探究サイクルの回転数を社会における人材価値と位置づけた接続事業/桜美林大学 探究入試Spiral

桜美林大学キャンパス

POINT
  • 1921年に清水安三が北京郊外に創設した崇貞学園を起源とし、1946年に桜美林学園として生まれ変わり、47年に中学校、48年に高等学校を開校し、50年に短期大学、66年に大学が開学。現在5キャンパスに6つの学群を展開する総合大学
  • 2016年に開始した「AO・推薦準備セミナー」(※)、翌2017年に開始した高校生応援プロジェクト「じぶん探究プログラム」を2019年より統合した高大接続事業「ディスカバ!」で知られる
  • 2022年度入試より、探究活動に注力する学生を評価し、大学教育に接続する目的で、総合型選抜に「探究入試 Spiral」を導入


 桜美林大学(以下、桜美林)は2022年度総合型選抜に「探究入試 Spiral」を導入した。その趣旨や背景について、学長補佐で入学部部長の高原 幸治氏と入学部の今村 亮氏にお話を伺った。

画像 探究入試Spiralロゴ

高校生のインプットとアウトプットを支援する高大接続事業「ディスカバ!」

 まず、現在「ディスカバ!」として知られる桜美林の取り組みについて整理しておきたい。これは、2015年頃、AO入試の出願書類「自己申告書」の記載内容が二極化しているという気づきを起点とする。2016年には「目的意識のある積極的な進学に向け、学修動機と学びの期待感を高める」ことを目的に、「AO・推薦準備セミナー」(※)が始まった。多様なワーク、出願書類に書く材料探し、文章の組み立て等で、主にアウトプットを支援する事業である。そこで、多くの高校生がアウトプットする経験自体を持たない事実から、2017年から始まったのが高校生応援プロジェクト「じぶん探究プログラム」だ。これは、プロに話を聞く、現場に足を踏み入れるといった体験機会を大学のネットワークを駆使して提供する、まさに自己申告書に書く内容から伴走するインプット支援事業である。2019年にはこうした事業を「ディスカバ!」の名称のもとに統合し、専属プログラムコーディネーターに元認定NPO法人カタリバの今村 亮氏を迎えた。2020年にはコロナ禍でもオンラインで70ものプログラムを展開し、2700人が参加。年々参加者が増加している状況である。

 こうした一連の活動実績も踏まえ、今回「探究」を冠する入試の導入に至った理由について、高原氏はこう話す。「入試の面接で高校時代に頑張ったことを聞くと、長く時間をかけた部活や委員会を挙げる生徒が多い。しかし、それが果たして大学の学びに結びつくのかが不明確でした。かといって、学力評価で高得点だった生徒が入学後に活躍するかというと、必ずしもそうではない。大学に入って何を学ぶのかという観点で、高校段階からレディネスを創っていく必要があると、常日頃考えていました」。学びの本質をお互いに押さえきれていないためにミスマッチが起こり、初年次のフィッティングや支援に時間がかかる実情に対する課題感。「自らの経験を棚卸しして大学教育に向けて翻訳する作業が圧倒的に不足しているのです」。そこで着目したのが、高校教育改革としての探究である。2019年度から先行実施が進む、探究を柱とする新学習指導要領。2022年度からはいよいよ年次導入され、2024年度には完全実施となる見込みだ。つまり、「探究1期生が入学する2022年度のタイミングでそれをきちんと評価することが、高校教育の肯定になると考えました」(高原氏)。「本学は多少のリスクをとってでも、探究に取り組む先生方を応援したい」と今村氏も強調する。「年次進行が進んでくれば高校現場は否が応でも大変になるでしょう。そうした状況を支援し、改革を肯定する大学としてのスタンスを示すことが重要だと考えています」。

探究サイクルを回転させた経験とそこからの学びを評価

 では、入試のコンセプトについて見ていこう。HPには以下の記載がある。

  • 桜美林大学の願い
    探究という新しい学び方は、社会に出たあともずっと必要です。そして未来のあたりまえになります。
    探究的な経験を重ねてきた受験生を評価するために、この入試方法を新設しました。
  • Spiralの意味
    日本語で螺旋という意味を持つ英単語です。螺旋には終わりがなく、一見同じような道をたどりながらも、少しずつ変容していきます。この入試方式を、探究の螺旋=Spiralへの入り口とするという想いを込めて名付けました。

 高原氏はこう補足する。「大学は社会に学生を送り出す使命があり、輩出人材が企業や社会から評価され、その蓄積が大学のブランドになる。では卒業時に評価される学生の特徴はというと、正課・正課外に拘わらず、自分ごととして課題や問いに向き合ってきた経験があるほうが評価される傾向が強いのが実情です」。学内外を問わず多様な活動が学生の成長につながる前提で、社会を見据えて必要な資質・能力を見定めないと、本来的な教育設計にならない。では、社会で活躍する人材をどう捉えるのか。「わざわざ探究とはいわないまでも、日々問いを立てて検証し、成果をアウトプットするという探究スパイラルを各領域で回すことで社会が成り立っている。答えのない課題にトライするのが社会なので、そのスパイラルを何回転できるかが人材価値になります。本学は高校段階で、最初のスパイラルを実践できた学生を獲っていきたい」。探究が教育の軸になるこのタイミングだからこそ、それを要求することには正当性がある。結果として、高校から見れば「探究を推進すれば桜美林のあの入試で欲しい人材像に合致する」というストーリーが描きやすくなる。探究を軸にした接続が可能になるということだ。


