゼネラリストという観点を入れたい。専門的技能を持つだけでなく、全体を俯瞰し、マネジメントや調整を担える人材を育成したい」と話す。そのために大きな役割を果たすのが展開科目だ。

 理学療法学(PT)専攻では、子どもから高齢者まで幅広い年代における健康課題解決力とマネジメントに関する基礎知識を養う目的で、健康課題の理解(生涯スポーツ論、学校保健論)、組織における事業運営の理解(企業論、経営組織論)、事業の発案・実行の理解(データ分析論、起業論)等を配置した。作業療法学(OT)専攻は、障害のある人や高齢者等の生活課題に対する解決力、自立生活支援のための新たなサービスや機器開発等ができる創造力を養うため、地域の特性理解(土佐地域資源論)、対象者への教育と支援技術の理解(特別支援教育論)、社会課題への解決手法の理解(ロボット技術活用論)、生活を支えるサービス等の理解(地域生活とサービス)等を置いた。言語聴覚学(ST)専攻は、社会の情報化に伴うコミュニケーション手段の変容を背景に、言語理解が困難な人のコミュニケーション課題解決のため、地域における情報の理解(広告論)、情報伝達の手法の理解(情報メディア学入門)、情報の表現方法の理解(マンガ基礎実習、カラーコミュニケーション概論)等を配置した。

 カリキュラムの全体構成は、PT専攻を例として図表に示した。教育目標に合わせて4つの科目区分を構成し、体系的にカリキュラムを編成している。

データサイエンティストカリキュラム全体図

専門職大学化に伴う学生の質の変化

 開学後の状況について、小嶋学長は「学院時代よりも目的意識がしっかりした、コミュニケーション能力が高い学生が多いように思う」と話す。入試により基礎学力が担保されていることから教育の吸収が速く、また地域で医療職として働くことへの覚悟がしっかりある学生が多いという。

 しかし2019年の定員充足率は88%、2020年は80%と、開学以降2年連続で定員割れだ。この要因について、小嶋学長は前述した高知県の人口動態や県外流出率に加え、制度を含めた学校の認知や業界の実態認知が低い現状を挙げる。「高校進路指導の現場では未だに専門職大学を知らない先生もいる。また、リハビリテーション人材がまだまだ不足しているという実態もあまり知られていない」。とはいえ、兆しもある。一期生と二期生を比較すると、県外生は10%から20%に増加した。募集圏は主に四国内であり、「もっと本州から来てもらえるようにしたい。将来的には入学生の1/3は県外から欲しい」と小嶋学長は期待する。根拠は、県内の他大学の入学者の7割は県外からの進学であることだという。なお、高知県の18歳人口は、2019年6585名から2031年には5243名と約2割減少する。大幅な人口減少を前に、県外からの募集導線を確保しておくことは重要だ。

 また、それ以外の属性にも変化が見られた。一般入試合格者は昨年10%から今年18%に増加し、相対的に高学力層が増加した。学科ごとの男女比はPTが男子6:女子4のままだったのに対し、OTは6:4から3:7に男女比が逆転し、STは4:6から2:8と、女子比率が一層高まった。

病院ではなく地域社会で活躍する人材輩出を

 これまでに専門職大学で設置が義務づけられている教育課程連携協議会を2回実施し、医療職だけでなく自治体関係者等からも幅広く意見を聞いた。「大学を取り巻く様々な観点からセラピストに期待することの多様さに刺激を受けた」と小嶋学長は微笑む。特に、単なる医療従事者ではなく、より俯瞰的に物事を見て、積極的に社会に関わることができるセラピストへの期待が高いという。「今までは病院での勤務が主たる卒業後の進路でしたが、起業や行政で地域に働きかける立場も考えられる」。疾病予防や健康増進の領域も含めて診ることができるような、ライセンスを持って地域で活躍するセラピストを育てたいという。「まずは完成年度を迎えて社会的評価を受けるまで教育を磨き続ける」と小嶋学長は締めくくった。新しい教育が地域に根付き、地域の健康医療の要となることを期待したい。



(文 鹿島 梓)



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