入試は社会へのメッセージ[4]【事例report】個別最適なリベラルアーツ教育への適性を問う入試設計/国際基督教大学(ICU)

国際基督教大学キャンパス


 国際基督教大学(ICU)は「自校教育への適性」を入試に盛り込んでいる大学として著名だが、現在のICUのカリキュラムにフィットする人材が持つスキル・コンピテンシーとは何か、それをどのような判断軸で見極めているのか。アドミッションズ・センター長の平島 大教授にお話を伺った。

国際基督教大学アドミッションズ・センター長 平島教授

個別最適な学びを実現するリベラルアーツ

 最初に、ICUの学びの特徴を押さえておきたい。

 まずは、自分軸でカスタマイズできる学び。自分の学びを自分でデザインできるメジャー制(2年次終わりに選択)で、分野にとらわれない広い視野と統合力を身につける。4年間で12回の科目選択機会があり、個人の興味関心に応じて柔軟なカリキュラム設計が可能だ。次に、少人数による双方向授業を基本とすること。ICUの学びはダイアログがベースであり、他者との対話により様々な刺激を受け、可能性が開花していく。こうした個人の興味関心を起点とした学びの設計が円滑に進むよう、専任教員による教員アドヴァイザー制度や学修・教育センターが支えるという体制である。

 では、そうした学びへの適性をどのように考えているのだろうか。図1に示すように、ICUはアドミッション・ポリシー(AP)として4つの要素を掲げている。「APはこういう学生を集めたいという目標であり、こうした教育を行っていくという理念でもあります」と平島氏は言う。「しかし、入試という限られた時間・資源でこの理想を実現するのは容易なことではありません。毎年どうすれば良い選抜ができるかを模索しています」。こうした素養を見出すためにICUは多様な選抜方法を用意している(図2)。面接が主軸となるが、一般選抜で丁寧な面接を全員に行うのは物理的に困難だ。そこでICUが一般選抜で取り入れたのが総合教養ATLASである。小誌でも過去何度か取材している(197号他掲載)。


図1 アドミッション・ポリシー


図2 主な入試方式(一部を抜粋)


学際的テーマへの主体的な学びのスタンスを見極める

 ATLASは図1のうち、特に①②、即ち幅広い知的好奇心から自ら問題意識を涵養し、学びを広げているかを問う。問題や扱うテーマは多岐にわたっている。「本学が掲げる『行動するリベラルアーツ』が扱う、一般的な入試問題の枠から逸脱したテーマは、高校生が正解を出せるわけではないところ、でも考えてほしいところ。この試験を受けて『楽しい』と思える人はICUの教育に向いています」と平島氏は言う。

 ATLASでは、まずテーマに関する講義(約15分)を受け、その内容や関連する論述や設問に解答する。人の話を聞いてその場で理解することが、先に挙げたダイアログの基礎体力を問うのだという。また、それは③のグローバルなコミュニケーション能力の基礎となる。「ダイアログとは、相手の話を理解して自分の意見を述べる対話。ある程度の時間集中して話を聞けるかというのは大事な観点です」(平島氏)。

 続く論述では異なる学問的観点から書かれた内容を読み解き、それぞれについての設問に答える。多角的に俯瞰的に物事を捉え、関係性を想起できないと解答が難しい。また、当該テーマについて一度でも自分なりに考えたことがあるかどうかが分かるように作問は工夫されている。逆に言えば、そうした主体性と知的体力のある生徒であれば、取り組むこと自体が楽しい。「本学は必修科目が少なく、自分の問いを起点に自分で学びを設計する力が必要です。その自由度の高さゆえ、自らの興味を自ら広げるスタンスかどうかを見る必要がある。知識を求めているのではなく、知識を得ようとする姿勢を見たい」との平島氏の言葉通り、まさにICU教育のプレ教育とも言える入試だ。企業採用で言うところのワークサンプル型である。ICUにおいては、学校で習ったことをどれだけ理解しているかという従来の知識・技能型選考よりも、社会問題に対して課題意識を持てるか、主体的に調べたり考えたりできるかを問うことで、教育へのフィット感を判定していると言えよう。

入試は社会へのメッセージ

 「入試は学生を選抜することも大事ですが、ICUがどのような教育を実践しているかという、社会に対するメッセージにもなる」と平島氏は言う。特に、高校の先生に向けて直接訴えかけることができる手段が入試であるという。「探究に親和性が高い高校はきっとICUの教育にも親和性が高い。高校で探究を導入する時に、思い出してもらえるようなポジションでありたい。そのあたりは課題であり模索中です」。新課程入試が始まる2年後に探究世代に選ばれる大学であることが1つのマイルストーンだ。「学びの姿勢が備わっている学生が前提になったときに、入試はどう変わるのか、教育は今のままでいいのか。本学のように小さな大学にとって、少子化の圧力はとても大きい。常に大学の教育の質を上げられるかが一番大事です」。入試はそうした教育の第一歩というわけだ。

 ベースを揃える一方で、ICUは多様性を重んじる大学でもある。受験者の個をどのように見出すのか。APを満たす人材を選抜するために多様な方式を揃えているが、重点を置くところは方式ごとに異なる。各方式で課す面接やATLAS、エッセイ等はAPを測る手段だが、「入試対策が進めば進むほど似たような学生が集まってしまう」と平島氏は苦言を呈する。「本学の教育に必要なベーススタンスは揃えつつ、独自性・個性のある学生をぜひ採りたい。準備された答えをいかに裏切るのか。それまで考えたことがなかったような質問に対してどう対峙するのかを見たい」。ベースは揃えつつ、個を見出せるように、個が浮かび上がるように配慮しているのだという。このあたりがICUの作問の絶妙なところだろう。

 ICUは「個別最適な学び」をリベラルアーツで実現し、その教育に必要な特性を「知に向かう姿勢・正解のない問いに対峙する姿勢」と定義した。そしてそれこそが、ICU教育へのカレッジ・レディネスにもなっているのだ。「本学は入試で判定しづらいものを敢えて入試で課しています。しかし、結局それが大学教育への適応力になる。様々な要素が絡みあった、予測の難しい時代を生き抜くために必要なのは、不確実ななかでどう行動できるか。それが大学教育に問われているし、そうした教育に対してどういう資質があるのかを見たい」。平島氏の言葉はゆるぎない。


(文/鹿島 梓)


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