学園独自の「コミュニケーション力高い職業人材育成」に新領域で挑む/東京みらいAI&IT専門学校

東京みらいAI&IT専門学校キャンパス

POINT
  • 「技能と心の調和」を教育理念として全国に学校を展開する学校法人三幸学園が、64校目の専門学校として、2021年4月文京区湯島に開設
  • AIコミュニケーション科(2年制・男女・120名) を設置。2年次からAIプログラミングコースとAIクリエイターコースに分かれるカリキュラム
  • AI・ITという最先端技術領域において三幸学園の競争優位性をどう発揮するかに軸足を置いた教育コンセプト


三幸学園は2021年4月に東京みらいAI&IT専門学校を開設する。その設置趣旨と背景について、学園企画広報部の岡田裕哉氏にお話を伺った。

学園の社会貢献を具現化する企画広報部の存在

 三幸学園では新設分野・学科・コースの設計等を企画広報部が中心となって行う。一言で「設計」と言っても、そこには市場マーケティングや学校のブランドコンセプト立案、具体的なカリキュラム内容や校舎デザイン、申請書類の作成や学生募集に至るまで、実に幅広い業務が含まれる。世の中に新しい価値を創出する学園としての重要方策を、若手中心とした職員に積極的に委譲し、責任感と当事者意識を醸成する組織文化があるのだ。東京みらいAI&IT専門学校は学園64校目の専門学校であり、岡田氏が主軸となって開設に携わる4校目の学校になるという。

学園の競争優位性と社会ニーズを重ね合わせる

 では、新設校を設置した背景には何があるのか。「Society5.0の到来に基づく産業界の抜本的な構造変化、それに伴う深刻なIT人材不足が背景にあります」と岡田氏は言う。そもそも学園名の「三幸」とは、「生徒の幸せ」「社会の幸せ」「学園の幸せ」を実現することが所以であり、3つの幸せが重なる領域に学園の存在価値を見出す。三幸たるドメイン設計の基軸は、「人材不足による社会課題を解決する」こと、時代の変化に応じて「社会に必要とされる人材を育てる」ことにある。将来的な社会ニーズに真摯に向き合うべく検討が始まったが、学校認可申請では多くの困難があった。最も大きかったのは、未知の領域で学校を創るハードルの高さだ。岡田氏は言う。「本学園はこれまで、医療・保育・スポーツ・美容・調理・製菓等、基本的に人と接する職業領域の学校を展開してきました。そのため、今回のAI・ITの学校を創るのは本学園にとってはチャレンジでした」。教育内容で見ると、三幸学園が強みとする「対人」領域における実践力やコミュニケーション力を養成することに加え、論理的思考も求められる。学園内の意思決定においても、通常よりも多くの時間を要した。「プログラミングは個人の技量ありきであり、一定の技術がなければ協働者として貢献することができない。卒業時に求められる能力目標設定、学びの積み重ね方(プロセス)がこれまでとは異なりました」と岡田氏は振り返る。これまで学園は主に美容やスポーツ、保育分野等を中心に「技能と心の調和」を掲げた教育を実践してきたが、新しいドメインでこれまでの実績と基盤をどう活かすことができるのか。見据えるのは、AIやITが特定の業界だけでなく、全業界に通底するインフラとなる時代。IT人材はIT業界から非IT企業へと既に流動化しつつあり、これまで三幸学園が培ってきた領域でもAI・ITを背景にした変革が少なからず起こっていく。人材ニーズは高いうえ、教育面も横断的に既存リソースと繋ぐことで、社会実装先のプラットフォームとして活かすことができる。新たな領域に踏み込むのは、それを機会として捉えているからでもあるのだ。

IT業界に不足している属性・素養をX-Techの学びで養成する

 新設校設計に当たり注目した領域ニーズは以下3つである。

  • 「平成26年特定サービス産業実態調査確報」より、IT関連産業を支える人材の約4分の1が女性であること、及び三幸学園は創立以来、女性の社会進出を支援する専門教育事業を展開してきたことを踏まえ、IT領域においても、女性のIT人材育成を支援する
  • 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のIT人材白書2018で示される、「IT企業の実務者層に求められるIT人材の質の差」に現れる「現状IT人材に不足している要素」である「独創性・創造性、新技術への好奇心や適応力、問題発見力・デザイン力」を育成基礎力に置く
  • X-Techで実践的な学び:AI・IT三幸学園が網羅する様々な業界の業務知識・スキルを掛け合わせた生きた学びを実現する

