親子の対話の内容に変化 保護者の助言への期待が過去最高に

―第10回「高校生と保護者の進路に関する意識調査」2021から見えたこと

リクルート進学総研と一般社団法人 全国高等学校PTA連合会は、高校生とその保護者に対し、進路に関する考え方やコミュニケーションの実態を探る調査を2003年より隔年で実施している。ここでは2022年2月発表の最新調査で特に変化の見られた保護者と子どものコミュニケーションのあり方を中心に、『高校生の保護者のためのキャリアガイダンス』編集長と小誌編集長が調査結果について考察する。


キャリアガイダンス編集長 赤土豪一氏、カレッジマネジメント編集長 小林 浩



01 保護者と子どもは話している

コロナ禍の影響で全体的な対話量が増加

小林:第10回となる今回の調査は、入学時からコロナ禍において学校生活を送ってきた高校2年生とその保護者を対象に実施されました。2019年度の前回調査と比較し、高校生と保護者の関係性に大きな変化は見られますか。

赤土:「進路についての話を保護者としているか」を尋ねた項目で、「話す」と回答した高校生の割合が過去最高の83%でした(図1)。この数字はもともと増加傾向にありましたが、今回の結果にはコロナ禍も影響していると考えられます。2021年度の調査では、コロナ禍の影響による保護者と高校生の対話量と内容の変化を設問に新たに加えました。高校生の30%近くが全体的なコミュニケーション量が「増えた」と回答しています。(後述・図3参照)

図1 進路についての話を保護者としているか(全体/単一回答)


小林:コロナ禍の何が影響しているのでしょうか。

赤土:外出自粛等もあり、家族が自宅で一緒に過ごす時間が増え、全体的な対話量の増加に比例して進路に関する会話が増えたと考えられます。なお、これはあくまでも仮説ですが、オンライン授業期間には学校と自宅の空間的な境目がないことから、保護者との話題も授業中の話題に関連しやすくなり、学びや進路について話す機会が増えている可能性も考えられます。

コロナをきっかけに社会に関心を持ち、保護者とも会話

小林:進路関連の会話の内容に変化はありますか。

赤土:進路に関する会話の内容が多様化するとともに、話題が将来を含めた「生き方全般」に及んでいるようです。進路について保護者と話す内容を高校生に選んでもらったところ、話題のトップは「高校卒業後の具体的な進路」(56%)ですが、前回よりも9ポイント低下しました。

 一方で、「将来どんな生活をしたいか」(35%)、「将来どんな生き方をしたいか」(30%)は2017年と比較すると、2019年と2021年は傾向として増えており、保護者の高校時代や仕事についての会話や、経済や社会の動きに関する会話も増えています(図2)。


図2 進路について保護者とどんな話をしているか(よく話をする~ときどき話をする/複数回答)


小林:少し先の将来や社会の話の比重が以前よりも増えている背景には、どのようなことがあるのでしょうか。

赤土:これもコロナ禍によって、保護者との日常会話の内容が変化したことと相関があるのではと考えています。高校生に「コロナ禍における保護者との会話の内容について」の増減を尋ねたところ、「増えた」のトップは「社会や政治の話」(31%)でした(図3)。コロナをきっかけに社会の様々なことに関心を持ち、保護者と会話したことが、進路に関する話題の多様化にもつながったのではないでしょうか。 

 もうひとつ、家庭での相談相手が増えたことも、進路に関する会話の変化に影響していると考えられます。高校生が進路について相談する相手を尋ねたところ、「母親」(85%)が突出して高いのは変わらないのですが、「父親」(46%)、「兄姉」(17%)が増加しました(図4)。母親とは異なる視座からアドバイスを受けたり、専業主婦世帯では母親からは聞けない仕事に関するリアルな話を父親から多く聞いたりしたことが、話題の多様化や、長期的、俯瞰的な会話の増加につながっているのかもしれません。


