大学を強くする「大学経営改革」[96] 「教教分離」型改組を通して教育研究組織の在り方について考える 吉武博通

吉武 博通氏

教教分離への関心や導入は国立と公立・私立の間で大きな開きがある

 学生が所属する教育組織と教員が所属する教員組織を分けるいわゆる「教教分離」を導入する大学が国立大学を中心に増えつつある。

 本誌でも2015年に国立教育政策研究所「大学の組織運営改革と教職員の在り方に関する研究」の中間報告を受けて、「変革のドライブとなる組織運営改革」という特集を組み、金沢大学、札幌大学、高知大学の3事例を紹介している(本誌192/May-Jun.2015)

 その後、同研究の最終報告書が2016年3月に公表された。それによると、教教分離型の改組を全学で実施しているのは、国立39.1%、公立5.7%、私立3.5%、一部の部局で実施しているのは、国立17.4%、公立2.9%、私立3.8%となっている。また、検討していないと回答した割合は国立15.9%に対して、公立78.6%、私立78.8%と、関心や取り組みが国立大学に偏っていることがわかる。

 この調査後も、国立大学では教教分離型の改組が続いており、直近では岡山大学が2021年4月1日に新たに「学術研究院」を設置、研究所・附属病院等を除く教員を所属させ、学部・研究科を、教員が所属する教員組織と学生が所属する教育組織に分離する体制を構築している。その上で、2023年度には、既存の大学院や専門分野の枠組みを超えた、多様で柔軟な教育プログラムの実施を目指した大学院の改革を行う予定だという。

 教教分離型の改組が国立大学でさらに広がるのか、また公立大学や私立大学においても今後関心が高まり、導入を目指す大学が増えていくのかについて現時点で見通すことは難しい。

 しかしながら、教教分離型の改組は、従来の学部・学科制に内在する構造的問題の解決と多様性・柔軟性を確保した教育研究体制の構築という二つの側面を有しており、この二つは設置形態を超えて大学組織の根幹に関わる課題でもある。実施の是非は別にして、教教分離を掘り下げて検討することで、教育研究組織の在り方を考えるうえで多くの示唆を得られる可能性がある。

国立大学における導入の背景に改革への強い圧力と人件費抑制がある

 それではなぜ関心や導入が国立大学に偏っているのであろうか。主たる理由として考えられるのは次のとおりである。

 まず、国立大学は、長く国の組織の一部であり、法人化後も国からの運営費交付金に依存する部分が大きく、減少しつつあるとはいえ、幹部職員を中心に国との人事交流が続くため、国の政策に最も敏感に反応する傾向にあるという点である。

 加えて、2004年の法人化以降、中期目標の付与、中期計画の認可、それに基づく評価、予算配分等を通して、常に外からの強い改革圧力を受け続けているという実態がある。

 公立や私立に比べると大学院の占めるウェートが大きく、大学院において既存の学問分野を超えた学際的な組織の編成等を行おうとした場合、教員組織を分離していた方が、柔軟性を確保し易いという面もある。

 さらに、人件費抑制や学長裁量による人材の戦略的配置と親和性の高い仕組みだったことも背景にあると考えられる。運営費交付金の縮減を受けて、多くの国立大学で退職・転出教員の後任補充を一定期間凍結する措置が講じられてきた。また、前述の計画・評価を通して学長主導による戦略的な資源配分が求められてきた。学部・学科を超えて専門の近い教員を一つの組織にまとめたり、教員組織を大括り化したりすることで、人的資源の効果的活用を図るという面があったことは確かだろう。

四六答申が打ち出した教育組織と研究組織の機能的な分離

 教育組織と教員組織の分離は、教育組織と研究組織の分離として説明されることもある。教育組織から分離した教員組織を研究組織と呼ぶだけならば、両者を同一のものと考えることができるが、研究を目的とする組織の編成という明確な意図がある場合、厳密には両者を区別して論じるべきであろう。

 ただ、説明が複雑になることを避けるため、本稿では特段の必要性がない限り、両者を区別せずに、答申や文献の記述に従って述べていくこととする。

 「教育組織と研究組織の機能的な分離」を明確に打ち出したのは、1971年6月の中央教育審議会答申「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」(四六答申)である。

 同答申は、学部・学科が、学生の教育上の組織であると同時に教員の研究上の組織であり、教員の研究活動を中心に組織が細分化し、独立する傾向が強かったとしたうえで、そのために教員相互の連携協力が不完全となり、教育課程の適切な編成とその効果的な実施について総合的な力を発揮することが困難であったと指摘。「教育上と研究上の組織を区別することによって、それぞれの組織の望ましい人員構成と適切な予算配分などが確保され合理的な運営が容易になるであろう」と述べている。

