「大学での学び」と「社会での実践」を段階的に積み重ね社会で活躍できる人材を育成する/京都産業大学

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 「将来の社会を担って立つ人材の育成」という建学の精神のもと、長期や複数回の就業体験を含んだ学修プログラムを企業や行政と連携して開発。日本型「コーオプ教育(Cooperative Education)」として長らく取り組んできた京都産業大学(以下、京産大)。「大学での学び」と「社会での実践」を段階的に積み重ねて社会で活躍できる人材の育成を目指すこの取り組みは、文部科学省「現代GP」を皮切りに継続して文部科学省や経済産業省の事業にも採択されている。その現状と成果について、黒坂 光学長、植原行洋キャリア教育センター長、キャリア教育センター・松本翔伍氏に伺った。


黒坂 光学長、植原行洋キャリア教育センター長、キャリア教育センター・松本翔伍氏


建学の精神を体現するべく設計されたコーオプ教育

 京産大がコーオプ教育を開始したのは1998年度。「教育としてキャリアを考えるというところにいち早く踏み込んだ大学ではないか」と黒坂学長は自負する。

 「教育としてキャリアを学ぶ」を体現しているのが、綿密に構成されたカリキュラムと、大学の組織体制だ。社会を生き抜く力の育成を目指し、学年を追って「大学での学び」と「社会での実践」を段階的に積み重ねていけるよう体系立てられた「キャリア形成支援プログラム」を教養教育として全学生を対象に開講。背景にある考え方を「教室の中と社会の現場はつながっているようで連続性がない。座学での学びをもとにして、企業や行政の現場に長期または複数回入って現場の意見や実態を知り、その経験を座学に戻り活用することを繰り返して理論知を実践知まで高め、生きた教育をするのが本学の考え方」と黒坂学長は説明する。そして、このプログラムを担う組織として「キャリア教育センター」が、進路指導や就職支援を担う「進路・就職支援センター」とは別に、共通教育を担う組織群の中に設けられている。

4年間をかけて、段階的に社会を生き抜く力を育成する

 インターンシップの機会提供にとどまらず、日頃の学修と関連づけた教育を実践している点に、京産大の強みがある。その流れを詳しく見ていきたい。キャリア形成支援プログラムでは、大きく次の段階を踏んでキャリア観や社会を生き抜く力を育んでいく(図参照)。


図 キャリア形成支援プログラム概観


  • 1年次:導入・接続教育科目群(3科目)にて、自分自身や社会について知り、大学生活の過ごし方を考える。
  • 1・2年次~:産学協働教育科目群(全14科目56クラス)に移行。キャリアデザイン系科目では自分自身を知り、将来の職業やキャリアについて考える。PBL系科目では企業や行政からの課題にチームで取り組み、社会とのつながりや働くイメージを実感する。そして、インターンシップ系科目で個別の企業・行政の現場に入る。各インターンシッププログラムは、5日以上のものが産学協働で開発されている。

 全て選択科目だが、1年次春学期の「自己発見と大学生活」においては、学年の3分の2に当たる1900名程度が受講できるよう設計されている。その後、秋学期に「O/OCFPBL1」、2年次に「O/OCF-PBL2」、3年次に「インターンシップ3」(国内企業でのインターンシップ)を履修するのが主流だという。

 そして、一連の流れにおいては「単に就業体験をするだけではなく、学生の学びの質を担保することに注意を払っている」と黒坂学長は話す。これは、段階を踏んでインターンシップに至るカリキュラム構成だけでなく、インターンシップ科目内での丁寧な事前学習や企業との密な連携にも表れている。例えば「インターンシップ3」では、事前学習として90分14コマかけて目標の設定や実習先企業の研究等を行う。また、キャリア教育センターのインターンシップ専門人材2名が中心となり、企業、学生、教員の3者をコーディネートしてプログラムをまとめるとともに、学生約200名を企業に送り出す8月~9月上旬には、受け入れ企業のうち約40社を訪問して学生の活動状況を把握する。現地で得た情報を科目担当教員と共有して事後学習の際に学生へフィードバックしてもらう体制も作っている。「実習中も企業に丸投げせず、大学と企業が連携して実習を遂行するのも、教育型インターンシップとしてのこだわり」と松本氏は話す。資格取得学部の実習さながらの体制だ。

 加えて、キャリア教育センターの担当職員が毎年秋に全国約240社を訪問して次年度の受け入れを依頼。承諾を得られた約170社のうち学生とのマッチングから漏れた企業には改めてお詫びに訪問する等、face to faceで信頼関係を築いている。「職員による関係構築はもちろんのこと、学生ならではの視点やアイデアを期待する企業様にきちんと応えられるプログラムを我々が作り、学生が責任感を持って現場に入るというwin-winの関係ができていることが、協力を続けて下さる理由の一つになっていると思う」と植原氏は話す。

仕事の満足度が自己の仕事観に起因する受講経験者

 開始から20年を超え、定量的な成果も見えてきている。例えば、PBL系科目「O/OCF-PBL」受講者の卒業後調査から、仕事の満足度の要因が給料や職場環境等の外部要因ではなく、自己の仕事観にある人の割合が高いことが分かっている。黒坂学長は「本学のキャリア教育が長い人生における資産になっていると感じる」と評価する。また、キャリア教育で重視している指標ではないが、就職活動において、非受講者に比べて受講者は進路が決定している割合が高く、内定獲得時期も早いという結果も出ている。

 今後の展開としては、「専門教育におけるキャリア教育の推進」「体育会等、まだキャリア教育が十分に行き届いていない学生を対象としたキャリア教育プログラムの浸透」「低年次向けインターンシップの充実」の3つを黒坂学長は挙げる。専門教育におけるキャリア教育は、情報理工学部と生命科学部が取り組む「理工系コーオプ教育プログラム」が2021年日本インターンシップ学会第4回槇本記念賞において「秀逸な事例」に選定される等、3分の2の学部・学科が濃淡の差はあれど専門教育とコーオプ教育の協働に取り組んでいる。これらをさらに充実させていくという。

 「学生を教室にとどめ、座学だけで専門知識を与えれば十分と考えて学生を社会に送り出すのは間違い。人間的な成長を促し、社会を生き抜く力を育むことに、キャリア教育、そして大学の役割がある。今後もキャリア教育をさらに広げて、School to Workを実現させていきたい」と黒坂学長は意気込む。京産大のコーオプ教育のさらなる進化に期待が膨らむ。


(文/浅田夕香)


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