 AI・IT領域はとかく技術力の差異が注目されがちだが、これらは「人を活かし、社会課題を解決する」という学園の競争優位性を発揮しつつ、新たな社会ニーズに合致する姿を模索していると言えるだろう。即ち、ニーズや会社が変わっても通用する人材、変化対応力のある人材を育てたいという意志だ。「日本のAI・IT産業の発展に寄与し、優れた知識と技術習得だけでなく、自ら考え行動することで、社会に貢献する人材を育成したい」と岡田氏は言う。②③で目指すのは、盤石なスキルセットを最高水準にレベルアップしていくトッププレイヤーというより、高いコミュニケーション力と変化対応力を持って組織の中で働けるAI・IT人材であり、社会貢献のために利他的に自分のスキルを使った価値創造をしていくマインドを持った技術者だ。こうした方向性が①に見た女性の社会進出をより後押しする、とも捉えている。

人格形成とコミュニケーション力を土台に置いた教育コンセプト

 では、こうした3点を押さえたカリキュラムを見ていこう。図1に学びの全体像を示した。見てきたように、基盤に人格や社会人基礎力やコミュニケーション力を配置しているのが三幸学園らしさであり、領域ニーズである。IT基礎知識とはプログラミングやアプリ開発、クラウドコンピューティングを指す。一方で先端IT技術はAI、AR、VR等であり、これらは学生一人ひとりの学びの志向や学習到達目標に応じて選択科目で学ぶものと位置づけた。


学びの全体像



 IT基礎知識・技術の習得におけるポイントは3つある。

 まず、1年次に汎用性の高い言語を扱うことだ。IT技術を学ぶにあたって使われるプログラミング言語はいくつかあるが、新設校で基礎言語として選択したのはJavaである。JavaはWebアプリケーションやandroidアプリ、IoT開発等の領域で広く使われており、長年安定した需要がある言語だ。Javaを言語理解の軸とすることで、2年次に習得するSwiftやPython等、他の言語も理解しやすくなるという(図2:取得言語と到達目標全体像)。

 次に、初学者でも学び進めやすいようにスモールステップアップのカリキュラムにしたこと。まず、1年次前期に「情報処理技術者」のエントリーレベルであるITパスポートの取得を目指す。この資格はIT全般の知識の基礎となるだけでなく、IT初学者にとっては成功体験としても機能することを期待している。1年次後期には、AWS クラウドプラクティショナー、オラクル認定Javaプログラマ等、実用に即した多様な資格を適宜カリキュラムのマイルストーンに置き、モチベーションが途切れないよう、また学生が必要なレベルに達するよう支援するという。

 最後に、2年次の実践授業の存在だ。「企画開発プロジェクト」と称する科目がそれに当たる。各自のレベル感に即した「X-Techの経験」を積むための科目で、応用力のある学生やチームは外部コンテスト等で腕を試し、エントリーレベルの学生は学園が展開する分野や業界とのX-Techの課題解決プロジェクトに挑み、課題整理や技術解決提案に取り組む。学生一人ひとりの特性に合った能力発揮機会のなかで場数を踏み、価値創出の経験を積む。「卒業後は、あらゆる業界のIT担当者として活躍してほしい。だからこそ、自らの力の発揮の仕方、プロジェクトの中での動き方等を、実践を通して徹底的に学びます」と岡田氏は言う。2年次からは専門に軸足を置いた2コースに分かれる。システムの仕組みを作りたければAIプログラミングコースへ、映像技術を用いてARやVR開発を行いたい人はAIクリエイターコースへ。技術を通じて何を実現したいのか、2つの方向性で学生の将来イメージに伴走する(図3:各コース時間割例)。


図2 取得言語と到達目標全体像
図2 取得言語と到達目標全体像


図3 各コース時間割例
図3 各コース時間割例

 コロナ禍での初年度募集となったが、「オンラインとオフラインのハイブリッド広報を実施し、ここまでは広く関心を得ている」と岡田氏の言葉は力強い。これまで学園では高校新卒者が主なターゲットだったが、新設校では留学生や社会人等からの問い合わせも多い。また、通信制の高校生や保護者からも関心の高さがうかがえるという。学園のリソースに新たな価値を付与するAI・ITのスキームと三幸学園らしいAI・IT教育で、技術力のみによらない差別化が業界にどのようなインパクトをもたらすか。来年の開学が今から楽しみである。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/11/24)