分野の職業教育に特化しAIエンジニアを育成する/日本電子専門学校 AIシステム科

日本電子専門学校キャンパス

POINT
  • 1951年設立の日本ラジオ技術学校を起源とし、無線技術士や通信士、情報処理技術者、コンテンツビジネス関連職等、時代や社会のニーズに即応した技術者育成を長年手掛けてきた工業系専門学校
  • 現在はCG・映像分野、ゲーム分野、アニメ分野、デザイン分野、AI分野、Web・モバイル分野、ビジネス分野、情報処理分野、ネットワーク・セキュリティ分野、電気・電子分野の10分野に昼夜間部合わせて25学科を展開する
  • 即戦力となる知識と技術を修得したプロフェッショナルを育成する「職業教育」と、幅広い業界・企業で必要とされる社会人としての基礎力やコミュニケーション能力を養う「キャリア教育」の2つの軸で人材育成することを教育方針に掲げる
  • 2018年AIシステム科を設置し、日本で不足するAIエンジニアの育成を手掛ける


日本電子専門学校(以下、日本電子)は2018年にAIシステム科を設置した。その趣旨や背景について、AIシステム科学科長の福田竜郎氏にお話を伺った。

時代ごとのAI技術変遷に合わせて学科を設計

 前提として、AIの歴史的変遷を見ておきたい。第一次ブームは1950~60年代である。当時はコンピュータで「探索」「推論」が可能となり、特定の問題に対して一定の解を提示することができるようになる一方で、複雑な問題にはまだ対応できなかった。1980年頃の第二次ブームでは、特定領域の「知識」をコンピュータシステムに組み込むことで、高度な知識をベースにした「推論」を提示できるようになり、いわゆる「エキスパートシステム」の開発が進む。「知識」「推論」の組み合せにより高度な専門知識が必要となる複雑な問題を解くことが可能となったが、一方で実際に使われる活用の発想よりも学術的な要素が強く、エンジニアリングと乖離していた段階である。日本電子がAIシステム科の前身として1987年に設置した人工知能科は、この第二次ブーム時に設置され、まさにエキスパートシステム開発や自然言語処理の学習がカリキュラムの中心であった。無数にある理論的分岐処理に自然言語処理を加えることで、飛躍的に分析精度が向上した。こうした「実際の使用に耐える」システムが増加することで、理論とエンジニアリングがより近づいていく。そしてエキスパートシステムの土台となる専門的な知識収集についても1990年代インターネットの急速な普及により容易となり、知識そのもので勝負するシステムの有用性は薄れていった。

 時を経て、今や第三次ブームのさなか。その主軸はディープラーニングだ。それまでのAIが計算システムだったのに対し、ディープラーニングは入力データから機械が自ら特徴を抽出し、学習していく仕組みである。2018年のAIシステム科設置の背景には、2015年にGoogle社がベータ版を公開したTensorFlowやMicrosoft社のAzure Machine Learning等により、高度なスキルを持たない一般人でも容易にAIを使うことができるようになった状況がある。従来のAI研究開発は学術的側面が強かったが、各種ライブラリの開発とオープンソース化によりAIシステム開発が「お手軽」になり、普及基盤が整ったと言える。日本電子はこうした時代変化を捉え、より豊かな生活を求めてAI搭載システムが普及し、AIシステム開発のエンジニアが不足すると予想。ディープラーニングを中心にした機械学習を軸にAIシステム開発のエンジニアを育成する学科として、AIシステム科設置の検討がスタートした。「国が掲げるSociety 5.0で実現しようとする社会はAIが中心的役割を担い、超高齢化社会においてはソフトウェアの活用がポイントとなる」と福田氏は言う。

