一般選抜における多面的・総合的評価の拡大/佐賀大学

佐賀大学キャンパス

POINT
  • 1949年、旧制の佐賀高等学校・佐賀師範学校・佐賀青年師範学校を包括し、文理学部・教育学部の2学部の新制大学として発足。2003年佐賀医科大学と統合し、2021年現在教育学部・芸術地域デザイン学部・経済学部・医学部・理工学部・農学部の6学部を展開する総合大学
  • 「特色加点制度」は自己採点結果に基づく合格可能性のみを重視した大学選択を起因とするミスマッチ解消を目的に、一般選抜の合否ボーダー層に対して「これまでの活動」と「入学後の意向」を自分なりにつなげたPR内容を加点評価する内容
  • 一般選抜前期日程で申請率は62.5%にも及ぶ


 佐賀大学は、2015年度から導入している「特色加点制度」を拡大し、2021年度から全学部の一般選抜で多面的・総合的評価を実施するに至った。その内容と経緯について、アドミッションセンター長の西郡 大教授にお話を伺った。

特色加点制度:「これまでの諸活動の経緯・成果」と「入学後の意向」を、APを軸にして自分で表現する

 まず、特色加点制度の概要を押さえておきたい。特色加点は一般選抜において、部活動・探究活動・ボランティア活動等の内容と成果を示したうえで、入学後の学びにどう結び付けるのかを受験生に説明してもらい、加点措置を講じる制度である。申請は任意で、一般選抜受験者全員を評価するのではなく、合否ボーダーラインの受験生が対象だ(一部学部を除く)。同じ学力帯の中では学びの接続意思がある生徒を優先して入学させたいということである。ただし、学力考査で高い成績を収め合格する学生は対象外、即ち評価の優先順位としては基礎学力がまずあり、次いで多面的・総合的評価があるということになる。

 「特色加点制度」という名称が初めて佐賀大学の入試で登場したのは2016年度、芸術地域デザイン学部の総合型選抜である。その後2019年度から理工・農学部の一般選抜で、2021年度からは教育・芸術地域デザイン・経済学部の一般選抜でも導入された。「医学部は、一般選抜であっても医療従事者としての適性や人柄を面接で見極める手法が伝統的にありました。他学部ではそうした動きがない中でどのようなスキームを作っていくかが議論の中心でした」と西郡氏は言う。また、これを機に「特色加点」という名称は一般選抜のみで使い、総合型選抜等では「活動実績報告書(加点式)」と変更された。

 一般選抜は志願者数が多いが故に、物理的困難から多面的・総合的評価とは距離を置く大学が大半を占める中、佐賀大学は出願と連動した多面的評価支援ツール(J-Bridge system)を採用した。河合塾と佐賀大学が共同研究したもので、ウェブ出願で提出する志望理由、高校での活動・実績、添付資料等をシステムに取り込んで一括管理でき、評価のためのルーブリックや判定ルールをシステム上で設定すれば、申請情報の検索・抽出、並び替え等により効率的な採点を支援する。「個別対応ではなく全学共通システムを考案していたからこそ、学部の了承を得ることができた」と西郡氏は言う。志願者数が増えれば紙では運用負荷が大きく、電子的な処置による効率化は避けては通れない道である。


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受験生登録画面・採点画面(申請内容確認)イメージ
画像 受験生登録画面・採点画面(申請内容確認)イメージ


入学後のミスマッチを防ぐための特色加点制度

 制度の導入目的を振り返っておきたい。

 かつての小誌の取材で、西郡氏は導入検討当時の課題感を「地方国立大学として、学問追究だけでなく、自ら修めた学問を活かした地域貢献をできる人材をどれだけ輩出できるか、そのために18歳人口減少の中で入学者の質をどのように維持するか」だったと語っている。それに加え、今回の取材では「第一志望率の低さ故の接続課題」についても言及された。

 「他大を目指していたが、共通テストのスコアが足らずに本学を選ぶ受験生が多いという実態があります」。一般選抜の第一志望率は概ね6割弱程度。「一部の学生において最初からミスマッチを起こしている問題を解消したかった」(西郡氏)。なお、志望順位と申請準備の関係性を見ると、第一志望者は5割が事前に申請を準備、残り5割が出願時に準備をするのに対し、第二志望以下では事前準備2割、出願時準備8割に変化する。入学意向の高い第一志望者がきちんと準備してくるのは当然と言えば当然である。その一方で、第一志望であるからには一般選抜を待たずに推薦系入試を選択する受験生も多い。即ち、学力面での不安がある学生の志望順位が高く、大学教育への接続がなされていないという問題もあった。学力は高いが志望順位が低い学生の志望度をどう上げるのか、と合わせて、2つの問題に直面していたのである。意欲だけ高くても、学力だけ高くても、ミスマッチは生じる。特色加点制度は主に後者に対する打ち手の1つだ。