図3 新型コロナ感染症の影響による親子の会話内容の変化


図4 【高校生】進路についての相談相手




02 保護者は子どもを知っている

「自分のやりたいことをしなさい」

小林:前回調査と比較し、子どもの進路選択についての保護者の理解や態度に変化はありますか。

赤土:子どもの進路選択の悩みや不安を保護者が知っているかどうかを尋ねたところ、高校生、保護者共に約7 割が「知っている」と回答し、時系列で増えています。

 また、保護者の態度については高校生からみた「進路の話をするときに保護者がよく使う言葉」(図5)に興味深い変化が表れています。「自分の好きなことをしなさい、やりたいことをしなさい」(59%)が突出して高く、時系列で上昇しており、17年調査と比較すると約10ポイント上がっています。一方、前回2位(36%)だった「勉強しなさい」は4位(28%)に低下しました。この設問の過去2回の調査結果では、「勉強しなさい」の順位は高校生で高く、保護者と差があるのが特徴でした。しかし、今回は高校生、保護者とも低下しており、両者の認識がほぼ一致していると考えられます。

小林:保護者からのアドバイスが「勉強しなさい」から「自分の好きなこと、やりたいことをしなさい」に変化している状況から、どのようなことが読み取れるでしょうか。

赤土:まず、保護者が子どもの考え方や興味・関心、感情等を理解して進路の助言をしている姿が垣間見えます。この設問では「その言葉を言われたときどう感じるか」を自由記述で尋ねており、「自分の好きなこと、やりたいことをやりなさい」という言葉を「自分の意思を尊重された」と肯定的に受け止めた回答以外に、「将来何をしたいのか迷いがあるので、逆に困る」という回答も見られました。言葉の受け止め方はそれぞれなので、一概には言えませんが、高校生と保護者の接点や会話が増え、共通の話題が多様化していることや、進路選択の不安や悩みの共有度も上昇していることと併せれば、子どもの進路選択に関する保護者の理解は深まっていると考えられます。

小林:それゆえに、「勉強しなさい」という言葉もやみくもには使われなくなったのかもしれないですね。


図5 進路の話をするときに保護者がよく使う言葉(全体/複数回答)


「社会がどう変わっていくのか分からない」保護者の価値観が変化

赤土:そう思います。また、進路に関する保護者の言葉の変化は、保護者の価値観の変化も反映していると考えられます。今回の調査の自由記述欄にも、コロナ禍をきっかけに「社会がどう変わっていくのか分からない」という意識が強まっている、と見られる保護者の回答が散見されました。コロナ禍で社会の混乱を目の当たりにしたことにより、知識の習得とその再生の正確性に重きを置いた「勉強」だけではこれからの社会を生き抜けないと保護者自身が実感したのではないでしょうか。

 終身雇用を前提に「有名大学に入り、大企業に就職する」を人生の「正解」とする価値観は、VUCA時代の到来とともに大きく揺らぎ、Z世代を中心にキャリアに対する価値観は多様化しています。しかし、保護者世代にはキャリアに対して単一的な価値観を持ち続けていた人も少なくないはずです。コロナ禍をきっかけにその価値観がこれからの社会に適合しないと肌で感じ、保護者自身の価値観が変化したことも、子どもへの接し方や期待の変化につながっているのではと考えられます。



03 子供は保護者を信頼している

進路選択に際しての保護者の助言への期待が過去最高値に

小林::進路選択における保護者の子どもへの接し方や会話の変化を、高校生はどのように感じているのでしょうか。

赤土:今回の調査で「進路選択に関する保護者の態度」について高校生に尋ねたところ、71%が「ちょうどいい」と回答し、前回と比較して8ポイントも増加しています。一方、「干渉」と感じている高校生は20%で、前回と比較して8ポイント減少しています。

 こうした良好な関係性を反映し、「進路選択に際して、保護者にアドバイスしてほしいか」という設問に対して「してほしい」と回答した高校生の割合は過去最高値の71%(「たくさんアドバイスしてほしい(14%)」「ある程度アドバイスしてほしい(57%)」の合計)でした(図6)。この割合は経年で増えており、今回の調査では前回と比較して6ポイント上昇しています。また、男子(68%)より女子(74%)の値が高いのが特徴です。

