Web Open Campus “Connection”の立ち上げと総合型選抜Ⅰ期のオンライン化/実践女子大学

実践女子大学キャンパス

POINT
  • 1899年下田歌子が創立した私立実践女学校・女子工芸学校を起源とする女子大学
  • 文学部、生活科学部、人間社会学部の3学部9学科と短期大学部2学科を日野・渋谷の2カ所で展開
  • COVID-19の影響が大きい2021年度の募集プラットフォームとしてWEB上にオープンキャンパスサイトを構築、総合型選抜Ⅰ期のオンライン化を発表


実践女子大学(以下、実践)はCOVID‐19対応の一環で、総合型選抜Ⅰ期のオンライン化を発表した。また、春からWEB OCサイトも新設し運用している。その趣旨や具体的な方法について、学生総合支援センター副センター長の上原信幸氏にお話を伺った。

学生スタッフが主導し高校生目線に立ったWEBコンテンツ構築

 コロナ禍において主たる学生募集活動の場がオンラインとなり、各大学様々なコンテンツを整備しているが、実践ではオンラインの情報プラットフォーム『Web Open Campus Connection』を3月から立ち上げた( 【外部リンク】実践女子大学『Web Open Campus Connection』https://www.jissen.ac.jp/admission_guidance/online_open_campus/index.html )。高校生目線に立ち動画を多く配置しつつも、様々な動画サービスをリサーチし、「基本的に動画は長時間見られない」という前提でコンテンツを設計した。「一般的に見られている動画は短いものが多い。その分掲載できる情報は少なくなるため、動画は惹きつけて誘導するためのガイド、動画以外は詳細説明と役割分担を割り切り、ありものも活用して情報を交通整理するように心がけました」(上原氏)。その工夫は随所で見られる。例えば「1分でわかる!」学科説明の動画はもともとある学科ページを集約して作成したサマリで、それをガイドとして自分がもっと知りたい箇所があれば学科ページに遷移する。こうしたハブとなるランディングページを張り巡らすことで、各詳細ページに流入する層が大きく増えたという。

 コンセプトは「学生が作るウェブサイト」。実践ではOCを中心に様々な場面で活躍する数百名規模の学生スタッフ集団「J-STAFF」がおり、「学生目線で等身大の情報を伝える」ことを大切にしている。OCでキャンパス案内や受験生の相談に応じるのにも、ウェブコンテンツを作るのにもJ-STAFFが関与する。大学側で情報チェックはするが、学生の主体性を尊重しているという。

 短期大学部を含めると1学年の定員が1100名の実践にあって、数百名規模の学生集団があることの意義は大きいだろう。スタッフの中には自分が受験生の時にOC等でJ-STAFFと会って憧れを抱き、入学後立候補した等、貢献意欲が高い学生が多いという。女子大は特に、ロールモデルたる学生集団を作っておくことで接点を持った志願者の親和性とともに志望度が上がり、連鎖的にマッチングされていく傾向が強いように思う。

 ウェブの更新頻度は概ね週2回程度。J-STAFFのコアメンバー24名と、束ね役の若手職員2名で週に1回ミーティングを実施し、企画や進捗確認等を行っている。いくら学生側が意欲あふれる集団だとしても、具体策で成果を出すに当たっては、設計する職員側に推進者がいるかどうかが大きそうだ。

 5月からはオンライン進学相談も開始している。HPからの事前予約が必要で、学科の違い、授業内容、自分に合う入試方法等、相談内容は多岐に渡り、平日は毎日、相談1件につき在学生1名と職員1名で30~60分ほど応対する。ここでもJ-STAFFが活躍するわけだ。オンラインでコンテンツを一方的に配信するだけではなかなか上がらないであろう志望度合いを、リアル並みのコミュニケーションにより担保しているのである。

 今後は大学としても社会接点を重視した連携学習に力を入れていく予定で、そうした情報も積極的に世に出していきたいという。そうした情報発信の基盤がコロナ禍で一気に整備されたのは大きいことだろう。