高校生が自ら「これまで」と「これから」を接続する深いリフレクションが必要不可欠

 特に注目すべきは、申請する中でリフレクションを期待している点だ。西郡氏は言う。「構想時に九州中の高校を回り、意見を伺いました。特色加点と聞いて、『英検2級なら何点』というように、実績の成果を点数化するイメージを抱かれる方も多かったのですが、本学としては高校生が一所懸命取り組んできたことと大学入学後の学びをきちんと接続して説明してほしいというのが本旨です。そこの理解を得るのに苦労しました」。また志望理由書とも一線を画す。「志望理由書では、動機や入学後の目標に関して記述を求めることが多いですが、特色加点では、高校時代にどういう取り組みをしてきたのかと、大学入学後の目標について根拠を含めて説明することを求めます。そして、その説明がアドミッション・ポリシーや教育内容と整合しているかが重要です」。自らを深く顧みるリフレクションの工程は必須だ。言ってしまえば、大学教育の内容をきちんと調べ、自らの資質能力を踏まえ、具体的に記述できるかどうかで、同じ英検2級でも点数の差は出るのである。佐賀大学の入学者は九州全域が9割を占めるため、九州各県で申請状況等を随時フィードバックしながら、徐々に理解を得ていったという。「入試を契機に冷静なリフレクションが発生するからこそ接続価値がある選抜になり、高校側にも受け入れてもらえた」。西郡氏はこう続ける。「今まで一般選抜で重視してこなかった主体性等の要素についてどう扱えばよいのか。主体性とはこれだ、と定義して評価してしまうと、評価のための対策が可能になってしまう。本来多様であるべき主体性が金太郎飴的になってしまう。それは避けたかった」。そして、政策誘導的な動きであっても自校の課題解決に資するものにしたいという意志があった。「本学の課題はミスマッチにあった。だから、特色加点は主体性等評価というよりも、マッチングのための施策なのです」。

制度認知が進むにつれ導入目的に符合した内容の申請が増加

 では、実際の申請内容や申請率等はどうなっているのか。

 「申請内容は部活動が多いですが、探究活動や生徒個人の主体的な取り組み等も増加傾向にあります」(西郡氏)。同時に、「大会で3位になった」といった成果のみの主張が多かったのが、そこから何を学び得られたのかをじっくり掘り下げているケースが増えてきたという。合格者アンケートでも、「最も自信のある取り組みを掘り下げて書いた」は94%で、「様々な実績を可能な限りアピールした」を大きく上回った。狙い通りの傾向が出てきたと言えよう。自らの主張に根拠資料をつけるかどうかは任意だが、60%程度の受験生が添付するという。なお、申請率は女子のほうが高い。申請書を書くこと自体が入学に向けた意識付けになっているため、申請者の約90%が入学手続きに至っている。入学者アンケートでは、「(申請により)志望学部への入学意思が固まった」が4.27/5.0pt、「これまで自分が頑張ったことを振り返る機会となった」は4.53/5.0ptと、申請を契機にリフレクションが深まっている様子が数値的にも明らかになった。その他申請率等は図1をご確認頂きたい。


図1 特色加点申請者と申請率(2021年度)
図1 特色加点申請者と申請率(2021年度)

注目される「高校までの探究学習」との親和性の高さ

 探究活動のPRが増えてきたことは興味深い。西郡氏は言う。「現在高校で探究は探究、科目は科目と、それぞれが独立に指導されている印象です。しかし本来、問いを立てて探究しながら必要な知識を学び・補い、その繰り返しで問いを軸にしたスパイラルを構築していくべきでしょう。高校の探究活動はまだまだ模索期であり、こうしたところが現在の課題となっているのではないかと思っています。ただそうした中でも自らが探究したいことを深める学生が増えていることは、今後の可能性を感じる事実です」。探究を通して教科科目の重要性に気づくことができれば、そこに注目した評価を検討したいという。

 また、想定していた活動がコロナ禍でできなくなった生徒にどう対応したのかを聞いた。西郡氏は「予定していたことができない中で工夫して何かに取り組んだのかの記載欄を全学部の書類に追加しました」と言う。予測不可能な状況で思考停止になるのか、自分のできることを見いだして行動できるのかの違いは大きい。社会が混乱する中で自分なりの一歩を設計できた経験があれば、それは当然加点に値するという判断であった。

個人の学びの接続がミスマッチ解消につながる

 特色加点は2022年度入試で4期目を迎える。入試の有用性の検証については、どの段階でマイルストーンを置くのか、あるいは卒業時点の就職先等と紐づけるのか等、様々な論点があるが、「入試の効果を卒業時の成績状況等だけで見てしまうと、4年間の大学教育は何だったのかという話になってしまう」と西郡氏は言う。「入試はあくまで入学段階で大学教育へのレディネスを備えているかを評価するもの。その後の接続として、学生がきちんと成長できるようにアセスメント体制を整備する等は大学の責務です。教育によって付加価値をどれだけつけられるかを意識してアドミッション・ポリシーを策定し、それに相応しい入試制度を設計することが重要だと思います」。


図2 佐賀大学の教育概観
図2 佐賀大学の教育概観イメージ

 そのうえで現状の手応えとして、「入学歩留まりが高く、当初の目的であったミスマッチは確実に減少しています」と笑顔を見せる。入学後アンケートでは「自立性」「リーダー性」が高い傾向があり、継続調査でもGPAが高いため、大学教育にスムーズに移行し、周囲を牽引できる学生が獲得できているという学内の一定の評価も得ている。佐賀大学では入学後、教養科目・専門科目・インターフェース科目の組み合せで自ら履修計画を構築していく学びのスタイルを展開しており(図2参照)、その支援として全学部でチューター制度のもと、ラーニングポートフォリオを使って学生を指導している。そのため、特色加点で接続意思を持った学生を選抜できることは、入学時のレディネスを把握したうえでの指導へとシームレスにつながるという。

 学生個人の学びの接続を通す工程を入れることで、一般選抜の仕組みの中で無理なくミスマッチ解消を実現する。それこそがこの取り組みの本質であり、成果であろう。


カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2021/6/15)