【TOP INTERVIEW】新しい工学教育を創造し、「目立つ大学より役立つ大学」を目指す/大阪電気通信大学 学長 塩田邦成


塩田邦氏

大阪電気通信大学 学長 塩田邦成(しおた くになり)
1956年生まれ
1978年 立命館大学文学部史学科卒
1978年 学校法人立命館事務職員
日本私立大学連盟事務局出向等を経て、立命館アジア太平洋大学事務局長、
立命館大学国際部事務部長、人事担当部長、
株式会社クレオテック取締役
2014年 東京大学大学院教育学研究科修士課程修了
2016年 国立大学法人山口大学客員教授兼職
2017年 大阪電気通信大学大学事務局長・理事
2021年 学校法人大阪電気通信大学理事(現在に至る)
2022年 大阪電気通信大学学長

実学教育とICT教育とともに歩んだ80年間

 本学は大阪府の寝屋川と四條畷に2つのキャンパスを持ち、工学、情報通信工学、医療健康科学、総合情報学の4学部14学科および大学院、学生数約5800名を擁する大学です。1941年に創設した東亜電気通信工学校を起源とし、2021年に学園創立80周年を迎えました。

 「『人間力』と『技術力』を育み、自らの力で人生を切り拓いていける実践的な実学教育」を教育理念に掲げ、受け身の授業だけにとどまらず、実験・実習の授業はもとより学生が自由に学べる場を様々なプロジェクトとして数多く提供しています。例えば、授業以外でも、ものづくりの経験ができる「自由工房」、学生がデザインした3Dキャラクターが公式Vtuberとして活動する「電ch!」、eスポーツを企画・運営する「esports project」などがあります。

 また、本学は開学当初から情報教育の重要性に着目し、取り入れてきました。そのノウハウを社会に還元することを目的として、2018年度に「ICT社会教育センター」を設立しました。地方自治体と連携協定を締結し、学生や教員を派遣してプログラミング講習を行うなど、地域貢献活動を行っています。

中長期計画で「専門教育×ICT」推進

 大学開学70周年の2031年に向け、2017年度に中長期計画を策定しました。「80年間、目立つ大学より役立つ大学。」を広報戦略に掲げ、15年間を3つに分けた5年単位の中期計画を推進しています。

 第1次5ヵ年計画(2017-2021年度)は、学園の経営を安定させるという量的安定を目標に、志願者確保のための入試改革や離学率の低減等様々な取り組みを実施した結果、2018年度以降は学生の確保は順調に維持しています。

 教育・研究では「専門教育×ICT」を打ち出しました。情報通信工学部や総合情報学部はもちろん、全学部学科でICT教育を取り入れた教育を展開しています。なかでも建築学科は、建築工程の情報を統合化したデータベースで集約・共有するプラットフォーム「BIM(Building Information Modeling)」を取り入れた教育を行っています。その強みを打ち出し続けていれば、そこに魅力を感じて来て頂けていると実感しています。

 さて、私が学長に就任した今年は、第2次5ヵ年計画(2022-2026年度)の1年目に当たります。第2次の目標は質的レベルの向上であり、①教育の質、②研究力強化、③国際化でアプローチします。

 ①教育の質では、ICT教育において学部・学科を超えた全学横断的に展開する「横軸」と、専門分野を深堀する「縦軸」の教育の両輪で推進します。横軸は、本学の学生が身につけるべきリテラシーとして、全学共通情報教育「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」を昨年春にスタート、今年度から応用基礎レベルも始まりました。縦軸は、「専門教育×ICT」として各学部の専門分野で特色あるICT教育を展開しています。先ほどの建築学科の取り組みは先駆的な取り組みとして評価され、文部科学省「令和3年度デジタルと専門分野の掛け合わせによる産業DXをけん引する高度専門人材育成事業」の実施機関として採択されました。本学が打ち出してきた「専門教育×ICT」が文部科学省の推進するDX教育と合致した成果であり、他学科にも拡げていければと思います。②研究力強化では、本学の科研費の獲得状況は関西の私立大学で22位※なので、これをさらに引き上げるよう強化していきます。③国際化では、技術論文やマニュアル等が英語であったり、職場で協働する方も海外からの技術研修生となるなど、理系学生にとって国際性は実学の一部になってきています。こうした国際化に対応できるための力を身につけられるよう教育改革を進めていきます。

新しい工学教育を創造する新棟が完成

 2022年3月には、寝屋川キャンパスをリニューアルし、新時代に向けた本学の武器となる新棟「OECUイノベーションスクエア」が竣工しました。新棟のコンセプトは「研究室間の壁を取り除いてオープン化し、学科間のコミュニケーションを増やす」です。いわゆるタコツボ型と揶揄される日本の工学教育の問題点を解消し、専門分野が交流する新しい教育システムを創造することができる建物を目指しました。

 様々なオープン化の仕掛けを建物内に仕込んでおり、それを使いこなす教育内容に既存の教育をどうチェンジできるかがカギとなります。既に新棟のコンセプトを象徴するような科目も始まっていて、工学部と情報通信工学部の2学部5学科による合同開講科目「異分野協働エンジニアリング・デザイン演習」では、学部・学科を超えてチームを組み、生物模倣技術による新製品を開発しています。この開発内容は「SDGs探究AWARDS」で2年連続で受賞しています。学部・学科が連携し、まだ誰も体験したことのない教育方法ですが、先生方はよくアウトプットとして形にして下さったと思っています。

 今後の本学の一番大きな課題は、教員一人ひとりが従来の自分の教育を他分野交流やICT活用の角度からどう見直していけるかだと考えています。

大学職員出身の学長の強みとは

 国立大学法人化以降、学長に経営者の素養が求められるようになり、21世紀の学長のイメージが変わってきました。企業経営者や文部科学省職員などが学長に就くケースも出始めました。私のような大学職員出身の学長の強みは何かと聞かれれば、40年近く大学に勤め、大学運営に携わる中で蓄積した経験の引き出しを持たせてもらったことだと思っています。まずは第2次5ヵ年計画をやりきるために、学内コンセンサスを結集していくのが私の学長としての仕事です。教員の5割、職員の7割が全学討議に参加し、構成員全員が当事者意識を持って作成したKPI(Key Performance Indicator)でPDCAサイクルを回していきます。

 今はICTがテーマですが、今後も時代とともに「役立つ」と「実学」を再定義しながら、新棟で異分野と交流を推進し、「目立つ大学より役立つ大学」をコンセプトに、変化に対応できる学生を育める大学となっていきたいと思います。



  • 文部科学省研究振興局「令和2年度科学研究費助成事業の配分について」より

(文/能地泰代 撮影/有田聡子)


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