 この考え方に沿って、1973年10月に「開かれた大学」「教育と研究の新しい仕組み」「新しい大学自治」を特色とする新構想大学として設置されたのが筑波大学である。

 そこでは、教員は学問の研究領域に応じて設置された26の「学系」のいずれかに所属し、学部段階の学生の教育を行う組織としての学群・学類、大学院段階の学生に対する教育を行う組織としての修士課程研究科・博士課程研究科において、他の領域の教員と協力しあって教育を行う体制が構築された。

 しかしながら、その後この仕組みを導入する大学は現れず、筑波大学自体も大学院重点化政策に沿って、大学院研究科を部局とする体制に移行。2004年の法人化を契機に教員の主たる所属も学系から各研究科に移ることになる。

 そして、2011年4月、新たな教員組織「系」を設置して再び教育組織と教員組織を分離する体制に移行する。26を数えた学系に対して、系は11と大きく括られた。さらに、2020年4月には、それまでの8研究科85専攻を3学術院6研究群に再編。6つの研究群に合計56の学位プログラムを編成する新たな教育システムを導入している。

 学系制度が、学部・学科制や講座制に内在する構造的問題の解決に主眼を置いて導入されたものであるならば、系制度とそれに続く学術院・研究群制度は、多様性・柔軟性を確保した教育研究体制を目指したものと理解することができる。

 改革を先導する大学として設置された筑波大学が国の政策に沿うように組織改革を繰り返してきたことをどう評価するか。政策と大学の関係、教育研究体制の在り方を考えるうえで、改めて検証する必要がある。

柔軟な教育プログラムの編成や人員配置の効率化に関心や重心が移る

 1971年の四六答申より後、答申による教育組織と研究組織の分離に関する直接的な言及は見られなくなり、教育に関しては「プログラム」概念、教員組織については「各大学の責任による自由な設計」が重視されるようになる。

 2005年1月28日の中教審答申「我が国の高等教育の将来像」では、「現在、大学は学部・学科や研究科といった組織に着目した整理がなされている。今後は、教育の充実の観点から、学部・大学院を通じて、学士・修士・博士・専門職学位といった学位を与える課程(プログラム)中心の考え方に再整理していく必要がある」との考えが示されている。また、教員組織について、「大学設置基準の講座制や学科目制に関する規定を削除して、教員組織の基本となる一般的な在り方を規定し、具体的な教員組織の編制は、各大学が自ら教育・研究の実施上の責任を明らかにしつつ、より自由に設計できるようにすべきである」と述べている。

 その後、2011年1月答申「グローバル化社会の大学院教育」で「学位プログラムとしての大学院教育の確立」が謳われ、2018年11月答申「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」では、教育研究体制における多様性と柔軟性の確保のための具体的な方策として「学部、研究科等の組織の枠を越えた学位プログラム」を新たな類型として設置可能とするとの提案がなされている。

 渡邊(2016)は、これらの政策と関連付けながら教教分離の展開を年代別に整理している。それによると、(1)1970年代:「新構想大学」と教教分離、(2)1990年代後半−2000年代前半:大学院重点化と「研究型」の教教分離、(3)2000年代後半:教育研究システムの柔構造化と「教育型」の教教分離、(4)2010年代:人員配置の効率化・適正化と教教分離における「経営」的視点の高まり、という流れになるという。

 1971年から最近までの答申を簡単に振り返っただけでも、文部科学省が学部・学科制や講座・学科目制が抱える構造的問題の打破から、社会の要請や学問の動向に即した柔軟な教育プログラムの編成に、関心や重点を移してきていることがわかる。

大学ごとに多様な展開を見せる教教分離型改組

 ここで教教分離型組織の具体例を見ておきたい。

 筑波大学を除くと、最も早く全学レベルで教教分離型改組に踏み切ったのは九州大学である。2000年4月、大学院重点化に合わせて、大学院の教育研究組織である研究科を、大学院の教育組織である「学府」と教員の所属する研究組織である「研究院」に分離した。これにより、学府・学部教育への研究院の枠を超えた教員の多様な参加が可能となり、教育・研究双方の組織をそれぞれの必要性から独自に再編することもできるようになった(2021年度九州大学概要より)。

 本誌192号(2015)の特集でも紹介された金沢大学と高知大学も注目される事例である。

 金沢大学は2008年に「学域学類制」に移行、2021年度現在、教育組織として学士課程4学域18学類、大学院7研究科、教員が所属する研究組織として4つの「研究域」の下に16の「系」と4センターが置かれる体制となっている。

