地域課題である健康にスポーツの観点から向き合う/名古屋学院大学 スポーツ健康学部

名古屋学院大学キャンパス

POINT
  • 1887年に米国プロテスタント・メソジスト教会の宣教師フレデリック・C・クライン博士が創設した名古屋英和学校を起源とし、1964年に開学(経済学部経済学科)した大学
  • 「敬神愛人」を理念とし、2020年現在、8学部11学科の教育を展開
  • 2010年人間健康学部人間健康学科を改組してスポーツ健康学部を設置し、今年で学部創設10周年を迎えた


名古屋学院大学(以下、NGU)は2010年にスポーツ健康学部を開設し、2020年に10周年を迎える。当時の設置趣旨や最近の動向について、齋藤健治学部長にお話を伺った。

人間健康学部からコンセプトを分けて誕生したスポーツ健康学部

 スポーツ健康学部の元となったのは2006年開設の人間健康学部人間健康学科である。学科のコンセプトとして「心、体、社会の健康」を掲げ、そのコンセプトに即した3コース(心理、健康・スポーツ、福祉)を展開した。「人間健康」という名称も珍しかったためか高校には中身が伝わりにくく苦労したというが、「コンセプトとしては普遍的に現在でも通用するものでした」と齋藤学部長は当時を振り返る。

 2010年に人間健康学部を改組して生まれたのがスポーツ健康学部とリハビリテーション学部の2学部である。スポーツ健康学部は従来の「知育・徳育・体育」といった概念からの脱却という潮流にもマッチし、注目を集めた。スポーツ・運動による健康維持促進作用に異論を挟む人は少ないだろう。「スポーツの切り口から健康にアプローチする学部としたことで、より分かりやすくなったと思います」と齋藤学部長は言う。

 また、健康スポーツにはスポーツ系学部を設置するに当たってのマーケティング的な側面もあった。「大学スポーツで競技力が高い大学であれば、それを科学する学部を構築する方向性は自然な流れです。名古屋には中京大学がある。スポーツ系の学部を開設するうえで当然視野に入りますが、中京大学と伍するにはNGU独自の特色づけが必要。当時はそれがスポーツ健康だった」と齋藤学部長は言う。

スポーツ健康に関する高い専門性を背景に多様な領域でリーダーとなる人材を育成

 では、2学科それぞれの教育内容を見ていこう。

 まず、スポーツ健康学科は、「卒業後に多様な職域において健康維持・増進、疾病予防、生涯スポーツ、スポーツ健康教育等を推進する役割を担える人材」を想定し、中学校・高等学校の教員免許状(保健体育)取得や、スポーツリーダーやレクリエーション・インストラクター、健康運動実践指導者といった民間資格取得や受験資格を得ることができる。カリキュラムは、哲学、社会学、行政学、教育学、スポーツ生理学、バイオメカニクス、トレーニング論、コーチング論等、多岐に渡る領域が網羅され、自ら実践力を磨く意味で演習・実習、さらに実技科目も20科目配置されている。体現者でもあり指導者でもある人材の育成に必要な要素を盛り込んだ教育プログラムだ。SA(スチューデントアシスタント)制度により授業の補助等でも学生が活躍するほか、地元中学校の体育授業の補助やスポーツ指導、地域イベント等にも積極的に参加する等、授業外での活動も多いという。

 一方でこどもスポーツ教育学科は、「幼児・学童期」に絞った教員養成の学科だ。こどもの体力低下等が叫ばれるなかで、こどもを取り巻く環境に特化した専門家養成の必要性から2015年誕生した。「こどもの成長や遊び・スポーツについての科学的な専門知識をもとに幼児期・児童期を支え、スポーツが大好きなこどもを増やして生涯を通じた健康増進につなげたい」と齋藤学部長は言う。こども達に運動の楽しさを指導しながら成長を見守る「先生」の育成をカリキュラムの主軸とし、小学校教諭1種・幼稚園教諭1種の教員免許状取得が可能で、保育士資格の取得も支援する。NGUでは、それぞれに係る教育実習を、体験学習+本実習という二段階で構成しており、図1にあるように、4年間通じて現場の空気や課題を肌で感じる機会が多いのが最大の特徴である。


図1 4年間の実習(こどもスポーツ教育学科)
図1 4年間の実習(こどもスポーツ教育学科)


活力ある人材育成で公務員を含む多様な領域に人材輩出

 就職についてはどうか。スポーツ健康学部は就職決定率が100.0%(2019年度実績)。大手新聞社の調査では、企業人事部から見て「対人力」「コミュニケーション力」について評価が高いという。「愛知県内の企業関係者からは『NGUの学生はガッツがある』と評価頂いている」と齋藤学部長は言う。またNGU全体で2019年度教員採用実績が35名であるところ、その8割がスポーツ健康学部であり、公務員採用実績では全体39名のところ、うち3割を占める。これは法学部と並んで高いスコアであり、過去5年間の傾向としても同様のことが言えるという。民間企業への就職について盤石な評判を維持することに加え、教員や公務員の割合を増やしていくことは1つの大きな方向性だ。齋藤学部長は、「高校生にとって安定的な職業というイメージの強い領域へ人材を輩出している事実は好印象につながる」と言う。同時に、「スポーツを通じて身につけた専門知識や行動力を多様な領域で発揮していってほしい」とも続ける。高校生に人気の職業も含めた幅広い分野に活力ある人材が輩出できているということが何よりも大事なのである。


スポーツ健康学部の様子


中長期的な視座で捉える瀬戸キャンパスの顔つき

 NGUは2014年に大学50周年を迎えた際、中長期計画「Look Forward 2014-2023」を策定した。多岐に渡る課題認識のなかには「女子学生を取り込むこと」「時代や社会ニーズに応えた学部学科構成に再編成」といった文言もあり、なおかつ「新設の学部学科については高校生、とりわけ女子に訴求力のあるものとする」といった文章がある。これは2015年設置のこどもスポーツ教育学科開設の際も考慮された点と思われる。また、「瀬戸キャンパスの有効利用」という文言も見受けられ、キャンパスとして学生募集の訴求力を強化する時期であることがうかがえる。

 こうした点について、齋藤学部長はこう話す。「NGUは地域に貢献するための大学です。大学として生き残るには、地元中京圏域から切っても切り離せない存在であることが重要。そのためには、これまでの地域連携事業を強化・拡大していく必要があります。スポーツ健康学部も当然その文脈の中で、地元瀬戸市と連携した事業を多く展開していきます」。地域連携キャンパスとしての顔つきをより強くしていくのが瀬戸キャンパスの方針だという。事実、NGUは「プロジェクト&N」という躯体で、名古屋・瀬戸両キャンパスで地域活性化・観光推進・減災等、様々な地域連携事業を行っている。そうした事業を背景に、「瀬戸市とのタイアップでスポーツ健康をベースにした地域交流をもっと増やしていきたい」と齋藤学部長は意気込む。地域が抱える課題に対して学生を派遣することで解決への糸口を探り、同時に学生にとっても現場に出ていくことはトレーニングになる。そうした接合点を多く配置することで、地域とwin-winの関係を築き、大学の発展につながる。地域課題である健康にスポーツの観点から向き合う。それがNGUスポーツ健康学部の使命なのである。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/9/8)