実践女子大学オンライン進学相談バナー


学科ごとのアドミッション・ポリシーを活かしたオンライン上の入試設計

 次に、総合型選抜Ⅰ期のオンライン化に話を移そう。

 総合型選抜Ⅰ期の出願は、文部科学省の入学者選抜実施要項に準拠し、9月15日開始。学科ごとに内容は異なるが、概ね1次試験は書類審査、2次試験はオンラインでの面接やディスカッションという、フルオンラインでの2段階選抜だ(図1)。その趣旨について、上原氏はこう話す。「もともとAO入試で学科ごとに特色ある選抜方式を展開していたのがベースです。オンラインで対応しやすい手法に変更したりはせず、アドミッション・ポリシー(AP)に基づき対面で設計していたものを極力そのままオンラインに置き換えました」。オンライン対応というとオンラインの適性が高そうな評価方法に変えることも考えがちだが、ポリシーと選抜の一貫性を崩さないことを選んだ。方法論で新規のやり方を模索しつつも、「入試において最も大事なのは学科ごとのAP」と言い切る。


図1 総合型選抜Ⅰ期 学部・学科ごとの評価方法概観

図1 総合型選抜Ⅰ期 学部学科ごとの評価方法概観


 実践では学科ごと・入試ごとに評価要素を整理し、マトリクスを公表している(図2)。学科ごとに求められる学力の3要素を整理し、どの選抜方式でどの能力を重視するのかが整理されているのだ。こうした基盤がぶれないように手法を選択しているという。


図2 入学者選抜ごとに評価する学力の3要素マトリクス(食生活科学科の場合)

図2 入学者選抜ごとに評価する学力の3要素マトリクス(食生活科学科の場合)


 通常、入試設計は入試対策委員会が主体となる。構成員は各学科の代表2名と入学支援課、入試担当理事。今年度のコロナ禍対応については4月初旬時点で事態の長期化や第二波・第三波への警戒からオンライン検討が始まり、入学支援課で素案を提示し、学科で検討し、「オンラインでの面接・ディスカッションが本当に有効な形で実施可能か」といった方法論や配点まで議論し、ブラッシュアップしたという。

 上原氏はこの状況を大きな「機会」として見ている。「高校や生徒が大変な状況で、それを支援することが地方からも受験できる体制作りにつながる。しかも今年であればチャレンジは必然であり受け取られ方もポジティブです。不謹慎かもしれませんが、既存の偏差値序列によらないブランディングの機会としても現状を捉えています」。

 オンライン化というと問題としてよく挙がるのは「個人情報流出」「カンニング」の2点だ。しかし上原氏は「本学はZOOMを利用していますが、事前の設計や準備などを適切に講じることで個人情報に対する配慮をしたうえで、限りなく試験会場に近い環境を作ることは可能です」と言う。ただしそのためのシミュレーションは丁寧に何度も実施し、混乱のない入試になるように気を張っている。またカンニングについてもこう話す。「カンニングを防止するという観点では厳格な設計・運用を行わなければいけない。しかしながら、語弊があるかもしれませんが、0.1%の可能性のために地方から受験できるという機会を奪ってしまうことのどちらが大事なのか、という天秤ではないでしょうか。もちろん0.1%を0にするための努力は最大限怠らないけれど、そこでそもそもの目的に立ち返るバランス感覚が大事かと思います」。

自己肯定感を高めるサイクルを大学で構築し、自分の人生を主体的に考える人材を育成する

 入試はゴールではなく大学教育の入口である。では、実践だからこその提供価値とは何なのか。その問いに、「学科を問わず、学生の自己肯定感を高めて社会に出したい」と上原氏は話す。実践が掲げる教育理念は「品格高雅にして自立自営しうる女性の育成」であり、社会で活躍するために必要な知識・技能・態度を身につけることを重視している。日々の学習でそれが身についているのかをPROGテストで定期的にアセスメントし、自分の人生を主体的に考えていくように促していく。「幸せになるための方策を自分で講じられる女性を多く輩出したい」、そのためには成功も失敗も経験して自己肯定感として蓄積していくこと、その中で自分を客観的に見るメタ認知能力、今後の志向性を培う社会接点等が大事だという。大学としてそうした仕組みを整えながらも入試は多様性を確保し、「一人ひとりの個性を最大限伸ばしてあげられるようにしたい」と言う。

 女性の人生における先輩でもあるJ-STAFFが活躍する広報でそうした流れが強化され、新しい方向性に即した施策を推進する大学として、実践のブランド力が向上していくのに期待したい。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/8/4)