PBL型「初年次ゼミ」を皮切りに 4年間で課題解決力を伸ばす/産業能率大学

産業能率大学キャンパス


 2006年、当時はまだ一般的でなかったアクティブラーニングやPBL(Project Based Learning:課題解決型学習)の視点を取り入れたカリキュラムへの大改革を実施して以来、学生の課題解決力を伸ばす教育を行ってきた産業能率大学(以下、産能大)。2020年度には高校の探究学習で培われた力を測る入試方式も新設した。これらの取り組みの背景と今後の方針について、杉田一真学長補佐(経営学部教授、教育支援センター長)と林 巧樹入試企画部長に伺った。

社会に出たあとに適用可能な知識と活用力をつける4年間のカリキュラム

杉田一真学長補佐

 産能大のカリキュラムの起点となっているのが、「マネジメントの思想と理念をきわめ、これを実践の場に移しうる能力を涵養」することを謳った建学の精神だ。杉田学長補佐は、「この精神を現代にあてはめると、『修得した知識とその活用力を、社会に出たあとに適用可能な状態にまでもっていく』ことだと考えた」と話す。そうして、全学生が初年次にPBL型のゼミ「初年次ゼミ」に所属して探究的な学びに取り組み、2年次以降も理論学習と、演習などを通じた知識の活用、そしてジェネリックスキルの涵養を並行して行い、社会に出たあとの課題解決力を高めていくカリキュラムが作られた(図1)。

 このカリキュラムの開始以降、「10年近くかけて教員の意識づけや、本学の学びに合う教員の採用を行い、教育体制を整えていった」と杉田学長補佐は話す。新任の教員には着任初年度に初年次ゼミを任せる。初年次ゼミの運営を通じて、PBLのファシリテーター、ジェネリックスキルの養成者、学生たちの学びをサポートするアカデミック・アドバイザーという3つの役割を着実に担える教員を増やしていったという。


図1 産業能率大学の学び


課題解決力等を測る入試を新設。探究型人材を迎え入れる

 また、アクティブラーニングやPBLで培ったノウハウの高校教員への展開も行っている。文部科学省「大学教育再生加速プログラム(AP)」高大接続事業の一環として開発した「主体的学習者育成プログラム」「協働的学習者育成プログラム」や、2020 年から実施している「探究学習ワークショップ」だ。「高校の探究学習で実際に活用できる具体的なプログラムの提供と先生向けの研修を両輪で回していくことが、本学における高大接続」と杉田学長補佐は説明する。

 そして、今進めているのが、高校で探究学習に取り組んだ学生を受け入れ、その力をさらに伸ばしていくための入試改革だ。2020年度入試から一般選抜に「未来構想方式」を、さらに、2022年度入試からは経営学部マーケティング学科の総合型選抜に「MI(マーケティング・イニシアティブ)方式」を新設する。いずれも、探究によって培われた力を測り、合否を決める方式だ。また、MI方式は、2022年度よりマーケティング学科に新設された問題の発見から解決策の提案までをビジネスプロフェッショナルと協働して取り組む科目「マーケティング・イニシアティブ」に挑戦したいという意欲の高い学生を受け入れるために設けられた方式でもある。これらの方式の設置背景について、杉田学長補佐は「これまで、総合型選抜はコンピテンシーの高い生徒、一般選抜はリテラシーの高い生徒と、強みの異なる生徒が受験してくるものと思っていた。ところが、高校での探究学習が進み、コンピテンシーとリテラシーの両方を兼ね備えながらコンピテンシーが自分の強みだと思って総合型選抜に絞っている生徒や、一般選抜を目指しているけれど探究にもしっかりと取り組んできた生徒もいることが分かり、二分法的な入試制度の間に位置する入試を作りたいと思った」と説明する(図2)。

 「ただし、問うのは『探究で何をやったか』ではなく、『探究で培われた力』」と補足するのは、これらの入試を企画・実現した林氏だ。「課題解決力等をどのように伸ばしてきたのか、また、どのようなものの考え方ができるようになったのかというところを見ていきたい」という。


図2 一般選抜 未来構想方式


「さらに学びたい」という学生の適切な支援が今後の課題

 PBLに取り組んできた学生の成長や学修成果は、PROGテストによるジェネリックスキルの客観評価と、アカデミック・アドバイザーが学生と半期に1度行う個人面談による定性評価、学生自身のポートフォリオ入力による自己評価によって可視化している。「ポイントになるのは個人面談」と杉田学長補佐。「例えば、同じプログラムに参加した学生で、客観評価上は同じように協働する力が伸びていても、その中身は一人ひとり異なる。ゼミでの活動の様子を近くで見てきた教員が面談を行い、活動の成果を本人の言葉で言語化することをサポートし、その上でポートフォリオに記録するという一手間が大事だと考えている」と話す。

 今後の課題は、「カリキュラムを超えた学びへの意欲を示す学生たちをどう応援するか」だという。そのためには、教員の支援スキルも教育体制も磨いていかなければいけない」と杉田学長補佐。マーケティング学科の新規科目「マーケティング・イニシアティブ」もその問題意識から生まれた科目だ。課題の発見と解決ができる学生を本気で育てようとしている産能大の今後の取り組みから目が離せない。


(文/浅田夕香)


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