「教職協働」による質の高い学生サポート体制の構築で高い卒業率を実現/産業能率大学 自由が丘産能短期大学
1942年の建学以来、マネジメントの総合教育・研究機関として産業界に多くの人材を輩出し続ける産業能率大学。通信教育課程では年齢もスキルも幅広い学生を受け入れる一方、サポート体制や添削指導、スクーリングやオンライン授業における利便性の工夫等により、大学では77.0%、短期大学では66.5%という高い卒業率を誇っている(2021年3月度卒業生)。その取り組みについて自由が丘産能短期大学の池内健治学長に伺った。
一カ所で長期間学ぶリスクを避け通信教育課程を選ぶ人が増えている
産業能率大学通信教育課程の在学生は、男女比が男性48%、女性52%(図2)。年齢層は幅広く、高卒から22歳までの層が23%、23~29歳が14%、以降は30代が20%、40代が27%、50代が14%、60代以上が3%という分布で(図2)、社会人としてある程度の経験を重ね次のキャリアを見据える30代から40代の層がその中核となっている。社会に出てキャリアを積むなかで学歴のハードルを感じる高卒・高専卒・専門学校卒者のほか、FPや心理系の資格を身につけるために短大から編入する学生、専門性を身につけるため、またはキャリアチェンジを図るための学びを求める大学既卒の学生等、属性は実に多様だ。
彼らがこの時代に通信教育課程を選択する背景には、転職が当たり前の時代となり終身雇用にこだわる人が少なくなってきたこと等、働き方の変化の影響もあるようだ。池内学長はこう語る。
「働いている人たちにとっては、4年間を一つの大学で学び続けることはリスクが大きい。会社を変えたいと考えることもあるだろうし、転勤もあるかもしれません。学生と話をしていると、まず2年間で短大卒の資格を取り、卒業時の状況次第であと2年学んで大卒の資格を取る。できればさらにスキルアップを狙って大学院に行く、というように、キャリアパスとともに自分の学習を積み上げようと考える人が多いんです。そうした場合に一番選びやすいのが通信教育課程なのだと思います」。
知識の上積みと精神的な余裕につながる2カ月に1度の科目修得試験
産業能率大学では入学者の受け入れにおいて5つのアドミッションポリシーを定めているが、その根幹にあるのは学力よりも学ぶ意欲である。なかでも「通信教育の場合であっても他の学生と共に学ぼうという姿勢を持った人を受け入れたい」と池内学長は言う。
一方、社会人学生の場合は学びの意欲はあるのに学びの習慣が身についていないケースも多い。とりわけコロナ禍において属性だけでなく学び方も多様化するなか、産業能率大学では、まず学びのスタートを切ってもらうために「産業能率大学とマネジメント」という1単位の授業を設けフォローアップを図っている。そこでは、大学について知ってもらうと同時に入学時の学習ガイダンスで通信教育課程における学び方やWeb試験の受験方法等を解説し、個別学習相談で学習上の不安をなくすよう工夫している。
また、特に社会人学生は活字を読むこととそれをリポートに書くことの2つに不安を持つ人が多いため、個別にガイダンスを行う等の取り組みも行っている。学生が自主的に学び合い交流するための組織である「学生会」が地域やテーマごとに活動しており、学生同士が学び合う機会も作っているそうだ。科目修得試験も、通常の大学では一発勝負が常識のところを2カ月に1度試験をすることで、繰り返しチャレンジすることによる知識の上積みと精神的な余裕を学生にもたらしている。
電話相談の窓口をプロに委託することで職員は複雑な相談に特化
こうした学生のフォローにおいて重要なのは「教職協働」だと池内学長は語る。教職員全体のミーティングを定期的に行い意見交換しながら学生へのフォロー体制を検討し、実行に移している。入学式や学習ガイダンスにおいても、仕組みは職員が、学習の仕方は教員が説明する等して連携を取る。
「スクーリングや試験の採点があるため教員のほうが学生との接点を持っているように思われがちですが、実は職員のほうが窓口等で学生の動向を詳しくキャッチしていることも多いので、とりわけ通信教育の場合は事務方の力が非常に重要になると思います。教職協働でそれぞれが見えないところを洗い出して課題を明確にし、その課題にどう対処するかのトライ&エラーを繰り返す。そうすれば学生へのフォローの質は自ずと高まっていくと思います」。
さらに、外部委託による相談窓口の専任者が電話やメールによる相談にも対応している。窓口で問い合わせ内容を仕分けし、その場で答えられる内容に関してはその場で回答、複雑な内容については職員が折り返す対応をしている。このサポート体制にも池内学長は手応えを感じているという。
短期間でスキルを修得し仕事で活かすその体制を大学主導で構築すべき
今後の大学教育の在り方について、池内学長は「学位にこだわらない学びのスタイルの構築が必要だ」と語る。中央教育審議会の「2040 年に向けた高等教育のグランドデザイン」答申にあるように、18歳人口が減るなか、社会のニーズをどう取り込み対応していくかが大学にとって大きな課題となっている。それを考えた場合、学位だけではなく資格やスキルの修得を目指す社会人学生がより学びやすい環境を整えるべきだろうという考えだ。
「技術革新のスピードが増すなか、今必要な能力のためにわざわざ学位を取っていたのでは、その間に世の中が変わってしまうだろうと思うのです。アメリカのコミュニティカレッジでいう職業訓練コースのようなモデルに転換していく等、もっと短い期間で修得できる履修証明のような仕組みを作り、しかもそれが職業の中でしっかり活かせるような体制を大学主導で構築することが必要。今、まさにそのチャレンジに適したタイミングではないかと思っています」。
(文/高橋晃浩)