高校現場の今──教育の変化・進化

 高校における教育については、新たな取り組みが一気に加速したもの、努力の過程にあるもの、まだ課題を残すものと一様ではないが、不透明な状況下においても改革の動きは前に進んでいる。今回、ICTの活用、授業改善、探究の進化に積極的に取り組む3校にその狙いや内容、成果を取材した。


① ICT化の進展

GIGAスクール構想の前倒しで導入は進むも、コロナ禍前からの取り組みが“質”を左右した


海部高等学校(徳島県・県立)

高校・大学との遠隔授業で、生徒の学びの機会を確保・発展させる

2004年開校(郡内3校の統廃合により開校)/普通科・情報ビジネス科・数理科学科/生徒数300人(男子166人・女子134人)/進路状況(2021年3月実績)大学94人、短大7人、専門学校(大学校含む)22人、就職27人。


画像 海部高校先生方の集合写真
左から、海部高校研修情報課長の福田泰斗先生、進路指導主事・進学課長の大西昌文先生、
校長・中﨑 誠先生、教頭・井利元裕哉先生、徳島県教育委員会教育創生課指導主事(高校魅力化担当)の藤田康平氏。


 徳島県の南端、海部郡海陽町にある県立海部高校は、郡内唯一の高校だ。生徒を確保し、質の高い教育を維持・展開するために、町を主体に県の協力も得ながら「高校魅力化プロジェクト」を進めている。その一環として力を入れているのがICT活用だ。県内の高校や大学との遠隔授業の取り組みを中心に、先生方にお聞きした。

教員不足による教育の機会損失に備え、遠隔授業のシステム構築に着手する

 海部高校が県内の高校や大学との遠隔授業に取り組み始めたのは2015年のこと。県内でも特に少子高齢化が進む地域にあり、将来的に教員不足により開講できない教科・科目が出てくる恐れがあることから、課題が顕在化する前に対策すべく、教育委員会とともにプロジェクトに着手した。同年に文部科学省の「新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業(遠隔教育システムの効果的な活用に関する実証)」を受託。県内の高校や大学、教育委員会等のメンバーからなる実証研究委員会を立ち上げて、遠隔授業の仕組みを構築していった。柱となるのは、県立徳島中央高校の教員による通年の遠隔授業と、徳島文理大学の教授による年3回(うち遠隔授業は2回)の特別講座だ。

県内の高校の教員による遠隔授業を実施。運用のコツは「余計なものは省く」こと

 徳島中央高校との遠隔授業は、現在では学校間を直接つないで行っている。これまでに「数学B」の授業を実施しており、海部高校の生徒は遠隔授業専用の教室にて一人1台のダブレット端末を使って受講。教室にはモニターが2台あり、1台には授業をする教員が、もう1台には教員の手元にある教材や問題が映し出される。授業支援アプリケーション「MetaMoji ClassRoom」により教員と生徒は容易に画面共有ができるため、「遠隔授業であっても、教室で机間巡視を行うように生徒の学習状況を確認できる」(井利元教頭)という。

 海部高校の教室には、授業補助者として教員が付く。教員免許保持者であれば教科を問わず授業補助者として認められ、評価にも携わる。「遠隔ではどうしても生徒の意欲や態度が見えにくいので、その評価を授業補助者が補う」(藤田氏)といい、双方の教員は授業前後に密にコミュニケーションをとっている。

 「生徒たちはICTへの順応性が高く、遠隔授業も最初から違和感なく受けています。課題は教員側でしたが、すぐに慣れて、遠隔でも対面と大差なくスムーズに授業ができています。コツは、使う機器も授業の進め方もできるだけシンプルにすること。試行錯誤するなかで、余計なものは省いてきました」(井利元教頭)

実地フィールドワークと事前事後の遠隔授業で、生徒の学びを進化させる

 将来的な教員不足という課題に加えて、海部高校の周辺には大学等の高等教育機関がなく、研究者による出張講義が容易ではないという課題があった。そこで、遠隔と実地のハイブリッドでやってみようと始めたのが、徳島文理大学の古田昇教授による地理の特別講座だ。一昨年度までは「遠隔による事前指導+実地でのフィールドワーク」という2回構成だったが、昨年度は「遠隔による事後指導」を加え、3回構成で実施した。


