入試は社会へのメッセージ[2]問いを立てる力は何故必要かー事例:大正大学 地域戦略人材育成入試

大正大学は、2022年度入試より総合型選抜の一環として「地域戦略人材育成入試」を開始した。その内容、背景にある課題意識や教育改革について、地域創生学科の浦崎太郎教授、入試部部長の井上隆信氏にお話を伺った。

浦崎太郎教授、井上隆信氏

創立100周年に向けた大学教育のリ・デザイン

 現在、大正大学は2026年に迎える創立100周年に向け、教育改革を進めている。文部科学省の令和2年度「知識集約型社会を支える人材育成事業」に採択された事業がそれだ。社会変化に対応した大学作りを2026 年からバックキャスティングで行うべく、「地域戦略人材育成」を軸に教育・研究体制を整備するのが概観である(図1)。その筋道を「MIGsアジェンダ2026」と規定し、実現のための具体策をまとめた行動計画(図2)を策定して「地域戦略人材」を育むという筋書きだ。併せて、全学必修の第Ⅰ類科目で徹底したチュートリアル教育を行い、横断型科目やデータサイエンス等の次世代スキル科目を経て、専門の第Ⅱ類科目でゼミの学びを、第Ⅲ類科目でアントレプレナーシップを育む、という教育体系を整備した。

図1 地域戦略人材育成事業、図2 MIGsアジェンダ2026行動計画

 こうした教育改革は2つの強烈な危機感に裏打ちされている。まず、18歳人口の減少が大学経営を直撃する中で、生き残るためには独自性が必要だという観点。もう1つは、大学のバックボーンである仏教に関連した危機意識だ。「現在、地方の衰退によって多くの寺院が存亡の危機にあります。地域振興は寺院存亡の生命線なのです」(浦崎教授)。だから大正大学は地域主義をうたい、地域戦略人材育成を掲げるのだ。それは大学のDNAの根幹に関わる原動力なのである。

 地域主義の具現化は、2014年に地域構想研究所を、2016年に地域創生学部を開設したことに端を発する。日本の将来像における地域振興の重要性から、首都圏であっても地域のあり方を構想できる人材育成が必要との強い信念のもと、現在も継続的にチューニングを重ねている。その象徴であるMIGsの実行状況は魅力化推進部により定期的に進捗確認され、必要に応じて、専務理事が招集する総合政策会議に接続される仕組みで、全学挙げての改革を推進している。

新旧課程を巡る高大接続の課題感

 もう1つ検討の軸は、高大接続に関する課題意識である。元高校教員でもある浦崎教授は、「新学習指導要領導入で高校の学びはアップデートされつつある。大学は新旧のアプローチの違いをきちんと理解しないと、接続のあり方を見誤る」と話す。

 新旧課程で最も違うのは、「問い」の有無だ。例えば地域課題解決に向けたアプローチでも、旧課程は「大人が与える地域課題の解決に取り組ませることで当事者意識・能力が向上し、地方創生が実現する」と考える。一方、新課程は「自らの興味関心・問いへの取り組みを支援すると、地域に多様な才能が開花し、自分らしく地域に参加する喜びを実感することで地方創生が実現する」と考える。この差はそのまま前述した大正大学の教育改革の軌跡だ。「お膳立てされた課題解決に取り組むのでは主体的に価値創出できるはずもない。自らの問いを軸に置くことで地域戦略人材が育つという本学の屋台骨が決定的になったわけです」と浦崎教授は言う。「本学がMIGsアジェンダ2026に示す共生社会は、きれいごとではなく具体的に価値を生み出し、地域経済を回せなければ実現はあり得ません。どこに着目してどう価値を創出するのかは、自分ごととして課題を捉えて出てくる問いに立脚するもの。そしてその実行推進には、アントレプレナーシップが必要です」。教育改革の方向性は地域の実情のみならず、高校教育の変化も捉えているのである。

 高校で新課程型の学びを実践してきた学生の成長が、大学入学を機に止まることがあってはならない。既に問いを持つ学生に対してはそれを育てる仕組みが、まだ問いを持たない学生に対しては自分の問いを持てるような機会の提供が必要となる。「学生の気づきを尊重し、そこに寄り添うスタンスを大事にしたい」と浦崎教授は言う。

問いを立てて学んだ経験を問う入試

 地域戦略人材育成入試は、「問いを持って学んだ経験」を問う入試である。まず、一次審査では志望理由書・調査書を用いて、学部のアドミッション・ポリシーと以下2点から志願者の「これまで」を評価する。

  • ・実社会と己の関わりから生まれた問いに基づいて課題設定し、プロジェクトを立ち上げ、実践した経験がある
  • 志望学科の専門科目につながる学習経験を持っている

 単に探究した事実では評価されないことに注意が必要だ。問われているのは、「探究から知識習得に立ち返り、その知識をもってさらに問いを深めるサイクルを回せたか」である。浦崎教授の言葉は明快だ。「大学教育の土台は高校の学習です。だから本学は、問いを軸に学べたかを問いたいのです」。自分の問いの解決のために「もっと学びたい」と思った経験がなければ大学教育への接続にならない。何故なら大学は学問をする場であるからだ。ここを読み違えてはならないだろう。

図3 個性に応じた学び(マイプロジェクト)の支援を軸とした高大一貫教育

 書類審査では、これまでの経験や志望理由を、具体的な事実やエピソードで記載することを求める。フォーマットなしの自由記述だ。これについて井上氏は、「項目を埋めるのではなく、思考力を駆使して書くという行為に拘りました。大学教育への接続を考えてのことです」と言う。二次審査はプレゼンテーション・面接である。志願者の「これから」を、以下4つに基づいて評価する。

  • 自己探究計画:どんな強みを持ち、今後どこまで磨きをかけ、どんな自分になりたいのか
  • 学問探究計画:どんな経緯でどんな問いを持ち、4年間で何をどのように学びたいのか
  • 価値創造計画:どんな価値をどんな社会に生み出し、貢献したいのか
  • コミュニティ貢献計画:周囲の学びをより豊かなものにしていくために、自分はどう貢献していけるか

 「本学の地域戦略人材育成入試を、自らを顧みて成長するチャンスと捉えて挑戦する方の受験を期待しています」と井上氏は言う。高校生が探究で得た「問い」を高大7年かけて育成する大学側の覚悟が、新たな高大接続の形に結実するのであろう(図3)


(文/鹿島 梓)


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