画像 探求モデル図
※文部科学省「高等学校学習指導要領解説 総合的な探究の時間編」(平成30年7月)を参考に桜美林大学が作成


探究の高度化たる大学教育で回転経験を増やす

 では、高校で探究を経験した学生は、入学後どのような教育で回転数を増やしていくのか。これについては、探究入試を導入する3つの学群内で、同時進行的に教育改革が議論・実施されている。「リベラルアーツ学群では入学時に3つの分野(人文領域・社会領域・自然領域)から軸足を決めて学び方を学び、学際的に学び、4年次までに卒業研究やサービスラーニングを通して学びを活かす仕組みを整えました。大学で学んだ専門性を研究やフィールドワークで装着する動きは探究の高度化ともいえる動きです。もともと大学の学びは探究的ですが、もっとそちらにシフトするように各学群で議論しています」(高原氏)。また、桜美林は2005年の学群制導入以来で、自らの専門のみならず、隣接する関連分野が学びやすい教育体制を整備している。アウトプット機会を多く設けることで再び学びに返り、必要に応じて隣接領域にしみ出した学びをプランニングしやすい素地がある。これは高校の探究経験を活かして回転数を増やしていくアクセルになろう。初年度は3学群での導入だが、次年度以降も、接続的な教育改革も並行し、参画学群は増える見込みだ。

高校生に伴走し高校と共に探究心を育むスタンス

 入試のプロセスは、一次審査(書類選考)、二次審査(面接)の二段階選抜である。高校生から見たポイントは以下の3つだ。

  • 経験を重視:探究的な活動を経験したことを重視する。活動の形式は問わない。
  • 実績より学び:経験から、自分が何を学び、どのように成長したかを評価する。
  • 評価基準は公開:学びを振り返る際の点検項目として活用してほしい。

 受験生がリフレクションを深めることが入試の大きな目的だ。自らの言葉で言語化できているか、何を学んだのか深く考えメタ認知できているかを面接で見定める。「探究内容にフォーカスしすぎると、受験生が経験したことの語りで面接が終わってしまう。そうではなくて、回転をどう回せたか、推進・改善ポイントに注目して深掘りしたい」と高原氏は言う。なお、桜美林の総合型選抜は旧AO入試時代からかなり「書かせる」書類が多い。記入負荷が高いように見えるが、「だからこそ、本学はそこを安易に下げず、『AO・推薦準備セミナー』(※)でしっかり記述できるように指導している。高校に放り投げるのではなく、伴走するスタイルだからこそ、受け入れていただいていると思います」。探究入試についても、こうした支援スタンスは強化していきたいという。

既存フレームに極力近づけた運用プロセスで学内の負担感を下げる

 入試設計は入学部が、実際の一次審査は職員、二次審査は教員が行うという役割分担は旧AO入試と同様だが、「これまで携わってこられた教職員が違和感ないよう設計する責任は入学部にある」と高原氏は言う。まず総合型選抜の中に探究入試を位置づけたのが最初の工夫だ。「既にやり方が馴染んでいる総合型選抜の書式や評価の仕方に極力揃えるようにしました」。桜美林ではもともとAO入試の志願者が2000人存在し、その評価方法については共有されたプロセスがあった。それに最大限沿う形にすることで、理念と実務のハレーションを極力防いだのである。「このタイミングで探究入試があるということが第一義です」と高原氏は続ける。既存制度のベースがある方式で、確実に結果が出る範囲でスモールスタートし、実績を出してその後の改革につなげるというストーリーが見える。学内で推進しやすいよう最大限配慮する一方で、「高校生が何をどう評価されるのかの基準を公表することは譲りませんでした」と今村氏は言う。また、対象となる探究的活動は授業だけではない。これにも、「教育課程だけをスコープにした入試にはしたくなかった」と今村氏は続ける。「授業時間内で良い探究をしてきた高校生だけではなく、学内外問わず様々な活動を対象にすることでリアリティーを押さえたい」。先ほどの社会からの大学評価に重なる観点だ。

大胆な設計と緻密な計算でロマンとソロバンを両立させる

 現状、どんな高校生からリアクションがあるのか。今村氏によると、もともと「ディスカバ!」に参加したことがある層と、偏差値上位校の総合型選抜を第一志望とする併願層の2つに大別されるという。前者は桜美林に志望動機があり、通常の総合型選抜よりも探究で挑戦したほうが良いと感じている層。後者については、探究入試で用意する思考フレームや書類の汎用性が高く、探究入試の受験準備をすることが他大学の受験準備につながるという。入試設計を理念的整合性だけで終わらせず、ある意味計算高く母集団のアタリをつけているのはさすが私学である。合格・入学に至る生徒に対しては、「『ディスカバ!』で学生スタッフとしての活躍も期待したい」と今村氏。「これから高校現場で探究が広がり、2024年度には完全導入となれば、探究軸を持つ母集団は一気に増える。その前にしっかり実施検証しておきたい」と高原氏は言う。描いた絵に対応した確実な勝ち筋。「ディスカバ!」の成り立ちからこの入試までの一連の流れを俯瞰すると、非常に興味深い。

※「AO・推薦準備セミナー」は2020年より「総合・推薦型入試準備セミナー」と改称


カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2021/6/22)