大学ブランド力の理由[2]STEM教育、SDGs等の新領域も切り開き、 他の女子大との差別化を図る/大妻女子大学

800近い大学がある中、その大学ならではの独自性をいかに確立するか、そしてどのように高校生をはじめとするステイクホルダーに伝えていくかは、大学の経営戦略における生命線ともいえるだろう。本企画では、選ばれる大学としてのブランドを明確化するとともに、ブランド力向上のためのコミュニケーション戦略を磨き続ける大学を紹介する。

 創立者大妻コタカが1908年に開設した裁縫・手芸の私塾から始まり、2018年に創立110周年を迎えた大妻女子大学。千代田と多摩に2つのキャンパスを持ち、家政、文、社会情報、人間関係、比較文化の5学部1短大、学生数7,426(2021.5.1現在)人を擁する最大級規模の女子総合大学として、リクルート進学総研「進学ブランド力調査」の「志願したい大学ランキング」でも、2021年をはじめ、女子大において過去6年間で5回1位になっている。

「良妻賢母の大妻」からのシフトチェンジ

伊藤正直学長

 伊藤正直学長は、「女子大が生き残っていくために、社会での役割を果たす教育の中身を革新していくことが、一番のブランド力になると考えて改革を進めている」と語る。

 創立100周年である2008年に策定した中期計画において、「千代田キャンパスへの集約」を掲げたプロジェクトがスタート。2015年に家政・文学部の1年生を狭山台から千代田へ、2016年度に比較文化学部、2017年度に社会情報学部を多摩から千代田へと、段階的に移転を完了した。

 創立110周年である2018年には、新たな中期計画を策定。この10年で女性の働く環境が大きく変化するなか、女子大としての使命と教育目標を再規定する必要があると考え、学院の新しい使命として「学び働き続ける自立自存の女性の育成」を前面に打ち出し、改革をスタートした。

 新ビジョンは、「『VISION OTSUMA 2028』~2028年度までに教育・研究面において女子大トップリーグの一角を占める位置へ」。15、6年前まで強くあった「良妻賢母の大妻」のイメージを払拭し、フォロワーシップからリーダーシップが取れる女性を育てる方向にシフトチェンジする。

 一つ目の戦略は「『教育と研究の大妻』へ一段のギア・アップ」である。教育系大学でも新しい質の教育を行うには研究が必要と考えたためで、研究を戦略的に拡充し、成果の発信を広報活動の中核に位置づけることで、ブランドイメージを刷新していった。具体的には、研究成果をまとめた小冊子「大妻ブックレット」の発行、科研費採択件数増加に向けた「科研塾」への取り組み等だ。

 さらに「強く明るく風通しの良い大妻」を掲げ、ガバナンス改革も行った。常任理事と副学長等をアクションプランの責任者とし、理事長による学院方針説明会や、学長と学部長、理事長と事務局各部長・若手職員との懇談会を開催し、改革の共有に努めた。また学部・学科の連携を深め、全学で政策論議を行う会議体として、学部長会議、局部長会を新たに作り、それを常任理事会に直結させるという、ボトムアップとトップダウンを強める組織改革が進行中だ。また、多くの委員会には職員が構成員として加わり、教職協働体制も構築した。

STEM系教育を強みとするカリキュラム改革

 2019年度から、自立自存の女性の育成に必要なリテラシーとして、人文・社会科学の教養やSDGsを加味して、カリキュラムツリーとカリキュラムマップを作り直してきた。

 この数年でグローバルやビジネスなど、とがった教育を打ち出す女子大が増える中、新しい大妻の教育の強みはSTEM系教育だという。世界的に見て日本女性のIT系等へのキャリア選択が進展しない状況において、社会情報学部の情報デザイン専攻は半数を超える卒業生がSEとして就職していく。

 特筆すべきは、2019年度に同大学としては初の私立大学等改革総合支援事業タイプ1「『Society 5.0』の実現等に向けた特色ある教育の展開」に選定されたことだ。中期計画のガバナンス改革と連動し、学長のリーダーシップのもと、教員と職員混成のプロジェクトチームで、全学的な教学マネジメントとIR推進に取り組んだ結果だ。

 こうした教育改革の成果は、徐々に世の中に認知され始めている。例えばSDGsの活動においては、ネパール地震で被害を受けたムラバリ村の女性自立を支援しようと、家政学部児童学科のゼミ生13人が、「大学SDGs ACTION! AWARDS 2020」で村のウコンをはじめとした名産品による村おこしのプランを発表し、スタディツアー<下川町×JAL>賞を受賞した。STEM系でも、社会情報学部社会情報学科情報デザイン専攻のゼミ生が、「東京国際プロジェクションマッピングアワード」に応募し、大会が始まった2016年から6年連続で予選通過、作品上映を成し遂げている。

 伊藤学長は、ブランドイメージ向上の実感値として、キャンパス移転の効果が大きかったとも振り返る。多摩に社会情報学部と比較文化学部があった頃は東京西部と神奈川東部からの受験生が多かったが、千代田に移転してからは、今まであまり来ていなかった東京都心、千葉、埼玉から多くの受験者が集まり、この5年で学生の基礎学力が向上し、1学部のみとなった人間関係学部も大妻志望の受験生が集中したため偏差値が上がった。女子大の特徴として学生の学力のレンジが広く、リメディアル教育に相当な努力を要していたが、学力が上がったことで教育効果が格段に上がり、社会に出たらどう生きたいかを真剣に考える学生が増えてきた。「そうすると、本当にやりたいことをどんどん吸収できるようになる」と伊藤学長。今後はSTEM系に加え、SDGsの社会共生的な分野などの新領域を開発し、他の女子大との差別化を図っていきたいと構想をのぞかせた。


図 自分の学び方は自分で決めるカリキュラム
社会情報学部情報デザイン専攻 堤ゼミは「東京国際プロジェクションマッピングアワード」に
大会開催当初から唯一連続参加している女子大学チーム。
3DCGや映像編集のスキルを駆使した作品でメディアにも注目された。



図 自分の学び方は自分で決めるカリキュラム
「大学SDGs ACTION! AWARDS 2020」において、家政学部児童学科 金田ゼミの学生のプロジェクト
「Yellow Dream Project ~持続可能な女性支援プロジェクト~」がスタディツアー賞を受賞した。
(写真中央の黄色のジャケットを着ている二人が、大妻女子大学の学生)



(文/能地泰代)


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