最先端の環境でクリエイティビティとプロデュース力を併せ持つAIエンジニアを育成/日本工学院八王子専門学校

日本工学院八王子専門学校キャンパス

POINT
  • 1947年創設の各種学校創美学園を起源とし、東京工科大学、東京工科大学大学院、日本工学院専門学校、日本工学院八王子専門学校、日本工学院北海道専門学校、片柳研究所、東京工科大学附属日本語学校を擁する大手学校法人片柳学園が展開
  • 社会のニーズと学生の希望に対応した独自の職業教育を行い、“ものづくり力”を持った技術者を育成するとともに、各分野で活躍できる「専門力」「人間力」「創造力」を併せ持つ真のプロフェッショナルを育成することを目的とし、現在6カレッジ34学科による多彩な教育を展開
  • 「理想的教育は理想的環境にあり」とのコンセプトのもと、緑豊かな広大なキャンパスに最先端施設を多数抱える
  • 2020年4月ITカレッジにAIシステム科を新設し、80名が入学


日本工学院八王子専門学校は2020年ITカレッジにAIシステム科を設置した(蒲田校も同時設置)。その設置趣旨についてITカレッジ長の兒島正広氏にお話を伺った。

Society5.0を支えるAIシステムエンジニアを育成する

 設置の直接的な背景としては政府の掲げるAI戦略がある。兒島氏は、「年間25万人育成目標という中で専門学校もその使命を担う必要がある」と話す。AIシステム科で掲げるのは「AI活用プロデュース(価値創造)」。AIを活用して世の中にない新しい価値創造を担う人材だ。現代はAI第3次ブームと言われ、AIが社会全体に普及・実装される段階であり、日常的な活用の必要性が高まっているが、まさにそうした「活用」における人材が不足しているのが実情だ。「専門学校は専門技術者の育成にこそ存在意義がある。本校はITカレッジの中でAIをITの切り口から見ています。ITは時代ごとに新技術が登場し、それが普及する兆しが見えた時に機を逃さず実装推進していく必要がある。必要性が高まった技術をITの切り口でシステムに取り入れていく、今ならAIシステム開発の必要性が高まっている状態。技術をツールとして利活用するための推進人材が必要です。ユーザーとして使い方を知っているだけではなく、活用を前提にした製作も手掛けられる人材、単なる受け身ではなく設計できる人材が求められます」(兒島氏)。具体的にはAI・クラウド・IoTといった技術に通じたAIエンジニアということになる。

 こうした問題意識に支えられ、学科設置の構想は2018年に始まった。検討委員会は校長、副校長、蒲田・八王子両校のITカレッジ長、同法人東京工科大学のコンピュータサイエンス学科の教授等で構成された。

創造力とプロデュースを養うカリキュラムの3本柱

 では、具体的な教育内容を見ていこう。AIシステム科の教育は3本柱から成る。

 まず、Technologyだ。クラウドやWeb、IoT等でAIを活用し、新しいものづくりを行うことができる力を身につけるため、AI技術とITスキルをバランス良く習得するための科目群である。次がHumanityで、学んだことを実践する「体験型プロデュース教育」によって、アイデアや発想を生み出すクリエイティビティを培う。最後がSocietyだ。社会や業界を知り、コミュニケーション能力、提案力、プレゼンテーション能力を身につけることで、社会やビジネス課題を解決できる力を養う。こうした3つの思想のもと構成されたカリキュラムで、開発のみならず社会実装に至るまでを網羅した人材育成を行う(図参照)。「目指すは実践的ITスキルとともに、AIを利用したソリューション(解決)だけに留まらず、新しくイノベーション(革新)を行うことのできる創造性や、プロデュース能力を兼ね備えたAIエンジニアです」と兒島氏は言う。

 なお、卒業後には同法人内併設校の東京工科大学に編入できる制度を設置しており、さらに学びの幅を拡げる可能性を支援する。より進路の選択肢も増えるほか、最短4年間で「専門士」と「学士」を取得することも可能である。


図 育成するスキル構成と社会実装までの学習
図 育成するスキル校正


図 AIを使ったサービスモデルができるまでを学習


理想的教育は理想的環境にあり

 AIシステム科の学生が主に学ぶ場は、キャンパス内片柳研究所棟14階に開設したAI実践センターだ。AI実践センターは、持続可能な社会の実現に向けてSociety5.0を推進する人材を育成する教育環境として整備された。特徴として、学内外とのコラボレーションや実践、オープンな勉強会等を行うコワーキングスペースを設けていること、「感性」を可視化する最先端のAIルームを教材として備えていること、創造性・課題解決力を養成することに主眼を置いた空間の作り方等がある。「単にAIやITの技術を学ぶ実習室ではありません。発想力を刺激してアイデアの創出を促し、AIを既存のテクノロジーと組み合わせて、うまくビジネスに生かせるスキルを持った人材の育成を目的にしています」と兒島氏は言う。

 日本工学院は「理想的教育は理想的環境にあり」とのコンセプトのもと、様々な教育設備を整備している。学内のリソースに拘らず広く視野を持ち、自由に組み合わせて価値を創出するマインドを培うには、環境の役割が大きい。「従来のように過去の経験から正解を得るのではなく、正解のない問いにチャレンジすることが求められる。正解を覚えるのではなく、正しさを定義するところから思考し、自ら探究するスタンスが必要です」。こうしたスタンスをいかに獲得させるか。「授業の形式に囚われず、教室から飛び出したり、学生自身が企画したり、横断的にコラボレーションしたり、自由に学ぶ中で当事者として探究する姿勢が培われる。この施設がその一助になればと願っています」(兒島氏)。具体的な課題に取り組む中で、当事者意識を持って考える、プロトタイプを自作してたくさん失敗するといった経験を多くさせたいという。「我々はものづくり教育を大事にしています。単に覚えるだけに留まらず、実際に手を動かし、トライアンドエラーを通じて学習が楽しいものだと感じてほしい」と兒島氏は言う。そのため、AI実践センターは学生にとっておもちゃ箱となるようにデザイン・設計されているという。「AI教育というと、PCの中で設計して分析するようなイメージがあるかもしれません。もちろんそうした側面もありますが、重要なのはその実践であり、具現化です」。コミュニケーションや生活を下支えするAIを実感する場としてAIルームを設置。技術の活用実装とはどういうことなのかを理解したり、学生の感性を刺激したりするために、教育環境整備を怠らないのは学校の責任だからだという。また、「今までのITの仕組みは人間の考える部分をサポートしてきたところが大きいが、感性をも支援できるのがAI。今までシステム化できなかった部分がAIによって可能になってきている。そうした可能性を感じてもらえれば」と兒島氏は意気込む。他学科の学生も使用できる施設のため、AI他の要素というコラボレーションを想起しやすいのではないかという。


AI実践センターの様子(左は全体の模式図)
写真 AI実践センターの様子

 多彩なカレッジを展開する総合学園だからこそ、AIと他学科について横断的な取り組みが多く展開されることが期待されるが、「AI実践センターを使っての取り組みはこれからだが、もともとカレッジ横断的な活動は多い」と兒島氏は言う。例えば、火星移住を想定した可能性を模索する“マーズプロジェクト”やパラパワーリフティングの大会支援等、具体的な横断・総合テーマのもと、アイデア出しやプロトタイプ制作、プレゼンテーション等を行っているという。今後、こうした実績と環境を多いに活用し、社会に新しい価値を示唆するAIシステム科の横断プロジェクトが多く創出されることを期待したい。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/10/13)