 高知大学も2008年に6研究科を文理融合型の「総合人間自然科学研究科」に一元化するとともに、教員を新たに設置した「教育研究部」に所属させる形で教教分離型の体制に移行している。教育研究部の下には4つの「学系」、その下に13の「部門」が置かれている。

 4学系の一つである「総合科学系」は学内公募で選ばれた3部門を含む計4部門で編成されているが、そのうちの一つである地域協働教育学部門が素地となって2015年4月に38年ぶりの新学部である「地域協働学部」が設置されたことは注目に値する。

 私立大学では桜美林大学が2005年から2007年にかけて学群制に移行するとともに、2007年に学系制を導入し、学群・学系制による教教分離を実施している。また、2021年には大学院を国際学術研究科に一元化し、私立大学としては初の学位プログラム制を導入している。

 早稲田大学が2004年9月に設置した「学術院」も教員組織の一つの形態である。それ以前は独立した機関として位置付けられていた学部・大学院・研究所を、系統ごとに学術院として一体化したことで、管理運営上の諸問題への柔軟な対応が可能になり、系統ごとの主体的な教育・研究活動が促進されたという(同大学ウェブサイトより)。


教育組織と教員組織(研究組織) の分離の具体例


避けるべきは組織改革の自己目的化と形を整えるための一律的な改組

 これらの取り組みについて、聞き取りや質問紙による調査を行ったとしても、学長はじめ全学的な立場で推進した役職者による評価と現場の教職員による評価の間にかなりの隔たりがあることは想像に難くない。

 学問の発展や社会的要請の変化の前に、または学長主導による全学的見地からの運営に対して、既存の学部・学科体制が高く厚い壁を築いて立ちはだかっている。教教分離型の改組はその打破を目指した挑戦である。

 これに対して、挑戦を受ける側の現場の選択肢は、改革に反対し続けるか、組織・制度の変更を受け入れつつ実質的な変化を最小限にとどめるか、新体制の下で改革を目指すか、のいずれかとなる。仮に改組に漕ぎ着けたとしても、改革を推進する側が一定の妥協を図り、現場の側も変化を最小に食い止めるために様々な策を講じるという形で収まるのが現実の姿ではなかろうか。

 実際に、教教分離型改組を実施した大学の組織図を確認すると、学科に対応する形で教員組織に部門を置くなどして、一対一の関係を維持するケースが多く見られる。現状からの大きな変化は避けたい、組織分離に伴う運営上の負担増を抑えたいといった現場サイドの意図が読み取れる。

 既存の体制下でも、教員が学問の動向や社会的要請の変化を敏感に感じとり、教育の内容・方法を不断に見直し改善することができるのであれば、敢えて改組という道を選ぶ必要はないのかもしれない。また、内部質保証が重視される今日において、教育組織と教員組織が一体である方が一貫した責任体制という点で優れている面もあるだろう。

 その一方で、複数の学部で同じ専門分野の教員を配置したり、同じ学部でありながら学科の壁が高く、一つの学部を構成している実質的意義が乏しかったりという問題を抱える大学が多いことも事実である。これらを打破する方策として、教教分離型の改組が有力な選択肢であることは確かである。

 実施にあたって重視すべきは、改組自体が自己目的化することのないように、目的を明確にし、改組案の合目的性を十分に検証したうえで、構成員の理解を最大限に得るように説明することである。

 また、組織を分離することで管理運営に係る負担が増すことは避けられないが、それを最小限に抑えるための意思決定システムや業務プロセスの設計も不可欠である。

 加えて、形を整えることを重視するあまり、新たな組織・制度を一律的に適用することは慎重でなければならない。現体制の下でも高い意識を持った教員が協働して優れた教育を行っている事例も決して少なくないだろう。一律的な改組によってこれらの活動が損なわれることのないよう留意する必要がある。

 天野(2013)は、教育研究組織の変革を求める政策的な動きをヨーロッパ・モデルからアメリカ的なモデルへの転換を目指すものとの見方を示したうえで、「学生と社会、とりわけ学生のニーズを満たし、しかも教員の研究の場を保証する、どのような新しい教育研究組織を創造していくのか」と問いかけている。

 その答えは個々の大学が深い議論を通して見出していくしかない。

【参考文献】 渡邊あや, 2016「第16章高等教育政策の影響」『大学の組織運営改革と教職員の在り方に関する研究(最終報告)』(研究代表者川島啓二)
天野郁夫, 2013『大学改革を問い直す』慶應義塾大学出版会


(吉武博通 情報・システム研究機構監事 東京家政学院理事長)



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