地元企業の声をもとに、地域が求める「6つの力」とその育成プログラムを構築。県内就職率向上に取り組む/山口大学

山口大学キャンパス


 地域で活躍できる人材の育成・輩出に取り組むにあたり、学生と地元企業とのマッチングが課題となる大学は多い。この課題に対して山口大学は、2015年度より山口県内の12の高等教育機関、及び県内の自治体・企業と協働して「やまぐち未来創生人材育成・定着促進事業」に着手。文部科学省「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」に採択され、5年間の事業期間をへてS評価を得た。取り組みの詳細と今後の展開について岡正朗学長に伺った。

岡正朗学長

学年ごとの段階を踏みながら地域が求める力を育成

 「やまぐち未来創生人材育成・定着促進事業」は、山口大学をはじめとした県内12 の大学、短期大学、高等専門学校と、165の自治体・企業など(2020年3月31日時点)が協働して地域社会が求める人材を育成する教育プログラムを構築・実践し、事業期間の5年間で卒業生の県内就職率向上を目指したもの。教育プログラムの構築にあたっては、当初の参加企業18社に働く人材に求める力を調査。その結果をもとに、①やまぐちスピリット、②グローカルマインド、③イノベーション創出力、④協働力、⑤課題発見・解決力、⑥挑戦・実践力を、地域が求める「6つの力」として整理し、これらの力を育成する「YFL(Yamaguchi Frontier Leader:やまぐち未来創生リーダー)育成プログラム」を構築した。

 YFL育成プログラムは、1年次から3年次にかけて以下の段階を踏みながら、6つの力の育成と山口県の地域・企業について理解を深めていく。

  • 1年次:自治体や企業のトップリーダーによる講義「やまぐちの行政・経済を学ぶ」、特許やデザインなど知的財産について学ぶ「知的財産入門」などの科目で、地域で生き抜くための実践的なスキルを習得
  • 2年次:合同合宿型フィールドワークで地域や地元企業・自治体への理解を深める
  • 3年次:課題解決型の実践的なインターンシップで、課題発見・解決力を培う

 12の開講科目は8の必修科目及び4の選択科目で構成しており、所定の12単位を取得した学生には修了証として「YFL認定書」を発行。就職活動時のアピール材料としての活用を促している。

 加えて、年1回、県内の大学生を主な対象に「山口きらめき企業の魅力発見フェア(Jobフェア)」を開催。事業参加企業を中心にブース出展を募り、各社の魅力を学生に伝える場を設けている。岡学長は実施背景を「新入生の約75%は県外出身者で、3分の2が『知っている県内企業は0~4社』という状況。企業を知らないと就職先の選択肢にも入らないので、早期に知ってもらうことから始めた」と説明する。出展企業に対しては、就職説明会ではなく企業の魅力を発信する場であり、成果は3~4年後に結びつくと説明するとともに、出展・プレゼン内容について外部のコンサルタントによる評価をフィードバックし、質向上に努めている。

図 やまぐち未来創生リーダー(YFL)育成プログラム

事業協働機関への就職率が向上

 取り組みの結果、山口大学の学生においては、事業開始から4年を経た19年度時点で参加企業136社(自治体・経済団体等を除く)への就職率が12ポイント増加という好結果が得られている。岡学長は「年間約40名のYFLプログラム修了学生に限らず、YFL育成プログラムの一部の科目やJobフェアに参加した学生も含めて、私たちが用意した様々な機会に触れて地元企業や地域貢献に対する意識が高まり、興味がわいてくるという効果があった」と評価する。

 地元自治体・企業との協働事業を推進するには、参画企業集めや信頼関係の構築が不可欠だが、本事業においては、岡学長をはじめ、COC+の専任組織のリーダーに招聘した元山口県産業技術センター理事長、COC+担当の副学長が企業を訪問し、当初20~30程度だった事業協働機関を最終的に165まで拡大させた。そして、信頼関係の構築・連携強化に重要なのは「やはり人間関係だ」と話す。「連携会議も行っていましたが、いちばんは1社1社と直接コミュニケーションを取ること。トップによる訪問はもちろん、COC+の担当職員が5年間、各事業協働機関に毎月コンタクトを取り続け、1つでも多く本気で取り組んでしっかりと応える。その積み重ねで『山大は本気で地元を考えてくれている』と思われてきているのかなと思います」(岡学長)

COC+終了後も取り組みを継続・進化させる体制を構築

 COC +終了後も取り組みを継続・進化させる体制を構築「大学リーグやまぐち」。県内の高等教育機関の連携を深め、行政や産業界ともネットワークを形成して若者の定着促進や高等教育機関の地域貢献力の向上による地域社会の発展を目指しており、山口大学は県内定着促進を主管する大学としてJobフェアの継続と、小規模版の「ミニJobフェア」の県内各地域での開催等に取り組んでいる。

 「大学リーグやまぐち」。県内の高等教育機関の連携を深め、行政や産業界ともネットワークを形成して若者の定着促進や高等教育機関の地域貢献力の向上による地域社会の発展を目指しており、山口大学は県内定着促進を主管する大学としてJobフェアの継続と、小規模版の「ミニJobフェア」の県内各地域での開催等に取り組んでいる。

 そして、新たな取り組みとして、大学が所在する地域における「地域連携プラットフォーム(仮称)」の構築や、新山口駅に隣接する山口市産業交流拠点施設の利活用による各種団体との協働など、22年度から開始できるよう準備を進めている。「学外に出て行くことで産学官連携をさらに強め、大学の必要性を地域の皆さんに一層認識していただくことに努めていく。そして、地域の企業も含めてこれからの教育や研究、産業のあり方を議論し、成功例を出していきたい」と岡学長は意気込む。「学ぶ」と「働く」をどうつないでいくのか、今後の展開に注目したい。


(文/浅田夕香)


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