オンリー・ワンのイベントで接点を最大化しアプリでコミュニケーションを継続する/龍谷大学
3歩先を行くつもりで編み出した戦略
コロナ禍によって通常の学生募集ができなくなる。この危機を「チャンス」と捉えた大学は、果たしてどれだけあっただろうか。「今年は新型コロナウイルスの影響のみならず、入試が変わる節目の年でもある。課題山積みですが、この混沌とした状況を逆にチャンスに転換させたい。どうすればそれが実現できるかということをとにかく考えました」。入試部次長の岡田雄介氏は力強く言う。
どの大学にとっても、学生募集の肝となるのは、何といってもオープンキャンパス(OC)である。龍谷大学も、他大学と違わず、今年度はオンライン形式で開催することを余儀なくされた。オンライン形式の難しさは、特色が出しにくく、いとも簡単に「その他大勢」に埋没してしまう点にある。オンラインOCの大衆消費財化(コモディティ化)に飲み込まれないためには、他大学が工夫を凝らすその先、すなわち3歩先を行くぐらいのことをしなければならない。どうすればインパクトを残せるか。たどり着いた答えが「Ryukoku 27 hours Live」(8/1~8/2開催)だった。
「Ryukoku 27 hours Live」は丸一日プラス3時間、各キャンパス・施設から多重化したライブ配信を行ったイベントである。当日のプログラム概要を原稿に示した。通常のOCとは異なり、タレント・著名人の活用も試みたが、これは単なる賑やかしではなく、著名人に龍谷の魅力をPRしてもらうコンテンツとして起用したものだ。「龍谷大学での学び」、「学生生活」、「課外活動」、「施設設備」、「教員・学生の顔や声」を効果的に伝えるために必要だと判断したのである。知的好奇心をくすぐるような番組を、時に面白おかしく、けれども真面目に発信し続けた。また、長時間配信し続けることで普段見られない大学の姿を見せることができた側面もある。明治初期に建築された重要文化財群を有する大宮キャンパス(京都市下京区が指定する景観「下京八景」にも指定)の美しいライトアップを紹介することができたのも、夜間にも配信した27hLiveならではのことであった。
昨年度をはるかに超える手応え
27hLiveのアクセス数は、約6万にものぼった(27hLive視聴者数:5万2900、相談会等の従来イベント:7734)。驚きの数値であり、いかに注目されたかをうかがい知ることができよう。昨年度の同期間(8/3~8/4)に開催したOCの来場者は1万4682人だったことから、4倍以上の参加者であったと岡田氏は振り返る。
「アクセスしてくれた視聴者全てが受験生であるとは、我々も考えていません。TwitterやYouTubeのコメント欄を見ると、起用したタレントや著名人のファンだから視聴したという方もそれなりにいたようです」と岡田氏は説明する。ただ同時に、それで構わないとも考えている。多くの人に龍谷大学の魅力を届けることができたからだ。まずは知ってもらうこと。大学への接触者数の最大化を図り、志願に向けたコミュニケーション接点を確保する。学生募集にとって、これ以上重要なことはない。
そして何より27hLiveの成功は、計2日で『ru navi』のダウンロード総数が、前年同期比の2.5倍、約5000件にのぼった点に現れている。『ru navi』とは、龍谷大学の最新情報を届けるための受験生向け情報配信アプリのことだ。イベントカレンダーや大学の魅力をPRする内容に加え、受験勉強に役立つコンテンツ等を含めた多様なメニューを提供しており、出願までの長期にわたって高校生と龍谷大学が繋がる専用チャネルとなっている。「学内には、27hLiveに対する批判意見もありました。タレント起用等が『大学らしさに欠ける』と見做されたようです。けれども、大学執行部からの後押しを頂く中で合意形成を図り、動員数やアプリのダウンロード数という数値で分かる結果を出すことができた。今では学内構成員の多くに理解してもらえたと思っています」と岡田氏は言う。
秋以降は、アプリをダウンロードした高校生達とのリレーションシップを維持し、実際の志願へとつなげていくことに注力する。志願者増加に向けて、特に力を入れたいと考えているのは、『ru navi』で発信する受験対策コンテンツの充実だ。受験生はコロナ禍による学習の遅延、大学進学情報の不足等から、受験対策が遅れている可能性がある。「安心して受験に臨んでもらえるよう、過去問のレクチャー動画等を積極的にアップロードしていきたいと考えています」。入試部の忙しい日々はこれからも続く。
アンストラクチャーにONE TEAMで臨む
それにしても、なぜ、既に高いブランド力を持っているはずの龍谷大学が、これほどの動きをみせたのか。岡田氏は若手職員の意欲が大きかったと述べる。「コロナ禍でどのような募集設計にしていくかを考える際、入試部の課員達が『大胆に挑戦したい』と言い出してくれました。それならば、どうすれば実現できるかを求め、学内構成員を説得するために皆で考えに考え抜き、『接点の最大化と他校との差別化』という観点で理論武装して実現に至ったものが27hLiveです」。言わばボトムアップで出てきたアイデアを結実させた形なのである。なお、大学アプリ『ru navi』のコンテンツも、外注することなく、入試部の担当者が自ら考え生み出しているという。トップダウンで降りてきた内容ではなく、当事者意識の高さに裏打ちされた挑戦なのだ。先に述べた執行部の理解もこうした姿勢から得られたという。学内的にもこうした位置づけであったのは意義深いであろう。
関連して、「アド☆サポ(アドミッションサポーター)」についても触れておくべきだろう。アド☆サポは有志の在学生から成るスタッフチームのことであり、1年生から3年生まで約250名が所属し、OCの企画や運営に関わっている。今年の5月も新入生向け歓迎イベントを企画・実施しており、その経験や、学生から見た大学の魅力を訴求する視点、大人には考えつかないような大学生らしさを活かしたアプローチ等は、27hLiveの様々なところで活かされた。
「今年度の状況は、ラグビーでいうところの『アンストラクチャー』だと捉えています」。岡田氏はこうも語っていた。ラグビーの「ストラクチャー」とは、攻守のポジショニングが取れている局面を指す。「アンストラクチャー」はその逆で、攻撃も防御も混沌となった局面のことだ。なるほど、だとすれば、龍谷大学のチャレンジは、学生募集に関わるメンバーが、岡田氏のリーダーシップのもと、「ONE TEAM」となって攻守逆転に臨んだ、ということもできるだろう。
今回の挑戦が成功したかどうか、最終的な評価は、今年度の入試結果が現れる来年3月に下されるのだろう。ただいずれにせよ、この経験が今後の龍谷大学の学生募集を支える大きな糧となることは確かだ。この先、龍谷大学の学生募集がどう成長・変容していくのか、今から楽しみである。
(文・濱中淳子 /早稲田大学)