 保護者にアドバイスを「してほしい」と回答した高校生に、相談したい内容や理由(自由記述)についても尋ねたところ、「人生経験がある相手に、失敗談も含め今後に必要なことをたくさん聞きたい」「大学での学び、経験がその後にどう生かされているか知りたい」といった「具体的な進路以外の助言」を期待する記述が目立ちました。また、「アドバイスをしてもらいつつ、自分でも調べたい」等、進路選択行動を主体的に行おうとする姿勢が見られる記述が多いことも印象的です。


図6 進路選択に際して保護者にアドバイスしてほしいか



小林編集長のコメント


高校生と保護者の「ちょうどいい」関係性

小林:なるほど。高校生と保護者が進路選択において「ちょうどいい」関係性を築けているからこそ、保護者に助言を期待する高校生が増えているのですね。

赤土:高校生の進路選択への保護者の関わり方や影響の与え方を把握するにあたり、そこは大きなポイントのひとつだと思います。また、進路選択における高校生と保護者の「ちょうどいい関係性」をより理解するには、近年の高校生と保護者の日常的な距離感も、コロナ禍による変化の前提として押さえておきたいところです。

 「保護者との日常のコミュニケーションや行動」で当てはまるものを高校生に選んでもらうと、1位「『あなたはどうしたい』『あなたはどう思う』とあなたの意見が尊重されている」(71%)、2位「『自分で選択し、それに責任を持つ』ことが大切だと言われている」(64%)、3位「悩んでいたり、うまくいっていないときに励ましてくれる」(61%)でした(図7)。この順位は過去3回の調査で変化がありません。

 高校生からも、こうした保護者の行動によって「精神的に支えられた」「守られているなら、挑戦できるなと思った」といった話をよく聞きます。コロナ禍以前から高校生が保護者に感じる心理的安全性がかつてより高まる傾向にあった。さらに、コロナ禍となりコミュニケーション量が増加して、保護者の理解の深まりが「ちょうどいい」関係性につながり、進路選択の場面でも保護者に対する高校生の信頼感が増したと考えられます。


図7 【高校生】保護者との日常のコミュニケーションや行動(全体/「あてはまる・計」)




04 保護者も高校生も大学に求めている

高大の学びの接続を大学が明示する重要性

赤土:一方、約7割の保護者が子どもの進路選択にアドバイスすることを難しいと感じているという調査結果が出ており、この数字は近年大きく変化していません。アドバイスを「難しい」と感じている保護者に理由を複数回答で選んでもらったところ、1位「社会がどうなっていくのか予測がつかないから」(53%)、2位「入試制度をはじめ最新の情報を知らないから」(51%)でした(図8)。

 大学入学者選抜改革の動き等の影響で近年は後者がトップでしたが、順位が入れ替わり、前回よりも9ポイント上がっています。コロナ禍で社会の不透明性が増した影響があるとみています。


図8 【高校生】進路選択についてアドバイスを難しいと感じる要因


小林:そのような保護者に対して、大学はどのような情報発信やコミュニケーションをすべきでしょうか。

赤土:予測のつかない社会を生き抜くのはどのような人材で、「わが子」がそうした人材になるために必要な力は何であり、それらの力を大学がどう育てるのか。多くの保護者がこの問いを持っています。その問いに対して、各大学ごとの答えを分かりやすく伝えることが求められていると思います。

 大学が世に送り出したい人材像を大学のディプロマポリシー、つまり「出口」の情報として整えること。一方で、高校生の現在の学びと大学の学びが「入口」においてどう接続するのかを、各大学がしっかりと明示することが鍵となると思います。つまり、社会がどう変化するのかということと、保護者が目の前にいるわが子の現在の姿、大学入学後、卒業後の姿、それらが一本の線でつながるように伝えることが大切なのではないかと考えています。

