AOグローアップ入試/スタンスと熱意を育む仕掛けとしての入試設計/専門学校お茶の水スクール・オブ・ビジネス

専門学校お茶の水スクール・オブ・ビジネスキャンパス

POINT
  • 1948年お茶の水タイピスト学校として創立し、一貫してビジネスシーンに必要な人材育成を掲げてきた専門学校。現在はビジネス学科2年課程に店舗企画・マネジメントコースと簿記・会計コースを擁する
  • 2019年度の内定・就職率97%、平均資格取得数9と、社会人になるための準備を目に見える成果として蓄積してきた伝統校で、2020年3月時点の卒業生数は1万837名
  • 2020年度入試からAOグローアップ入試を導入し、学生の多面的・総合的評価を実施している


専門学校お茶の水スクール・オブ・ビジネス(以下、お茶スク)は2020年から総合型選抜の方式の1つとして「AOグローアップ入試」を展開している。その内容や背景にある問題意識について、理事長・学校長の常慶良輔氏にお話を伺った。

「経済的自立」と「思考と行動の自立」を育む「社会人を目指すための2年間」

 常慶氏は、お茶スクでの2年間を「社会人をめざすための2年間」と称する。「社会に出るとは、保護者の庇護を離れて自立するということです」。自立とは、自分の食い扶持は自分で稼ぐ「経済的自立」だけではなく、自分で考え自ら行動するという「思考と行動の自立」も含まれる。これらは生涯かけて続く生き方やスタンスでもある。守られていた立場の高校生を、2つの観点で自立した大人にたった2年間で育て上げなければならない。そのためのメソッドやナレッジがたくさん蓄積されているのがお茶スクであり、それが外部からの評価ポイントでもあるようだ。学校案内によると、卒業生が就職した先の企業からは、「学びに対して意欲的な姿勢の学生が多い」「個人個人に合った就職先を丁寧に結びつけてくれる学校」といった評価が並ぶ。当然就職先だけが全てではないが、学生個人ごとに異なる特性や意欲に応じた就職先を差配してもらえるという安心感は、これから社会に出ようとする学生にとって何物にも代えがたい価値であろう。

 ではこうしたマッチングがどのようにして可能なのかも含め、2年間でどうやって高校生を社会人に育て上げるのか。入試制度の前に、お茶スクの教育や体制について見ておきたい。

資格をマイルストーンにスタンスを育み、個人ごとの志向やレベル感に合わせた個別指導を実施

 お茶スクでは2つのコースそれぞれで目標に沿った教育を展開している。コース名が表す領域で活躍できるようにスキルセットを盤石にするための2年間。そのためにお茶スクで積極的に利用されるのが資格だ。お茶スクの平均資格取得数は9。2年間で取得するには多く感じるが、学生一人ひとりの描く将来像に即した資格をマイルストーンにすることで、目標設定を細分化してできることを確実に増やし、前向きな姿勢や意欲、自己肯定感や自信を育む狙いがある。卒業時にはお祝い金が出るというインセンティブもある。学習は個人ごとの志向やレベル感に合わせた個別指導を軸とし、履修計画から個別の課題、資格試験直前の補講まで、担任制によるきめ細かな伴走が教育のバックボーンだ。年に3回は面談を実施して本人の状況とすり合わせ、場合によっては保護者との面談も実施するという。将来像に合わせたスキルセットを、資格を用いたロードマップで示しつつ、走るペースや順番は個人に合わせてプランニングする。少人数制だからこその教育である。就職活動でもそうした伴走は変わらず、担任は学生個人の志向と客観的に見た際の特性を総合的に鑑み、一人ひとりに合った就職先を丁寧に探し、寄り添って結びつけていくのだという。お茶スクには留学生コースもあるが、同様の指導により、2020年はコロナ禍でサービス業を中心に採用取りやめが相次ぐなか、80%を超える就職率をマークした。幸せな就職マッチングと社会活躍のために2年間を使う学校とも言えるかもしれない。



図1 2年間のカリキュラム(簿記・会計コース)
図1 2年間のカリキュラム(簿記・会計コース)

図2 2年間の資格スケジュール(簿記・会計コース)
図2 2年間の資格スケジュール(簿記・会計コース)

スタンスと熱意を育む仕掛けとしての入試

 常慶氏はもともと会社の経営者をされていた経験から、当時の人材採用基準を以下3点に整理する。

  • 専門的スキル:経理、マーケティング、PCスキル
  • 前向きなスタンス:失敗したときにプラスに考えられること、良い経験と捉え次を見据えられること
  • 熱意:目の前の仕事にきちんと当事者意識を持って主体的に100%以上の力を発揮できること

