ユーザー目線に立った共感の最大化をリアルとオンラインのハイブリッドで実現/実践女子大学

実践女子大学キャンパス


 実践女子大学(以下、実践)は総合型選抜Ⅰ期のオンライン化や早期のWebOCサイト運用等、コロナ禍における積極的な施策が注目を集める大学の1つだ。こうした取り組みの背景にある課題意識、募集広報におけるコミュニケーションの工夫等について、経営企画部長兼学生総合支援センター広報・渉外担当部長の周東正紀氏と、同入学支援担当次長の浜中邦興氏にお話を伺った。

学生スタッフによる等身大のコミュニケーションでファンを獲得する

周東正紀氏、浜中邦興氏

 実践は春の時点でオンライン募集のプラットフォームとなるWeb Open Campus“ Connection”を立ち上げた。コンセプトは「学生が作るウェブサイト」。実践には広報で活躍する数百名規模の学生集団「J-STAFF」がおり、OCの企画運営や受験生の相談対応、ウェブコンテンツ作り等に関与する。広報の軸となるのは、このJ-STAFFによる「Z世代向けのコンテンツ工夫」だ。学生は「高校生目線で等身大の情報を伝える」スタンスが徹底しており、ウェブでもOCでも、学生が日常生活や自分が受験生の時の話等をバラエティ豊かに伝えるコンテンツが用意されている。こうした「身近で親しみやすい先輩」との接点を増やすことで募集母集団となるファン層を着実に創るのが募集戦略の基盤だ。「遠い立派な先輩よりも親しみを持って憧れる先輩と多く接することによる共感が志願度に大きく影響する。リアルであれオンラインであれ、共感を最大化することを重視しています」と浜中氏は言う。

 J-STAFFに憧れた生徒が入学後J-STAFFになるという好循環が機能し、偏差値序列等によらずこの先輩がいるから実践にというコアファンの獲得につながるのだ。

リアルとオンラインの役割の違い

 Web OCを構築する一方で、夏季には感染防止ルールを徹底したうえで100名定員のリアルミニOCを4回実施した。浜中氏は2つ理由があると言う。「まず、キャンパスに来たいという受験生の声が大きかった。感染リスクを考えればオンラインだけにするほうがよいのですが、大事な進路選択をオンラインだけではできない高校生の気持ちも分かる。リスクを極小化したうえでそうした声に応えたかった」。2つ目は募集への不安感だった。「オンライン施策自体に手応えはあったものの、募集全体がうまくいっているのか確信を得られない状態が続いた。受験生の様子を知るためにもある程度は対面でやりたかった」(浜中氏)。実践は日野と渋谷の2キャンパスをライブでつないだり、学生は自宅から中継に参加する等、多様なバリエーションでハイブリッドにチャレンジしている。

 こうした使い分けについて、周東氏は「ターゲットと訴求ポイントと時期によって使い分けている」と言う。リアルで実施していたことをただオンラインに載せかえるのではなく、時期によって大学が言いたいことと参加者が参加したい躯体を見極めたうえで、ニーズを踏まえた設計を行う。「例えば授業参加はオンラインとリアルでそこまで差が出ませんが、立地や施設、学生の雰囲気は来校しないとつかみづらい。でも来たい人もいれば来たくない人もいる。ならば、リアルで接点を持つ機会を創出すると同時に、オンラインでは録画したものをただ流すのではなく、学生同士がライブでやりとりして、その雰囲気を感じ取ってもらう。用意されたコンテンツではないからこそ刺さるのです」(周東氏)。オンラインでコンテンツを一方的に配信するだけでは得られない双方向感、アーカイブ配信では得られないライブ感。重視するのはそうした空気感だ。徹底したユーザー目線でコンテンツを設計し、どういうニーズにも応えられるように努力している。

 オンライン利用者には「従来リアルで来ていた層がオンラインで来ざるを得なくなった」場合と、「従来リアルだと来られなかった地方学生がオンラインだから参加できるようになった」場合の2つがある。緊急対応が機会となる層が一定数いるのである。もともと実践の地方出身者比率は25%と、他の同規模女子大よりも5ポイント程度高いが、「今後もオンラインは地方志願者向けに継続したい」と周東氏は言う。

 6月からはオンライン個別面談もスタートし、平日は毎日学生と職員が相談1件当たり60分程度時間をかけて対応する。我が子と大学生が話をしている様子を見て保護者が安心するケースも多いという。大型イベントで得た多くの情報を自分ゴト化するのにはある程度の壁打ちが必要だ。実践はオンラインでそうした場を設けることで、受け身で情報を得るだけでは上がりづらい志望度を担保しているのである。

大学の独自性を今まで以上に意識しなければ埋没するのがオンライン領域

 今後の方向性について、「入試方式に応じたコミュニケーションを丁寧に設計すること」と浜中氏は言う。課題は3つだ。まず1点目は、オンラインは歩留まりが読めないこと。「リアル並みの接点量を確保していても、リアル並みに志願につながってくれるかは未知数」と周東氏は言う。2点目はオンライン完結の難しさだ。「オンラインで情報検討しても、最後は見て決めたいというニーズにいかに応えられるか」(浜中氏)。どのタイミングでどんな場作りが良いかは入試方式ごとにも異なるであろう。3点目は、オンラインの特性として他校との差別化がリアルよりも難しい点だ。「どこも似たような情報を揃え、立地の差異や対面での関係性構築ができないとなると、オンラインはどうしても埋没しやすい側面がある。大学としての独自性をどう磨くかが重要」と周東氏は言う。

図 J-TAS の仕組み


 では実践の独自性とは何か。浜中氏は学生成長と社会連携の2点を掲げる。実践には成長度合いを可視化し、学生1人ひとりの状況に応じて支援する「J-TAS」という仕組みがある(図参照)。大学での経験が個人の成長にどうつながったか可視化し、教育の質保証にもつながるもので、サポーターとなる教職員一丸となり、学生の入学後の成長を支援する。もう1つの社会連携は特に今後強化する方向性だが、学んだことを社会で「実践」するために、企業や自治体との連携学習を増加し、「どの学部学科でも外部と圧倒的に多くコラボレーションしている大学」というブランドを目指す。将来的には卒業後のキャリア支援も視野に入れている。渋谷キャンパスは最先端の企業連携、日野キャンパスは地域の社会課題に向き合うというキャンパスごとの顔つきも強化していくという。そうしたスキームで活躍する学生がJ-STAFFとして広報活動に加わることで、これまでとは違う層の獲得につながるのではないかという狙いもある。

 コロナ禍において積極的に打って出つつも、実践らしさから軸足をぶらさず、徹底的に高校生目線を貫く。実践のチャレンジは、課題や危機を機会と捉えていかに挑戦し、短期にPDCAを回せるかが本質であるように感じた。


(文・鹿島 梓)


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