学部の新設・改組により社会課題の解決に資する学生を育てる/東洋大学

東洋大学キャンパス


 2005年の文系5学部の白山キャンパス(東京都文京区)への集約を皮切りに、およそ20年にわたり絶え間なく学部改革を進めている東洋大学。2017年には、社会課題、とりわけグローバル化に関わる課題の解決を見据え、情報連携学部、国際学部、国際観光学部、文学部国際文化コミュニケーション学科の3学部1学科を設置。2020年代は、キャンパスごとの強みや目指す方向性を明確にし、地域の課題解決も意識したキャンパス再編を進めている。社会課題の解決に向けた教育展開を学部・学科の新増設・改組という形で行う意図や、新設・改組の具体的手法について、矢口悦子学長に伺った。

キャンパスごとの強みを明確にし、強みを生かして地域の課題解決に挑む

矢口悦子 学長

 20年代に入ってから東洋大学が推し進めているのは、キャンパスごとの強みや目指す方向性を明確にしたキャンパスの再編だ。まずは赤羽台(東京都北区)、朝霞(埼玉県朝霞市)の2キャンパスについて、赤羽台に情報、福祉、スポーツ科学に関わる学部を、朝霞に命と食に関わる学部を集約し、赤羽台キャンパスにおいては、健康・スポーツ、子ども、高齢者・障害者等の分野において、東京都北区との連携事業も推進していく。その後、川越(埼玉県川越市)・白山キャンパスについても再編を検討していく予定だ。再編計画の設計思想について矢口学長は、「キャンパスごとの顔や目指す方向性、地域との関係を一体に考え、特色ある場にすることを強く意識しています」と話す。具体的には、「大前提として、学部・学科をつくり起こす際には、地域に限らない、世界も含めた社会課題を先読みして今後何が重要かをとらえ、研究者をはじめ大学が持っているリソースを用いてできる課題解決と学部の形を考えています。そのうえで、その学部を置くキャンパスの立地地域において、本学のリソースで貢献できる課題は何かという発想で地域の関係各位に相談し、対話を重ねてできることを一緒に練り上げていきます。後から見るとあたかも狙ったかのように、その地域に貢献できる学部・学科があると見えるのは、この過程があるからです」と説明する。

学部を基盤とした大学だからこそ学部改革に第一に取り組む

 東洋大学が学部・学科の新設・改組において「社会課題の解決」をより重視するようになった大きな契機は、2014年のスーパーグローバル大学創成支援事業<タイプB>への採択だったという。日本のグローバル化を牽引する大学として、世界の舞台で先端的な役割を果たす人材やグローバル時代の観光産業を担う人材、国際社会の情報戦略に長けた人材等の育成を通じて社会に貢献していくことを目標に掲げ、2017年には前述した3学部1学科を設置した。いずれも、社会ニーズであるグローバル化に呼応した人材育成を志向した学部・学科だ。社会課題に対応することを強く意識した、ここが東洋にとって1つの分岐だったと言えよう。

 続くキャンパスの再編も含めて、この20年、学部・学科の新設・改組を第一に社会に応じた改革を進めてきたのは、「学部を基盤とした大学だから」だという。「本学は大学院生に比べて圧倒的に学部生の人数が多いうえ、大学は学生の授業料で成り立っているのだから、新しいことに挑戦するならステークホルダーである学部学生に還元する価値として学部を改革していく以外にありません」と矢口学長は説明する。学校法人東洋大学中期計画「TOYO GRAND DESIGN 2020-2024」において研究に関する計画を第一に記しているのも、学部教育の高度化を目指す所以だという。「時代の変化が激しい中、社会課題や世界的な課題をとらえて教育に取り組むには、大学院の研究の充実が不可欠。研究の高度化が教育の高度化を牽引し、研究活動と教育活動の高度化が地域貢献・地域連携活動の高度化を推進するという考えのもと、研究の高度化と多くの優秀な教員の研究の社会実装に取り組んでいきたい」と意気込む。


表 近年の主な新増設・改組(今後の予定含む)


改革が伝統を現代化し、守っていく

 このように絶えず学部・学科の新増設・改組が計画され、着実に実行されていく背景には、改革の歩みを止めない組織風土があるという。「すいすいと泳ぐ白鳥が水面下では大変なスピードで足を動かしているように、改革のための検討や会議、ワーキンググループの活動をたゆまず進めており、それはコロナ禍においても変わりません」。さらに、その動きを支えているのが教職協働だ。「教員はカリキュラムや科目、人事の検討等、改革のための業務を日常業務として行い、職員はそれを事務的な面でサポートしている。教職協働が機能していることが、動き続けられる要因になっています」と矢口学長は言う。

 加えて、「改革というと新しい突飛なことをやる印象があるかもしれませんが、実は改革そのものが、本学の伝統を見つめ直し、守る機会となっています」と矢口学長は話す。その理由を「新増設・改組という改革においては、まずは『何のための改革か』『何を目指した学部・学科にするのか』『どういう学生を育てるのか』を考えることが必須。その時に軸になるのが、『諸学の基礎は哲学にあり』をはじめとした建学の精神です。改革の度に本学の根幹たる精神を見つめ直し、それを現代に再解釈するとどうなるのか、例えばスポーツ科学の分野でどう実現するのか、福祉の分野ではどうか、といったように、改革における不変の軸足にしています。かつての創立者たちの思いを現代社会の課題と重ね合わせて練り直しているから、ぶれずに一体的な改革が推進できるのです」と説明する。

 「改革によって伝統を現代化するチャンスを絶え間なくもらっていると考えています」と話す矢口学長。今後も続く学部改革の成果に期待が膨らむ。


(文/浅田夕香)


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