学ぶと働くをつなぐ[35]地域協働型教育で、スーパー・リージョナル・ユニバーシティを目指す/高知大学

高知大学キャンパス


櫻井克年学長

 高知大学は第3期中期目標に「地域協働による教育」を掲げ、「スーパー・リージョナル・ユニバーシティを目指します!」と宣言。2016年度大学教育再生加速プログラム(AP)テーマV「卒業時における質保証の取組の強化」もこの「地域協働型教育」を加速させるものと位置づけている。櫻井克年学長は、「地域にどっぷり入って地域の人と一緒に考えて、のたうち回って答えを出す。そういう人材の育成こそ、高知大学にしかできない『売り』になるという思いがありました」と語る。

 高知大学は以前から、地域と向き合う様々な取組を行ってきた。2008年度のスタートから数百人の社会人修了生を輩出している土佐フードビジネスクリエイター(FBC)人材創出事業。2013年度からのCOC事業の一環として始まった、インサイド・コミュニティ・システム化事業(KICS)では、ユニバーシティブロックコーディネーター(UBC)という4人の教員を、県内各地域に常駐させた。そして2015年度には新たに地域協働学部を設置した。

地域協働型教育の評価指標を「10+1の能力」で整理

 そうした中で生じた問題意識の1つが「地域に貢献できる人材に関する評価指標が明確でない」ことだった。そこでAP事業では、地域協働型教育の多面的評価指標の開発を事業の「3つの柱」の1つとし、「10+1の能力」にまとめた。10の能力を統合し他者に働きかける力「統合・働きかけ」を+1としたのが特徴だ。「能力をバラバラに持っているのは、色々な武器は持っているけれど使い方を知らないようなもの」と櫻井学長は言い、武器の数や種類を増やすのではなく、使い方にあたる「統合・働きかけ」を「メタ・コンピテンシー」としてプラスしたという。

 この「統合・働きかけ」の評価は、学部学科ごとに定めた授業科目でのパフォーマンス評価としている。学生総合支援センター長の小島郷子教授は、「働きかけとは、自分が学んだことをどうパフォーマンスとして表せるかだと考えました。教員がそれを評価できるのが授業科目」と説明する。多くの学部では卒業研究科目が対象となる。

 一方10の能力のうち、GPAで評価する2つを除いた8つの能力の評価にはルーブリック(能力測定指標)を取り入れ、2018年度入学生から、学生の自己評価に適用している。ルーブリックの作成は地域企業、高校関係者らが加わった研究会で行い、外部の意見を反映させた。

 「10+1の能力」の策定に伴い、学部学科ごとの従来のディプロマ・ポリシー(DP)を「10+1の能力」に結び付けて見直し、整理した。これらの評価の結果はe-ポートフォリオに蓄積され、2019年度からは卒業時にディプロマ・サプリメントの発行も可能となっている。


アセスメント・スケジュール


リフレクションによるe-ポートフォリオの有効活用

 e-ポートフォリオの有効活用には、リフレクション(振り返り)が不可欠で、年に1回、学生とアドバイザー教員がe-ポートフォリオを参照しながらの「リフレクション面談」が設定されている。それに加え、卒業の出口が見えてくる3年生の前期を、卒業後を見据え、これまでの大学生活を振り返るための「リフレクション・セメスター」としている。

 地域協働の観点で、「学生の成長を地域と社会と協働して検証する」ことも事業の柱とし、卒業生の自己評価と就職先の上司による他者評価の2つで、卒業生調査を実施した。

 教員の意識改革あるいは意識共有も、3つの柱の1つだ。FD・SDウィークの実施をはじめいくつかの取組が行われている。例えばリフレクション面談には、全教員が学生を一人ひとりみる「アドバイザー教員」という既存の仕組みが活用された。「ただ面談は1年生には手厚く、2年生以上になると回数も少なくなる傾向にあったので、AP事業を機に、全学に改めて打ち出しました」(櫻井学長)。掛け声だけでなく、研修も用意して教員をサポートした。

 大学教育再生加速プログラム委員会による事後評価では、「10+1の能力」の策定と評価指標の開発・運用、地域との協働実績等と並んで、教職員の意識改革の推進も認められて、総合でS評価を得ている。

企業の理解促進とデータ活用が今後の課題

 櫻井学長は、一番アピールできる成果は「ディプロマ・サプリメントで客観的に評価できるようになったこと」と言う。「自分の強み弱みが書いてあるサプリメントは、単なる成績評価とは全然違う。それを見ることで学生は『この能力では人には負けへんで』という自信を持てる。その上で、いいところをいっそう伸ばしてほしい」。

 「学ぶと働くをつなぐ」観点で残った課題として、大学教育創造センター長の塩崎俊彦教授は、ディプロマ・サプリ検証する」ことも事業の柱とし、卒業生の自己評価と就職先の上司による他者評価の2つで、卒業生調査を実施した。

 教員の意識改革あるいは意識共有も、3つの柱の1つだ。FD・SDウィークの実施をはじめいくつかの取組が行われている。例えばリフレクション面談には、全教員が学生を一人ひとりみる「アドバイザー教員」という既存の仕組みが活用された。「ただ面談は1年生には手厚く、2年生以上になると回数も少なくなる傾向にあったので、AP事業を機に、全学に改めて打ち出しました」(櫻井学長)。掛け声だけでなく、研修も用意して教員をサポートした。

 大学教育再生加速プログラム委員会による事後評価では、「10+1の能力」の策定と評価指標の開発・運用、地域との協働実績等と並んで、教職員の意識改革の推進も認められて、総合でS評価を得ている。

企業の理解促進とデータ活用が今後の課題

 櫻井学長は、一番アピールできる成果は「ディプロマ・サプリメントで客観的に評価できるようになったこと」と言う。「自分の強み弱みが書いてあるサプリメントは、単なる成績評価とは全然違う。それを見ることで学生は『この能力では人には負けへんで』という自信を持てる。その上で、いいところをいっそう伸ばしてほしい」。

 「学ぶと働くをつなぐ」観点で残った課題として、大学教育創造センター長の塩崎俊彦教授は、ディプロマ・サプリメントの活用度を挙げた。「企業の方々にはまだご理解いただけてない部分が多いと感じます。社会とのすり合わせが十分にできていない状態なのは否めません」。

 今後、教学マネジメントを機能させていく上では、「データをどう活かしていくかについて、もっと全学的に協議していく場が必要」と塩崎教授は言う。「『10+1の能力』の学生の自己評価が伸びている要因をデータを基に分析する、リフレクション面談等で教職員が学生の伴走者となって学生をサポートしていくことが必要だと思っています」。

プラットフォームから地域の中核ステーションへ

 櫻井学長は地域協働型教育の今後について、展望と抱負を力強く語る。「現在掲げているのは、『地域を支え、地域を変えることができる大学へ』。『へ』が、入っています。つまり、今はまだ『スーパー・リージョナル・ユニバーシティ』とは思っていません。地方の大学の改革に関連して「地域連携プラットフォーム」が話題ですが、本学は以前から、FBC事業でもCOC事業でも、プラットフォームをたくさん作ってきました。今はむしろプラットフォームを卒業して、ステーションの中核になりたいと思っています。それが達成できたときに、『へ』が取れて、堂々と『高知大学はスーパー・リージョナル・ユニバーシティです』と言えるようになるとイメージしています」。


(文/リアセックキャリア総合研究所 松村直樹)


【印刷用記事】
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