写真 海部高等学校 フィールドワークの様子
徳島文理大学の古田教授の特別講座は遠隔と実地のハイブリッドで実践。
写真は、海陽町内で行われたフィールドワークの様子。
古田教授の専門は地理学、環境歴史学で、このエリアをフィールドとして研究してきた縁で、海部高校とつながりが生まれた。


 11月に行われた事前指導では、海陽町の地図や地形図等をモニターに映し出し、地形の特徴等について遠隔で講義。12月には町内を流れる海部川沿いで実際にフィールドワークを行い、1月には再び遠隔でフィールドワークの振り返りを行った。「高校の地理よりも発展的な内容なので、事後学習の機会があったことでやりっ放しにならず、生徒の理解がより深まったようだ」(井利元教頭)と、遠隔授業でのフォローアップの成果も出ている。

 遠隔授業のほかにも、オンライン英会話や予備校の学習支援プログラム等を取り入れ、ICTを使って学びの機会を広く提供してきた海部高校。教員にも生徒にも、ICTへの心理的・物理的なハードルはほとんどない。学校現場を混乱に陥れたコロナ禍に際しても、「即座に授業や課題をオンライン配信し、スムーズに対処できた」(大西先生・福田先生)という。


画像 海部高等学校 遠隔授業の様子
遠隔で行われた事後指導の様子。
自分たちが実際に見て回った場所が地形図ではどのように描かれているのかを確認し、理解を深める。


 今後は、「先生方に率先して学内外に技術を伝承していただき、海部高校の取り組みを県全体に広げていきたい」と藤田氏。「遠隔授業が当たり前に行われるようになれば、田舎だから不利という制約をとっぱらうことができる。本校にとってもさらなる広がりが生まれてくると期待している」と中㟢校長。今後は県内の高大連携をさらに強化する方向であり、遠隔授業の実証で得られたICT活用のノウハウを県全体に広げていきたい考えだ。その動きに注目が集まりそうだ。

(文/笹原風花)


② 授業や探究学習のさらなる進化

「入試改革」「新学習指導要領の導入」
変化の渦中にある高校現場の創意工夫


泉陽高等学校(大阪・府立)

授業見学、生徒評価、テスト分析で気づきを得て深い学びの実践に活かす

創立1900年/普通科(男女)/生徒数1037人(男子464人、女子573人)/進路状況(2021年3月実績)大学297人、専門学校等5人、就職1人、その他52人


泉陽高等学校 先生方の集合写真
左から、進路指導主事の野口清隆先生、校長の武田温代先生、出原小百合先生。


生徒が深く学べるように授業を多角的に分析

 泉陽高校は、武田温代校長を先頭に2つの柱を軸に授業改善を進めてきた。

 1つは「授業力向上プロジェクト」だ。2019年度より、主体的・対話的で深い学びを推進すべく、相互の授業見学や研修を実施。生徒による授業評価も活用し、例えば「自分で考える・発表する場」を教員は増やしたつもりでも、生徒はそう感じていないことなどを検証してきた。


写真 泉陽高等学校 授業風景
授業の1コマ。授業のなかでグループワークや生徒による発表を積極的に行っている。


 もう1つは「高大接続プロジェクト」だ。共通テストや模試の新傾向について、各教科の先生が「分析」と「生徒への発信」を担当。その分析結果を授業に反映させた。

 実際、これらの取組で社会科の出原小百合先生は「自分の授業が変わった」と感じている。授業見学で他教科の実践に触発され、対話型の授業に挑むようになった。模試分析で「資料を多面的に読み取る力が必要」と感じ、授業でも図表や文献を示し、「気づいたことを教えて」と答えが一つではないことを生徒に問うようになった。

 「気をつけているのは、対話させること自体を目的にしないことです。その対話を深い学びにつなげるためには、どのタイミングで何を問い、どんな資料を提供すればいいか。『発問』や『資料』を厳選するようになりました」