 では、こうした要素それぞれを学校ではどう教えたらいいのか。①は前述した仕組みに則り、知識として教えることができるが、②③はどう育むべきか。その問いに対し、「志向や熱意は学校で教えるというより、多様な人と出会って会話したり、自分で将来の自分を描いてみるというプロセスから生まれるものではないか」と常慶氏は言う。

 様々な人の人生を知る機会を得、自らどういう人生を送りたいかを思い描き、そのために今なにができるかを自問する。なりたい自分になるための方法を模索する。学生に冷静なリフレクションを機会として提供することでそのあたりが磨かれるのではないか。そして、そうした投げかけを入試段階で盛り込み、「どう生きるか」を自問し、その後の学びにつなげる機会にしてほしいとの意図で設計されたのが、AOグローアップ入試なのである。

 「学生の目的意識は、『資格をとりたい』『事務職につきたい』といった、短期的視座が多いものです。しかし、それは『どう生きるか』という命題の方法の1つでしかない。何故そう思うのか、その先に何があるのか。対話によってそうしたベクトルに気づきを得て、今後の人生の糧にしてもらえたら、結果的に、②③は培われていくものではないかと思います」と常慶氏は話す。

入試を自己発見と成長の機会にするプロセス設計

 では、入試の具体を見ていこう。

 コンセプトは「出会い」。「入試を通じて本校の教職員、同じ入試に挑む仲間、そして自分も知らなかった自分に出会う成長の機会にしてほしい、という思いを込めました」(常慶氏)。

 入試プロセスは「理解」「発見」「向き合う」「伝える」の4つで構成される。

 「理解」は、まずお茶スクと仕事への理解を深めるためにオープンキャンパス(OC)に1回以上参加すること。OCは、学校説明と、自分の強みを見つける「ジブン発見ワークショップ」のパートに分かれる。後者はグループで行うワークショップで自己の成長を振り返り、「自己PR」を見つける場として設計された。昨年は社会人の話を聞く「未来の仕事理解OC」を開催し、その参加を必須としていたが、実施後の検証により「自分の人生を歩む第一歩として自分を振り返る」ことを軸にするため、今年はリフレクションを強化したという。

 「発見」は、自分を必ずしもよく知っているわけではない参加者とのグループワークショップによって、自分の思考を客観的に見出すこと。「向き合う」はエントリー準備として、「振り返りシート」「10年後の私シート」を作成すること。そして「伝える」は、対話型選抜試験本番に挑むことで、5分の対話で「10年後の自分」をプレゼンテーションすることだ。自己を振り返り、これからどう生きるかを考えるきっかけを掴み、自己を客観視してまとめ、思考内容を相手に分かるように伝達する。学力の3要素のうち思考力と表現力をフル活用する入試である。なお、この入試で合格した場合、授業料を最大25万円減免という特典もつく。

 常慶氏は言う。「他人に自分を開示するのはとても大変なことです。だからこそ、課題と称して思考を丸投げするのではなく、OCで一緒に考えるワークショップを丁寧に重ねていくことが大事だと、今年度の設計に至りました。本学で展開する個別化された学習の最初のステップでもあります」。OCでのワークショップには在校生も入り、お互いへの質問の投げかけで自己省察を深める。「自分」に軸足を置いた人生を思い描き、それを伝えるためにメタ認知して外化することで、社会を生き抜くために必要な当事者意識とスタンスを獲得するきっかけになれば。「生き方に正解はなく、自分なりにきちんと歩んで価値を創れるか、成長できるかが大事です。多くの選択肢や方向性があるなかで、自分はどうしたいのかという主体性。スキルセットは入学後にできますが、主体的に人生を選び取ろうとする姿勢がある人であれば、本学の学習をより生かすことができるでしょう」(常慶氏)。社会人を目指す2年間に入試そのものも含まれる設計なのだ。「本学でお預かりした学生をきちんと育てることは、学校としての社会的責任を全うすること」と常慶氏は言う。

入試による人材育成

 今後について伺うと、「本校の考え方を高校の先生方にきちんとお伝えしていきたい。その中で大事な生徒を預けたいと思っていただけるように、これからも検証を続け、育てていきたい」と、常慶氏の言葉は力強い。この入試はお茶スクでの教育にスムーズに接続される資質・能力を評価するだけでなく、本来高校で行われるべき・行われている個別化された進路指導に一緒に取り組む姿勢が強い。一緒に人材を育成しようとするスキームの1つが入試であったというだけだ。入試とは選抜だけでなく、人材育成の意義を重ねることができることに気づかされる事例である。


カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2021/7/20)