DXによる新たな価値創出[3]MDASHリテラシープラス採択プログラム「医療系大学での学びあいと内製AIによる学修者本位の教育」/北海道医療大学

北海道医療大学キャンパス


DX推進計画で目指す教育のパラダイムシフト

情報センター長
二瓶裕之 氏

 北海道医療大学(以下、医療大)は、2021年3月にDX推進計画を公表した。同時に文科省「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」に採択され、同年8月にはMDASHリテラシープラスに認定されている。こうした一連の経緯を、情報センター長の二瓶裕之教授は、「AI時代に向けて教育を変革していく動き」と表現する。かねてより医療大では独自の教育手法を確立するために、15年間にわたり教育支援システムを内製してきた。「LMS等に蓄積された大量の学修ログを解析するため、機動力の高い中小規模のAIを多数開発・実装し、全学的に個別最適化された教育を展開することが、DX推進計画の目的です」。過去の実績の厚さに加え、政府のAI戦略策定等の動向と相まって、冒頭の連続採択にも至った。先見の明と言うほかない。「最初から目的を揃えていたのではなく、様々なことがつながった結果」と二瓶氏は謙遜されるが、自校の今後を真摯に見据え、たゆまぬ改革を積み上げていたからこその成果であろう。何ごとも、動向が見えてから改革検討を始めるのでは遅いのである。

 計画の全容は図1に示す通り、「医療系大学における学生参加型AI開発による学修者本位の教育の実現と普及」をテーマに、「A.基礎的な知識の定着を図るAIでリメディアルや初年次教育を支援する」「B.デジタル空間の刺激により学びを動機づけるAIで多様な学びを支援する」「C.学生一人ひとりに最適化した教育を実現するAIで教育の更なる高度化を図る」の3つで、「医療人を目指す学生の視点に立った学修者本位の学修支援」を展開する。そして、その基盤として、「全学的に初年次データサイエンス教育を実施」する点が含まれている。学修者本位の教育実現のために、AIが導き出した結果の意味を読み解き、正しく活用するDS力こそが重要だという。


図1 DX推進計画全体像


オンラインを利活用したアクティブラーニングによりDS教育の成果を最大化する

 では、こうした全体計画を背景に、MDASH に採択されたプログラムの内容を見ていこう(図2)。採択プログラム名は「医療系大学での学びあいと内製AI による学修者本位の教育」。全学部初年次教育でモデルカリキュラムに相当する「情報科学」「情報処理」系の科目を課し、基礎的なDS力を培う。その学び方の独自性がプラスとして評価された。それが、オンライングループワークや同僚間アンケートを用いた学生同士の「学びあい」の仕組みである。

 具体的には、授業のなかで、定められたテーマについてオンラインドキュメントに意見を出し合い、着眼点の違いを可視化し、自らの意見をメタ認知したり、切り口の相違を手掛かりにディスカッションを深めるといった手法や、AI解析の方法論を学んだ後にサンプリングのためのアンケート設計や集計を自ら行うといった手法等がそれに当たる。学生同士で回答し合うことで、当事者意識のある生きたデータ分析プロセスを体験できる。「学びあい」は学びの幅を広げると同時に、学生自身の主体性を引き出し、授業の学修成果を高めることに大きく寄与する。また、「話し合った言葉や結果がテキストデータで蓄積されていくのがオンラインツールを用いる最大の利点」と二瓶氏は言う。授業と連動した様々な学修ログを追加することで、学生の動向や意見を踏まえたAI 開発が可能となる。学生がAI開発自体に参加する応用科目も設置した。二瓶氏は、「AIのパラメータ調整に学生の声を入れることで、学生の学びに寄与するものが作れると考えました」とその狙いを話す。「AI開発に学生参加型手法を取り入れることで、補助期間終了後もポストコロナを見据えた継続的な教育の高度化を推進したい」。

 医療系学部は専門教育の厚みに加え、国家資格取得に向けた準備等でカリキュラムは過密であり、そこにDS教育を追加するとなると教育の設計難易度は困難を極める。医療大の場合、既にカリキュラムに織り込まれている授業科目をバージョンアップすることで無理なく全学履修体制を整備し、また学び方をAIによって工夫することで、DSの授業内容を授業時間内に定着させることが可能となった。プラス認定の条件である「全学履修率50%以上」と「独自性」を両立する打ち手だと言えよう。


図2 MDASHリテラシープラス採択プログラムの全容


AI関連の開発・設計を担う専門部署がブレーンとなり学内のAI対応を推進

 次に、こうした動きの主管部署である情報センターについても触れておきたい。

 情報センターの設置目的は、「医療大の教育に合わせ、外部システムをカスタマイズするのではなく、ICTを活用したシステムを独自に開発すること」だ。情報関連の多様な業務を行っており、AI授業設計のデザインも一手に引き受ける。構成員は工学系教員2名と、医療系教員3名、情報推進課で、二瓶氏は「専門教育の先生に参加頂いているのが大きい」と言う。技術を形にする人と教育のあり方を考える人がチームになっているため、医療大の教育にとって必要な情報デザインが構想できる。また、情報センターが考案した内容を「最初は多少使いにくくてもまずは使ってみて皆でチューニングしていこう」という学内の推進力が高いことも、成功の要因の1つであるようだ。

デジタルならではの価値創出で次のステージへ

 今後の動き・方向性についても伺った。まずは、MDASHの次の展開だ。現在リテラシーレベルに続き、応用基礎レベルの授業も設計・展開中である。図3に示すように、基礎的な情報スキルを踏まえ、医療系学科の専門性× DSという躯体での情報力育成が目的だ。文科省への申請は実績を踏まえた内容で来年度を予定している。

 また、令和3年度文科省「ウィズコロナ時代の新たな医療に対応できる医療人材養成事業」に薬学部が採択された。医療系学部を有し、遠隔医療やデジタルを活用した実習・教育内容の充実を図る大学の環境・機材整備を支援するもので、医療大はVRを活用した教育実践にチャレンジしている。「許諾をいただいた医療機関で、全天球カメラで医療現場を撮影し、教室でVRゴーグルを装着することで体感できる仕組みを作っています」(二瓶氏)。写真では実現し得ない没入感や、普段は近づけない場所に行けたり、繰り返しの視聴や外部モニターに出力したりできるのがVRの魅力だ。「オフラインの代替手段としてのデジタルではなく、デジタルだからこそできる価値創出と、それにより学生に選択肢が増えること、学習効果が高まることに拘りたい」。それこそが、医療大が策定したDX推進計画の真髄なのである。


図3 応用基礎レベルのAI×専門性図



(文/鹿島 梓)


【印刷用記事】
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