【TOP INTERVIEW】仏教精神に基づき、 “問い続ける”人間教育を目指す。/大谷大学 学長 一楽 真


一楽 真氏

大谷大学 学長 一楽 真(いちらく まこと)
1957年生まれ
大谷大学大学院文学研究科博士後期課程(真宗学専攻)満期退学。文学博士。
大谷大学准教授などを経て、2009年に文学部教授。
大谷大学 前仏教教育センター長。
2022年4月、第29代学長に就任。
著書に『シリーズ親鸞 親鸞の教化』(筑摩書房)など、ほか多数。


仏教に基づく人間教育

 本学のキャンパスは、京都駅から13分の京都市営地下鉄「北大路駅」に隣接しており、文、社会、教育、国際の4学部、学生数約3200名を擁する仏教系の大学です。1665年に東本願寺の学寮として始まり、近代の大学として開学したのが初代学長清沢満之きよざわまんしです。仏教を学び人として生きていくためには、僧侶も世の中の諸問題を学ぶ必要があると考えた清沢が、1901年に東京の巣鴨に開いたのが真宗大学です。1913年には設立母体である東本願寺に近い京都に校地を移し、2021年の10月13日に近代化120周年を迎えました。

 その際、大谷大学第2次中長期プラン「グランドビジョン130(2022 ~2031)」の概要を公表しました。大学の理念・使命を「仏教精神に則り、人格を育成するとともに、仏教並びに人文に関する学術を教授研究し、広く世界文化に貢献する」と確かめ、また将来像を「『Be Real―寄りそう知性―』の発揮に向けた、学び空間の創生」と表現しています。この理念・使命および将来像に示したように、本学が目指してきた教育の中核は“仏教精神に基づく人間教育”です。特定の宗教の教義を教える大学ではなく、立ち位置によって見え方の違う現代社会の悩みや問題を、釈尊や親鸞の言葉を通じて見つめることで、人間の生き方の根っこ(基盤)を明確にしていくことが本学の人間教育です。ですから本学では、壁にぶつかった時こそ深い「問い」が出てくるので、悩むことや問いを大事にしてほしいと伝えています。「問い、続ける。」という大学ブランディングの一環で使用しているワードは、開学以来変わることなく本学が目指してきた人間教育の在り方を端的に表現したものです。

 カリキュラムにおける人間教育の特徴的なものとして、「人間学」という授業を設けています。「人間学Ⅰ」を第1学年の全学部必修科目とし、第2学年では「人間学Ⅱ」として、歴史からテクノロジーまで幅広いテーマに発展させた選択科目で学びます。「人間学Ⅰ」の共通テキストはあえて作らず、学科ごとに社会学なら社会問題、教育学なら昔読んだ絵本など、学生が問題意識を持ちやすい切り口の教材を教員が用意し、教員同士で反響が良かった教材を持ち寄って共有しながら授業を工夫しています。最近の学生の傾向として“マル”か“バツ”かという二項対立的な正解を求める風潮が強くなっているように感じますので、そのような窮屈さを解きほぐすことを大事にしています。

文学部1学部体制から4学部体制へ

 2012年には、2021年までの大谷大学第1 次中長期プラン「グランドデザイン(2012-2021)」を策定し、5つの方針の基に、様々な改革に取り組んできました。

 そして2018年4月、それまでの文学部1 学部体制から、社会学部と教育学部を新設した3学部体制となりました。背景として、当時は文学部の中に9つの学科があり、教育内容が学外から見た際に分かりづらくなっていたことがあります。そこで、社会学科と人文情報学科を社会学部へ、教育・心理学科と短期大学部幼児教育保育科を教育学部へと発展的に改組することで、社会から見て分かりやすい学部構成にし、学問の特性に応じた教育実践を行おうとしたのです。

 3学部体制となったことに伴い、本学を象徴する新メッセージ「Be Real―寄りそう知性―」も打ち出されました。「Real」には、仏教でいう「真実」と目の前の「現実」という2つの「実」の意味が込められていて、目の前の現実にしっかり目を向けて、あるべき社会や自分を探究することが、本学が求める学びの姿勢であることを示しました。「寄りそう知性」は、どの学部・学科で学ぼうとも、仏教精神に基づく学びから得られる知性は「他者に寄りそう」ことだということを示しています。

 同時に、3学部に分かれても、本学は仏教による人間教育を行う大学だということを前面に出すため、2018年に仏教教育センターが設置されました。仏教教育センターは、「人間学」の授業内容の検討や宗教行事の推進など、仏教に基づく大学風土を全学的に醸成する組織としての役割を担っています。私は初代仏教教育センター長として、2022年3月末までの4 年間を務めました。

 2021年4月には国際学部を設置しましたが、先の2学部と目的は同じで、文学部の中にあった国際文化学科を学部化し、現在は4学部体制となっています。

 新学部設置の効果として、文学部1学部のみだった時とは明らかに違い、学部名から具体的な学びの内容が見えやすくなり、本学での学びを理解した学生が、入学の時から自分の目的を持って選んでもらえるようになっていると感じています。志願者数の面でも、2018年度の社会学部、教育学部の設置により、大学全体の総志願者数が2017年度から倍増したことは、高校生にわかりやすく表現できた成果であると考えられます。

今年度より第2次中長期プランが始動

 近代化120周年の節目に、2031年までの大谷大学第2次中長期プラン「グランドビジョン130(2022 ~2031)」を公表しましたが、新ビジョンでは「適切な世界観をもって、未来を、主体的かつ柔軟に生きることのできる人物を育成する」ことを掲げ、5つの方針の基に2022年度より新たな重点施策を推進していきます。

 新学長として、これからも本学は、壁に直面しても喜びをもって人生を生きられる学生が育つ場所でありたいと思っています。世間の価値観で測るのではなく、人間のすがたを見すえた仏の智慧により得られるまなこで見れば、ものの見方が変わり、世界は違って見えてくる。そのような眼をもって生きていけるのが大谷大学らしさなのかもしれません。同時に、「Be Real―寄りそう知性―」というメッセージは、仏教の智慧と慈悲を現代風に言い直したもので、非常に大切なことを表現していると思っています。私もこれを引き継いで、他者、そして自分自身を大事にできる学生を育てていきたいと考えています。


(文/能地泰代 撮影/桑島 薫)


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