学修一貫・修博一貫の「学院制」により卓越した専門性とリーダーシップを備えた理工系人材を育成/東京工業大学

東京工業大学キャンパス


 卓越した専門性とリーダーシップを備えた理工系人材の育成を目指し、2016年4月より、日本の大学で初めて学部と大学院を統一した「学院」を創設(図)、学士・修士・博士後期課程の教育カリキュラムを切れ目なく一貫させた教育体系を作った東京工業大学(以下、東工大)。2004年より掲げている長期目標「世界最高峰の理工系総合大学の実現」に向けて、教育改革のみならず、研究改革や経営改革にも取り組んでいる。その現状や学院制の成果等について、益 一哉学長に伺った。


全学共通科目基本コンセプト(レベルと科目群イメージ)


社会で使える技術を生み出すために大学院教育を強化

益 一哉 学長

 2016年の学院制への移行では、3学部6研究科を6学院に、23学科45専攻を19系、1専門職学位課程に統合・再編。学士課程学生の約9割が修士課程に進むことをふまえ、入学時から教養教育と専門教育を織り交ぜた広い領域の基礎を学び、学士課程から博士後期課程までの全ての科目を履修順にナンバリングし、達成度に応じて番号を追って履修していけるようにすることで、課程を超えて学修の見通しを立てやすくした。さらに、リベラルアーツ研究教育院を設置し、従来から重視していた教養教育を強化。少人数での議論やプロジェクトに取り組む科目を導入するとともに、教養教育のカリキュラムを博士後期課程まで延長しリーダーとしての素養を涵養している。

 学士課程だけでなく大学院まで含めた改革を行った背景を、益学長は「大学院の教育こそ、我々が社会に対してアウトプットを出せるところにつながるから」と話す。「我々が行う世界への貢献として、人材輩出や学術の深化は当然のこととして、より注力したいのは、社会実装できるような技術を実業界と一緒に作りあげること。大学院教育はその重要な位置にあり、学生数自体も、在学生約1万人の内訳が大学院生約5600人、学部生約4800人と、大学院生のほうが多い。それ故に、我々は歴史的に大学院教育に重点を置いており、大学院も含めた改革を行うのは当然のことです」(益学長)。

社会課題に対して、専門性をふまえた実現可能な解決策を思考できる学生が増加

 こうして始まった学院制で学んだ最初の学生が、2022年春に修士課程を修了した。6年間の歩みを経て生まれた変化として、益学長はとりわけ教養教育にその成果を見ている。具体的には、学士課程3年目に課す5000~1万字の教養卒論や、大学院に設けられている社会課題に対する解決策を4人1グループになって議論し発表する科目での議論のレベルが、年々上がっているとのことだ。「大学院の議論で挙がってくる社会課題に対する方策の提案では、自身の専門性や技術力が取り込まれ、もしピッチをやれば投資家がつきそうなレベルにも達している。リベラルアーツ教育が『社会に貢献するためにどういう提案をできるか』と議論するレベルまで進化しつつあることを実感しています」と益学長は話す。

「大学としてありたい姿」を出発点に改革を計画・推進していく

 東工大では、学院制への移行だけでなく研究や大学経営においても、「世界最高峰の理工系総合大学の実現」に向けて様々な改革に取り組んでいる。2018年には、長期目標の実現に向けた「東工大アクションプラン2018-2023」をまとめ、「創造性を育む多様化の推進」「Student-centered learningの推進」「飛躍的な研究推進で社会に貢献」「経営基盤の強化と運営・経営の効率化」を4つの柱とする具体的な取り組みを推進している。

 これらや、今後加速させていく指定国立大学法人構想、3つのキャンパスの再開発等、全ての改革の出発点に置いているのが、「どういう大学でありたいか」という志だという。キャンパスの再開発も、「我々が生み出した成果で社会貢献したいというのが、研究者のありたい姿の一つ。その後押しをする環境を整えるべく、計画を描いています」と益学長は説明する。大岡山キャンパスでは学生がイノベーションのヒントとなるセレンディピティに出会い、アントレプレナーシップを涵養する環境を整え、すずかけ台キャンパスには国際的な研究拠点として革新的な科学技術の創出や新規・融合分野の研究領域の開拓を促進、田町キャンパスではキャンパス・イノベーションセンターをスタートアップ企業の拠点として貸し出して産学連携による研究成果の社会実装を図るという、イノベーションエコシステムをこれから10年で構築していくことが予定されている。キャンパスごとにその特徴を生かして整備し、同時に大学の志を達成するための道筋としているのである。

 一方で、喫緊の課題と益学長が強調するのが、「女子学生が少ないことによるジェンダーバランスの悪さ」だ。「イノベーションの源泉の一つは多様性で、多様な知や学術、社会課題、個性がぶつかり合ってこそ創造性やセレンディピティが発揮される。発想や国籍の多様化は進んできているが、理工系の女子学生比率の相対的な低さは、本学のみならず社会全体の問題でもあり、ポジティブアクションとしての女子定員枠に関する議論もしていきたいのが正直なところ」と吐露する。

 「教育カリキュラムにおいても、社会連携や他分野との融合促進といった研究環境の整備においても、多様性を促進する取り組みをさらに進めていきたい」と益学長。「世界最高峰の理工系総合大学の実現」という東工大のありたい姿に向けた挑戦から目が離せない。


(文/浅田夕香)


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