少人数の実践的プログラムでの課題解決で リーダーシップ育成/立教大学

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 立教大学経営学部は2006年度の学部創設当初から、少人数制の実践的プログラムでリーダーシップを養う「ビジネス・リーダーシップ・プログラム」(BLP)を開講。2013年度からは、BLPで蓄積したノウハウを活かし、経営学部以外の学生が履修できる「グローバル・リーダーシップ・プログラム」(立教GLP)を全学で展開している。これらプログラムの狙いや成果等について、BLP主査及びGLPを運営するグローバル教育センター 副センター長を務める経営学部准教授・舘野泰一氏にお話を伺った。

相互にフィードバックをし合う振り返りの時間を重視

経営学部 准教授
グローバル教育センター 副センター長 舘野泰一氏

 立教GLPは、経営学部で行われているリーダーシップ・プログラム・BLPを他学部でも学べるようにしたもの。2022年度は、全8科目を開講している。

 最も目を引くのは、BLPでも展開されている「リーダーシップ入門(GL101)」科目だ。これは、企業と提携して具体的なビジネステーマを設定し、グループワークを通じて学生が主体的に課題解決に取り組むプログラム。例えば、2021年度はシンクタンクのロッケン(東北6県研究所)と提携し、「東北の課題を踏まえて、県外の人を巻き込んで東北地域にプラスをもたらす、新たなアイデアやプロモーションを県外からの視点で考えよ」というテーマで学習を進めた。

 「成績評価の基準は厳しく授業外学習時間も長いのに、取得できるのは2単位だけ。それでも、学生からの人気は高い。2022年度の立教GLP・GL101は、定員320人に対し約750人の学生が履修を希望。ほかの科目でも、2~3倍の倍率になっています」(舘野氏)。

 同プログラムの土台にあるのは、独自のリーダーシップモデルだ。上位役職者が部下を引っ張るのが従来のリーダー像だったが、立教大学ではリーダーシップとは誰もが学べ、発揮できるスキルとして、役職や地位に拘わらず、チームの目標を設定・共有するよう働きかける、同僚の行動を支援する、率先して行動することで周囲に良い影響をもたらすものと位置づけている。

 GL101(リーダーシップ入門)等の授業では必ず、「振り返りの時間」を設けている。ここでは事業プランの善し悪しより、各メンバーがリーダーシップを発揮する中で良かった点、伸ばすべき点を互いに対話し伝え合うことに重点を置く。

 「ただし、GL101(リーダーシップ入門)の受講者は1年生が多く、互いにフィードバックし合うことに慣れていません。そこで授業では、『どんな状況で・どんな振る舞いをし・周囲にどんな影響を与えたか』を書き込むフォーマットを用意し、そこに書き込むことで伝えやすくするよう工夫。こうしたフィードバックにより、チームの中でどう振る舞えば周囲に貢献できるのか、学生は身をもって学べるのです」(舘野氏)。


図表1 立教GLP プログラム科目一覧表


一般授業よりはるかに手間がかかるプログラム

 GL101(リーダーシップ入門)では、教員1人と、過去に同科目を修得した学生アシスタント(SA)1人がタッグを組み、1クラス20人の学生を指導する仕組み。また、各クラスを束ねる役割の教員と、そのサポート役のSA、複数のクラスを横断的に見るSA、教育環境の整備等を担当する事務局職員等も携わっている。クラス運営で重要な鍵を握るのは、SAの活躍ぶりだ。SAが教室でリーダーシップを発揮すれば、受講者は「私もあの先輩のようになりたい」と憧れ、授業が活性化するからだ。ただし、SAに任せきりにするのではなく、教員側が周到な準備をすることは必須だ。

 また、提携企業を探して協力を仰ぐことも容易ではない。まずは立教大学が掲げるリーダーシップ像に共感する企業を見つけ、教員や職員が依頼をする。

 「GL101(リーダーシップ入門)のように1年生の受講者が多い科目では、学生がイメージしやすいBtoC企業に声がけすることが多い。2021年度のBLPでのリーダーシップ入門ではカルビー株式会社に協力してもらったが、この授業を受けた学生はコンビニ等で同社の商品を見かけるたびに、『どの商品もパッケージ作りに工夫を凝らしているな』『この新商品はどんなコンセプトで作られたのだろうか』等と思考を巡らすようになります。このように身の回りにあるものからビジネスを意識することから、事業の担い手へと成長していくと考えています」(舘野氏)。

 なお、経営学部生が受講するBLPでは、ビジネスに密着したテーマを設定するのに対し、立教GLPではビジネスの基礎知識を持たない他学部生でも取り組めるようなテーマ設定を心がけている。また、BLPでは企業がすぐに採用できそうな事業案が出てくることもあるが、立教GLPでは必ずしもそうではない、リーダーシップ開発が授業の目的であると提携企業に理解してもらうことも必要だ。

受講生が学内にもたらす波及効果は極めて大

 立教GLPもBLPも、運営側にとって非常に手間のかかるプログラムだ。しかし、それを大きく上回るメリットがあると、舘野氏は考えている。

 「学生のリーダーシップは明らかに伸びているし、学生を採用する企業からの評価も高い。また、立教GLPやBLPに期待して受験・入学する人も増えています。経営学部での志望動機のアンケートでは、BLPがあるから立教の経営学部を選んだとの答えがベスト3に入っている状態」(舘野氏)。

 そして何よりも大きいのが、波及効果が全学に広がることだという。立教GLPの受講者が学部の授業でリーダーシップを発揮することで、周囲の一般学生は強い刺激を受ける。また、受講者同士がつながってサークル以外のコミュニティーを形成したり、居心地の良い居場所を作ったりする効果も大きいのだ。

 「立教GLPやBLPは、畑を耕す作業のような存在。芽を出し、実がなるまで時間はかかるが、確実に大学の環境を良くしています。今は定員が限られ、全ての希望者が受講できない状況ですが、いずれはもっと多くの人を受け入れられるようにしたい。そして立教GLPを、全学部が1年次に受講できるような環境を整えられれば理想だと思う」と舘野氏は語る。


(文/白谷輝英)


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