全学共通教育を刷新し、学生が自ら学びをデザインするカリキュラムを作る/上智大学
長期計画「グランド・レイアウト2.1」にて、重点計画の1つに「次世代社会へ向けた学部教育の再構築」を掲げ、2022年度より全学共通教育のカリキュラムを刷新する上智大学。絶えず急速に変化する社会で求められる学び続ける力を育て、学生が「自律した学修者」となれるよう、専門教育と教養教育が有機的に連携するカリキュラムを作るというこの取り組みは、一般財団法人三菱みらい育成財団の2021年度助成対象にも採択された。取り組みの狙いについて曄道佳明学長に伺った。
専門教育と教養教育を有機的に連携させ多角的な視座を得る
今回のカリキュラム刷新の背景にある課題意識について、曄道学長は「大学が提供するプログラムがいかに良くデザインされたものであっても、学生自身が意思を持って学びたい科目やプログラム、経験したいことを選び、自分で自分の学びを作っていかなければ、社会に出ても『次は何をすればいいのか?』と受け身のままになってしまう。そこを変えたい」と話す。
その考えのもと、2022年度からは、まず、入学前準備教育として、上智大学での学びをイメージし、入学後の学修への動機付けを行う科目「学びを学ぶ」をオンデマンドで提供。そして入学後は、大きく「コア」と「展開知」に分けられた科目群からなる全学共通科目を提供し、語学科目や所属学科の専門科目と連携させて学べるようにする。
「コア」科目群は、「人間理解」と「思考の基盤」の2つの柱からなり、前者は、キリスト教ヒューマニズムに基づく精神性と身体性の両面から人間理解を深めていく科目カテゴリー(キリスト教人間学、身体知)で構成される。後者は、現代社会に求められるリテラシーとして、論理的・批判的思考を身につける「思考と表現」とデータ活用の知識や能力を身につける「データサイエンス」の科目カテゴリーがある。
「展開知」科目群は、未来を展望し、課題を認識して正解のない問いについて批判的に考える素地を作ることを目指したもの。まずは導入の「課題認識」科目で、社会での自分の立ち位置や学問的アプローチの違いがものの見方に与える影響を考え、多角的視点の必要性を意識したうえで、様々な課題を複数の視座や経験・実践から見る「社会課題と展望」「視座」「実践・経験」の科目を履修する構成になっている。
この構成について曄道学長は、「知は、ストックするだけでなく展開・発揮するもの。その際、課題を認識する力や、社会や自分自身を展望する力があってこそ、生涯の学びがデザインされていく。加えて、今は1つに偏らない、様々な視座から物事を見ていくことが必要な時代。これらを大学でも経験してもらうというのが我々の設計思想」と説明する。
「コア」「展開知」どちらの科目群も、1年次の導入的科目だけでなく高学年科目まで配置。その意図を曄道学長は「学科の専門的な立場からの見方だけでなく、全学共通科目によって得た多角的な視座から別の見方もできるようになってほしいから」と説明する。「例えば、開発経済を学んでいる学生が、向き合っているグローバルイシューについて考えるうえで国際教育についても学びたいと思ったとき、いきなり教育学科の300番台の科目を学びにいくのは教育学の基礎がないため難しい。そこで、教育について知識としてではなく自分の分野に応用できる範囲で学べる科目が全学共通科目の中にあればもう1つの視座が得られ、その学生の学びの個性とも言える、独自の立ち位置が生まれてくる」と期待を寄せる。
「セルフ学修ポートフォリオ」で学生が自ら学修をデザイン
カリキュラムの設計を担うのは、2021年7月に設置された「基盤教育センター」だ。「基盤教育」という呼称には、専門教育、全学共通教育、語学教育という上智大学が提供している3つの教育全てが基盤になるという意味が込められ、専門教育や語学教育との有機的な連携を生み出すために全学共通教育で提供すべき科目とそのレベルを検討・設計する役割を担う。「言わば、大学での学びそのものを俯瞰的な目で設計する部署」と曄道学長は説明する。
さらに、学生が「自律した学修者」として学びをデザインしていくためのツールとして、新たな教育体系に合わせた「セルフ学修ポートフォリオ」も2022年度から開始される。現在開発が進められている最中だが(取材時点)、「ポートフォリオの浸透・活用において鍵を握るのは、教員の自覚」という考えのもと、学生はもちろん、教員が学生から今後の学びの方向性について相談を受けたときや、担当する学生の学びの進捗や成果を把握する際などに活用することも強く意識した設計が進められている。
カリキュラム外でも学生達が学び・経験を積める機会を増やしていく
このようにして学修者本位の教育への転換を図る上智大学。今後目指すのは、「『学びをデザインする』という行為の主語が学生であることをより鮮明化していくこと」と曄道学長は話す。そのために、教育体系の整備だけでなく、学生の自由な発想や主体性の中から生まれてくる、学生達が背伸びをする場も作っていきたいという。
「例えば、産業界との連携により新しいクリエイティブな学びの場を創出したり、学生が経験したことのないような海外の環境に身を置いてそこにある課題を認識したりする機会、世界のリーダーをキャンパスに招いて対話する機会といった学びの場を今後も提供していく。そして、それらの場を、オンライン環境も含めて、社会人や高校生も来るような社会が学ぶ場として成熟させていけば、本学の学生にとっても貴重な場になるだろうと考えている」(曄道学長)。
新カリキュラムを履修した学生の活躍に期待が膨らむ。
(文/浅田夕香)