知識・技能の習得だけでなく思考力や応用力も発揮するように

 その授業改善は、生徒の変容にもつながったという。

 「発言の自由度が上がったことで、授業への参加意欲が高まったのです。教科書の語句は暗記していても背景説明は苦手だった生徒が、一つの事柄から重層的で広がりのある知識を紡げるようにもなりました」(出原先生)

 主体的・対話的で深い学びを推進するなかで、同校の進学実績も向上した。共通テスト以上に、2次試験で結果が出ているそうで、「思考力や応用力が問われるところで力を発揮できているのでは」と先生たちはみている。

 その入試のあり方については、進路指導主事の野口清隆先生は「高校生がそれぞれの大学の特色をよりつかみやすいものになるとありがたい」と感じているという。

 「例えば『建築の分野では数学の基礎だけでなく“発想力”“構想力”も必要』というのなら、その点を特色入試などで打ち出してほしいのです。そうすれば主体的に学ぶ生徒ほど目をとめて、距離や地域を越えてその大学を志望する、という動きが出てくるように思います」


写真 泉陽高等学校 授業風景
共通テストや模試結果を分析して発信する進路ニュース。
生徒への情報提供と、先生たちの授業改善促進の両面を兼ねている。




札幌藻岩高等学校(北海道・市立)

探究のリアルな体験でやりたいことを見出し生徒が自ら学びを深める

創立1972年/普通科(男女)/生徒数872人(男子479人、女子393人)/進路状況(2021年3月実績)大学234人、短大5人、専門学校等20人、就職2人、その他48人


札幌藻岩高等学校 先生方の集合写真
左から、総合的な探究の時間の主担当・千葉建二先生、前主担当・長井翔先生。


探究活動のなかで生徒を理解し、よりよい学びのマッチングも支援

 市立札幌藻岩高校は、都市部の進学校ながら、地域連携の探究を進めている。1年次は「社会に目を向ける」として、多様な人と出会って見る・聴く・質問することを体験。2年次は「アイデアを共創する」として、同校のある南区でフィールドワークを行い、課題発見や解決策の提案・実行に挑む。3年次は「未来を描き、行動する」として、未来の社会や自分を見据えてフィールドワークや進路実現に向けた取り組みを。教員はその活動に寄り添うなかで生徒の志向を理解し、知りたいことや学びたいことにマッチする団体や人も一緒に探し、進路相談にものる。


写真 札幌藻岩高等学校 探究の1コマ
探究の1コマ。子育て・福祉をテーマに探究した生徒たちがボールプールを体感。


計画にのせるのではなく自走する生徒と一緒に考える

 こうした取り組みの原点は、2018年度より2年次の総合的な学習の時間で地域連携の活動を始めたことだ。千葉建二先生が、同僚と一緒に地域に出て連携先を開拓した。

 「学校で言われたことだけを学ぶのでなく、『生徒が外に出て多様な生き方や社会の課題を知り、そこからやりたいことを見つけて学ぶ』ようにしたかったのです。生徒が自走し出すと何が起きるかわからない大変さはありますが、我々も『一緒に考えて楽しむ』ようにしています」

 その学年団の取り組みに、学校改革のプロジェクトチームにいた長井翔先生が着目、全体に広げようと提案した。「未来が見えない時代には『生徒がリアルな体験から実感のこもった問いを見出し、自ら学んでいく』ことが大事。外につながる学びの場を広げていきたかったのです」


図表 札幌藻岩高等学校 学びの4象限


 取り組みを進めていくと、「言われたことをやる」傾向のあった生徒たちが「やりたいこと、やりたくないことを意思表示する」ようになったという。思いをもって行動・発信し、受験等の進路に結実させる生徒も出てきた。

 長井先生は地域探究を発展させ、「生徒が札幌のまちで24時間自由に学べるようにしたい」という。地元の大学や他の市立高校との連携も推進。「予算や計画の話から入るより、多様な人がまちづくりを議論するような場で出会い、できることから始める」のが理想だと感じている。

 そうして学んだ生徒の進路は、全国に広がる。だから千葉先生は「全国の進学先でも、実社会で学びながら力を発揮できるステージがあってほしい」と願っている。

(文/笹原風花)


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