 その重要性は、高大接続改革の目的を明記したうえで「教育改革の内容への期待と不安」を保護者に尋ねた設問への回答結果からも読み取れます(図9)。保護者の回答を見ると、高校の教育改革については全ての項目で「期待」が6割を超えています。また、大学の教育改革への期待度も高く、とりわけ高校と大学の学びの接続に関しては68%が期待を寄せています。

小林:一方で、入学者選抜試験の不安度は依然として高く、高校生の回答結果も同様です。高校と大学の学びの接続への期待を高め、不安を解消するには、大学で学ぶために、高校の学びで得たどんな力が「入口」において評価されるのかを各大学が示すことが重要になってきそうですね。


図9 教育改革の内容への期待と不安


分水嶺となり得るのは「探究学習」

赤土:その際に分水嶺となり得るのは、22年度から高等学校で本格導入される新学習指導要領の目玉ともいえる「探究学習」です。先ほどの「教育改革の内容への期待と不安」(図9)を見ても、高大接続改革が目指す新しい「学力の3要 素」の育成に対する保護者の期待が高く、とりわけ探究学習への期待が大きいことが分かります。また、取材等でお会いする高校の先生方のお話からも、探究学習で得た力が入試で評価され、大学での学びにつながることを各大学が伝える意義は大きいと感じています。

 先導的な事例として、例えば島根大学が行っている「へるん入試」では、地元の高校と連携し、高校の探究学習で培った学びの種を入試前の個別面談を通じて確認し、本人がやりたいことが、将来どうつながっていくのかというキャリア像や、進路の方向性、本学での実現の可能性まで対話しています。そして入学者に対しては入学前・入学後教育も実施し、学生が自らの問いを探究し、昇華できるような機会を提供しています。

 なお、探究学習は2022年度からの本格導入に先駆けて多くの高校で実施されていますが、壁にぶつかっている先生方も少なくありません。生徒が自ら問いを立て自分なりの答えを見つける力を育てるのが探究学習ですが、「既に存在する問い」の答えを教えることに慣れた先生にとっては、学習の第一段階となる「生徒が自ら問いを立てる」とはどういうことなのかをイメージするのが容易でないからです。

 他方、大学の先生方は研究を通して、自ら問いを立てることを常に求められており、その探究サイクルの知見を生かして、地域の高校の探究学習を支援している例もあります。そうした活動も、高校生や保護者にとってその大学や学部・学科での学びへの理解を深める機会になるでしょう。

 そして、大学は、学生を受け入れたい、育てたいという思いやスタンスをメッセージすることが大事だと思います。

小林:入試要項を出して終わりということではなく、その背景を保護者や高校生に伝えること。それが大切だということですね。


今回の調査結果に表れた高校生と保護者の関係性は、高校生の進路選択にとって非常にポジティブなものだと感じている。特に注目したいのが両者の会話が増えているだけでなく、お互いに考えをやりとりする「対話」が行われていること。進路に正解はなく、答えを出すのは本人だが、迷わず答えを出せる高校生は多くない。経験の寡多の問題のみならず、今の高校生はSNS 等を通して社会を可視化しやすく、そのぶん迷いも生じやすいからだ。だが、そこに対話があれば、答えが見つけやすくなる。大学にはこうした対話を活発化したり、高校生が今と大学での学び、将来像をつなげ、地に足をつけて進路を選べるような情報提供のあり方が求められていると考える。(赤土)


第10回調査は、コロナ禍の影響もあって高校生と保護者の相互理解が深化し、進路選択に対する保護者の影響力が高まっていることがうかがえる結果となった。一方保護者は、社会が不透明さを増す中、これからをどう生きるべきか、大学の価値とは何か、自らがその答えを探す段階にあり、進路の助言に難しさを感じている。大学に価値がある、という答えの根拠となる情報を高校生や保護者に伝えられるか否かで、各大学の今後に差が出るだろう。また、今回の調査で高大の学びの接続に関する大学への期待のさらなる高まりが確認できたことの意味は大きい。その期待に応えるために大学ができることは、入試関連の情報提供にとどまらないはずだ。(小林)

調査概要




(文/泉 彩子)


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親子の対話の内容に変化 保護者の助言への期待が過去最高に