問題解決のためのAIシステム開発を行うためのカリキュラム

 AIシステム科で掲げるのは、「問題を解決するためにどのようなAIを用いるのかを選定し、知識・技術の両方を兼ね備えたAIシステムを開発するエンジニアの育成」である。カリキュラムは実習・座学を一体化し、取り扱うICTの技術要素を限定することにより深く理解する、理論と実践がバランスよく学べる内容だ。現在の教員体制は4名。技術進歩の早いAI技術に対応するために、システム開発・研究開発の経験者で構成されている。福田氏は言う。「AIシステムの開発やその品質を担保するには理論的な裏付けが必要。一方、理論だけで手を動かせないのでは現場で使えるエンジニアにはならない。だから本学はそのどちらも重視します」。

 なお、「課題発見そのものはどう磨くのか」という問いに対し、「特定の授業科目で育成する類の能力ではない」と前置きしたうえで、福田氏はこう話す。「2年間でAIエンジニアとなるための技術要素を絞り込んだカリキュラムを組んでおり、そのなかで何か1つのテーマを探究することで、課題に関する感度は自然に磨かれていくものと考えています。技術を使って楽しんで探究するなかで、当事者意識を持って取り組めるテーマを見つけ、それによって自然と視点が高く、感度が深くなり、結果、アナロジーにより他へも転用できると思います」。探究の果てに得られる視界。獲得できるかどうかは、2年間の過ごし方にかかっているということだ。


図 AIシステム科のカリキュラムと時間割
図 AIシステム科のカリキュラム

図 AIシステム科の時間割


AI大衆化時代のAIエンジニア育成ニーズ

 昨今大学でもAI教育は活況だ。リテラシーレベルの共通教育整備やAI関連学部学科の新増設等があるが、そうした流れとの大きな違いは、職業教育を主とする専門学校でAIエンジニアを育成する意義にこそあろう。福田氏は言う。「AIが大衆化によりあらゆる業種の基盤となるにはAIシステム開発のエンジニアが不足しており、かつエンジニアリング要素が多いため、専門学校の役割である職業教育の重要性は増していくでしょう」。

 AIにはロボティクスとソフトウェア、学術という3つのアプローチがあり、AIシステム開発に必要なのはソフトウェア・アプローチだという。「実際に社会で価値を出すことが起点です。ほかに先んじていち早くそうしたエンジニア育成輩出に取り組むことで社会に多くの価値を提供できると考えています」。

 入学生は6~7割が高校新卒、ほかに留学生、社会人、大学中退等。「技術者として世の中の役に立つものを作りたい」「新しいものを生み出したい」「新しい技術を身につけたい」といった意欲的な学生が多いという。そもそも高卒者がAI領域に興味を持つきっかけとしては、「スマホアプリやIoT家電、スマートスピーカー等で興味を持つ人が多い」と福田氏は言う。そうした段階から徐々に学びを深めていくと、自分の興味関心に沿ったAIシステム開発に乗り出すようになっていく学生が多いという。例えば、筋トレ好きが高じて筋トレによる効果をデータとして蓄積し、トレーニングシステムを開発したり、オーケストラで指揮者が特定の楽器の音色を聞き分けられることに着目して、音を分離させるシステムを作ったりする等。AIが活用された製品から分野に興味を持ち、その理論的背景や技術を学び、自分の興味と結びつけて自分なりのアウトプットを創出するに至るのだ。こうした学生の成長の有用性を示すように、一期生の就職率は100%。IT業界のみならず多様な業界へ人材を輩出した。

 今後については、「本科独自の教育ノウハウをはじめ、本校教員が執筆するオリジナル教材が充実してきたので、学外のコンペティションに積極的に参加する等、実践機会をもっと多く作りたい」と意気込む。多様な学生のバックグランドに配慮し、多様なニーズに柔軟に対応していきたいという。学生が多様だと各自に応じた難易度設計が必要なのに加え、探究する軸も個々で異なるため、学びの個別化への対応が必要となる。学校側は大変だが、こうした対応が等身大の課題意識を育み、実践力のあるエンジニア輩出につながるのであろう。人材不足領域における今後の人材育成に期待したい。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/10/6)