【専門職】学生一人ひとりの情熱を軸に理念に誠実な教育を展開/国際ファッション専門職大学

国際ファッション専門職大学キャンパス

修学キャンパスは新宿・大阪・名古屋の各駅前に立地


 国際ファッション専門職大学は、学校法人 日本教育財団により2019年開学した専門職大学だ。その根底にあるのは、「これからのファッションは今までにない学びが必要」という危機感である。

近藤誠一 学長

 ではファッション業界では何が起こっているのか。元文化庁長官で国際交流・文化芸術に造詣が深い近藤誠一学長は、「高い専門知識のみならず、それらを歴史的・国際的流れの中で位置づけできる深い教養が必要になってきています」と話す。強調するのは「コンセプトメイクする力」だ。「現在、国際社会では一元的な価値体系を重んじる動きがあります。それはとても便利ですが、そもそも多様な世界の在り様を1 つの枠で測るのは不可能であり、個性が損なわれてしまう。ファッションや芸術がそうした潮流に染まることがないよう、我々は強い危機意識を持っています」(近藤学長)。その対極にあるもの、人によって異なる感性、地域ごとの特性、スピードや標準化により駆逐されてしまうオリジナリティーこそがクリエイティブの源泉であり、国際競争力になるという。一方で価値観やライフスタイルの多様化から、人々が求めるものも変化しており、単に機能優位だけでは選ばれない時代。背景にあるストーリー、美しさ、想い等で商品価値が示される。今こそオリジナリティーに目を向け、個々の特徴を抽出するコンセプトワークのスキルと、自ら創る技能を併せ持つ人材が必要との課題意識から設計したのが、国際ファッション専門職大学だ。コンセプトワークとは、多様な価値があるなかで、どう筋道をつけて何を立てていくのかを定義できる力。服を創るだけではなく、その先へ。それが大学全体のコンセプトだ。

多様性を基盤に自らの情熱起点で学修を磨く

 近藤学長は、ファッション業界で活躍するために必要な要素を「情熱」と言い切る。重視するのは学生の多様性だ。「教育とは知識を教えるのではなく、いかに人間として有意義に生きていくかを教えるものです。学生一人ひとりが持つ情熱に起因した潜在能力を引き出すことが、やりがいのある人生を創ることにつながる。我々は個人のモチベーションを最大化するためのカリキュラムや指導体制を揃えていますが、学びの起点となるのは各自の情熱です。それがなければ芽は出ない」(近藤学長)。

 カリキュラムでは理論と実践の接続を重視し、1年次から演習科目を配置。3年次からは全員国内外の実習・インターンシップが必須である。国内外のファッション企業・ブランドと提携し、業界人が教授として指導・講義する機会が多く、業界最先端のトレンドや状況に見聞を広めることができる。そのほか、ファッション業界に特化した実践英語、最新のデジタル機器を用いた作品制作、映像等のメディア技術を活用した展開学習も実施する。展開科目では発信力を高めるための科目群と、海外実習や国際知財論といった国際科目群に加え、文化人類学を多く取り入れた。物事のルーツから現状の所以を明らかにした上でコンセプトワークを行う力を養成する。

カリキュラム概念図

豊かな教育実践と明確なカレッジレディネスで理念共感型のコアファンを獲得

 開学1年が経過した現在の状況を聞くと、「試行錯誤中ですが、概ね期待以上の教育ができている」と自信を滲ませる。一期生は認可答申から入試開始までの期間が約2週間程度と非常に短いなか、構想中広報でしっかり募集母集団形成を行っていたことが奏功し、定員を充足した。二期生も募集は順調だという。志願者の大半は大学の理念に共感したコアファンでモチベーションが概ね高いようだ。

 コアファン獲得には2つの理由がある。1つは業界ニーズに裏打ちされた理念が、高い志を持つ受験生の心を掴んでいること。特に先輩である一期生の口コミが強く、それに憧れる層を引き込んでいるという。こうした情報の伝播は、制度理解が遅れている専門職大学制度のリアリティを内外に示す意味合いも強い。もう1つは全ての入試設計において、3つのポリシーと理念の説明会を参加必須にしたうえで、「情熱」を深掘りするプロセスとして面接を入れていることだ。学生によっては「自分のブランドを作りたい」と意気込む人もいれば、漠然とファッション業界で働きたい人もいる。それもまた多様性だという。「多様性があることで学生同士の刺激になる。自分の道を追究するうえで学び合えるのが大事です。だから、一人ひとりの事情に合わせた指導が必要となる」(近藤学長)。そのため、1クラス40名の担任制で、担任はきめ細かい指導をしつつ、学生が自分で問題を見つけて自分で問題を解決していく自立心も涵養するようサポートする。

教員の意欲と満足度がファンづくりの循環の起点

 学修成果の可視化や情報公開の必要性が叫ばれて久しい。専門職大学も例外ではないが、近藤学長は、そうした命題に仕組みばかりを求めがちな風潮をやんわりと否定する。「本学の理念を正しく理解し、そのために自分の持ち場で何ができるかを、教職員それぞれが考えています。理念に沿った良い教育コンテンツを提供し、それを受け取った学生がシェアしたいと自然に思ってSNS等で発信するという流れができている。学修成果とは学生の成長であり、奇をてらわず良い教育を提供することに労力を投下することで、ある意味勝手に良さが伝播していく。そういうものだと思っています」(近藤学長)。これは広報をやらなくてよいという話ではない。良い教育が良い成果につながり再び教育改善の方策につながるという有機的な循環を創るには、大学が目指す理念に照らして各自がどういう役割を果たすのかを逐一教職員が意識することが大事だという。「だから教職員の意欲を高めることが成果につながる。それが100%形になって学生に伝わる」と近藤学長は言う。こうした必ずしも制度で担保できるものではない強みがあるからこそ、理念に誠実な教育展開が可能なのであろう。

 開学1年を経て、現在近藤学長は全教員の面談を実施している。「密なコミュニケーションで現場の課題を掴み、より良い雰囲気を作っていきたい」。今後については、「さらに教育に磨きをかけていく。コロナショックのように予測できないことが起こる可能性は常にあるので、揺るがずに本来の目標に向かっていきたい。多様な体制だからこそ環境変化に対応できるはず」。近藤学長の声は明るい。



(文 鹿島 梓)



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