出願前の段階から高校生の好奇心・探究心を引き出し 大学の学びにつなげる/島根大学

島根大学キャンパス


 島根大学(以下、島大)が2021年度入試から総合型選抜「へるん入試」を導入し、「探究」を軸に高大の学びをつなげる取り組みとして注目されている。「へるん入試」では、大学入学共通テストは課さず、高校生が持つ「学びのタネ(学びの原動力となる好奇心や探究心)」が評価の対象として重視される。

島大の2022年度入試における「へるん入試」の募集人員は257人と入学定員の2割を超える。従来とは異なる視点で学生を集め、育てる「へるん入試」に島大が注力するのはなぜか。入試設計の意図や、「学びのタネ」を大学で伸ばす仕組みについて服部泰直学長に伺った。

服部泰直学長

学びの原動力となる好奇心・探究心の重要性に着目

 大学憲章にうたう「地域に根ざし、地域社会から世界に発信する個性輝く大学」を目指す島大。その一環として、2016年度入試より全学部で「地域貢献人材育成入試」を実施していた。「地域貢献人材育成入試」は、地域枠入試と地域貢献人材を育成する教育コースでの入学後の学びに一貫性を持たせたプログラムで、単に地元の高校生を受け入れるのではなく「地域への思い(自分なりの課題意識や意欲)」を持った生徒の選抜が目的だった。そのため高校生の「自らの問題意識の明確化」と「島根大学で学べることへの理解」を促す面談会を出願前の段階で実施する等、一連のプロセスを通して「自分が何を学びたいのか」を受験生に熟考してもらうことを意識して制度設計された。本選抜で入学した学生には学問に対する好奇心や探究心があることから主体的に学ぶ人材が多く、学内の様々な活動でリーダーシップを発揮し、ほかの学生に対しても好影響を与えているという。

 この経験から「学びのタネ」の重要性に着目し、「地域」を超えた新たな入試として誕生したのが「へるん入試」だ。「へるん入試」には「一般型」と特定の分野に特化した「特定型」があり、「地域貢献人材育成入試」は後者のうち「地域志向入試(島根県・鳥取県枠)」に踏襲されている。

高校までに培った力を見出し、育てる「育成型入試」

図 育成型「へるん入試」の流れ

 「へるん入試」の最大の特色は、「出願前教育・入学前教育・入学後教育」の3ステップで生徒の「学びのタネ」を育てていく「育成型入試」であることだ(図)。「出願前教育」の目玉は6月~9月に行う面談会。参加は出願要件ではなく、生徒のやりたいことと島大で学べることとのミスマッチが起こらないようにする目的とともに、「地域をもっと元気にしたい」といった生徒の思いを軸にして対話をする内容で、何度も参加する高校生もいる。

 出願書類は「調査書」「クローズアップシート」「志望理由書」の3点。試験では面接や「読解・表現力試験」等が行われ、配点は調査書・クローズアップシート(80点)、読解・表現力試験(100点)、志望理由書を用いた面接(100点)の合計280点。これらに総合理工学部(物理・マテリアル工学科、物質化学科、知能情報デザイン学科)では「理数基礎テスト」(100点)、「特定型」には付加評価項目を加えて選抜される。

 クローズアップシートには、高校段階で最も注力した取り組みを800字で記述。「これは自分を振り返るためのステップです。自らを振り返り、言語化することによって、先が見えてきます」(服部学長)。また、志望理由書には「学びのタネ」を40字以内で記載する欄がある。「“学びのタネ”を簡潔に書けるかどうかは、大学で学ぶための基礎力の重要な判断材料になります」と服部学長は言う。さらに、面接では志望理由書をもとに話を深く掘り下げていく質問が行われる。大学や大学での学びを理解し、自らが何を学びたいかをしっかり考えた生徒でなければ対応できないだろう。

 なお、高校での探究学習が本格的に始まり、大学入試において探究的な活動を評価することへの高校からの期待も高まると考えられるが、「私達が知りたいのは生徒の実績や成果ではなく、これから学び続けるための好奇心や探究心。あくまでも“学びのタネ”です」と服部学長は釘を刺す。

「探究」に不可欠な基礎力の育成に本腰を入れる

 「学びのタネ」を大学で伸ばすための支援も充実している。「へるん入試」合格者には各学部(学科・専攻)から出される専門的な課題、英語eラーニング、入学前セミナーからなる「入学前教育(ぷれ大学)」を実施。加えて、入学後の「初年次教育」では英語関連のプログラムのほか、学科・専攻の教員による「フレッシュゼミナール」を用意。1年生から専門分野に触れる機会を設けることにより、学生の「学びのタネ」を深化させ、意欲を高めることが狙いだ。また、2021年度後半には「へるん入試」で入学した学生対象のオンラインプラットフォーム「へるんスプラウトROOM」を開設。学生が学び合いながら、成長していく環境づくりも行っている。

 「へるん入試」は2年目を迎えたばかり。評価を行うには早いが、「へるん入試」合格者は入学後に積極的に活動する姿が見られ、服部学長は「学びに対する好奇心や探究心が学力の土台となることを実感している」と満足そうに話す。「地域貢献人材育成入試」に続く「へるん入試」の手ごたえもあり、島大では2024年度までに「へるん入試」を含む特別選抜の定員の割合を全体の4割に引き上げることを目標にしている。

 「県内の全高校を毎年訪問する」という服部学長。「へるん入試」に対し高校側には期待の一方、多様な選抜に対応する負担感もあると把握している。選抜において実績ではなく「学びのタネ=可能性」を評価する難しさも課題だが、「高校側のご意見をいただきながら、一緒に『へるん入試』を育てたい。高校までに育まれた好奇心や探究心を大学で芽吹かせ、想定外の課題に対峙・解決する力を持つ人材を世に出すことが地域を活性化する」と力強く語る。年度計画で「課題解決型授業(PBL)や反転授業等の能動的授業を全体の45%で実施すること」を目指すなど、「探究」に不可欠な「主体的に学ぶ力」の育成に本腰を入れる島大。一貫した理念に基づく改革だけに、「へるん入試」の今後に注目したい。


(文/泉 彩子)


【印刷用記事】
出願前の段階から高校生の好奇心・探究心を引き出し 大学の学びにつなげる/島根大学