大学は「Z世代」を正しく理解できているか/「チル&ミー」を大切な価値観とするZ世代 原田曜平


マーケティングアナリスト 原田曜平氏


 「Z世代」と呼ばれる現在10~20代前半の若者たち。今後、大学受験に臨む高校生も含むZ世代とはどのような特徴をもつ世代なのか。若者文化に詳しい芝浦工業大学教授、原田曜平氏にお話を伺った。

少子化の進行で人口が少ない日本のZ世代

 まず、Z世代の定義・位置づけと時代的な背景を改めて整理しておきたい。世代区分に関してはいくつかの切り口があり、それを整理したのが原田氏作成の図1だ。

 Z世代とはもともと米国を中心とした欧米で、Y世代・ミレニアル世代(諸説あるが、1981~1994年生まれを指すことが多い)に続く、1995~2010年生まれ(こちらも諸説がある)を指す言葉として生まれた。

 「米国でZ世代が注目される理由は、何よりもその人口の多さにあります。現在Z世代の人口はミレニアル世代の人口を超えており、マーケティングの対象として大きく注目されるようになっているのです」(原田氏)。

 一方、日本のZ世代は事情が異なる。少子化が進む日本では、Z世代は、バブル世代・団塊ジュニア世代を含むX世代との比較ではもちろん、ミレニアル世代と比べても人口が少ない。そのため、近年、企業は、国内市場においては中高年、高齢者を重視したマーケティング戦略を採り、若者世代は軽視される傾向にあった。このような背景もあり、「若者のクルマ離れ」「若者のテレビ離れ」など、若者が消費活動に消極的になる傾向が顕著になっていった。

 「しかし、現在は消費活動に積極的ないわゆる『アクティブシニア』も団塊世代が後期高齢者(75歳以上)となり始めたことで、この先、その消費活動に大きな期待をもち続けることは難しくなっています。一方、この先の消費の主役となっていくのはZ世代。若いときに身につけた生活習慣や消費習慣は年齢を重ねたからといって大きく変わることは考えづらいため、今、企業は、Z世代の若者に目を向け始めています。そのため、人口が少ないとはいえ、重要なマーケティング対象になりつつあるというのが現状です」(原田氏)。


図1 日本の世代論とZ世代


上の世代と比べて就職環境は恵まれている

 また、Z世代は、ゆとり教育が見直され、2011~13年に導入された新学習指導要領による教育を受けてきた「脱ゆとり世代」と重なる。上の世代と比べると授業時間は長くなっており、小中高の学習環境は異なっている。

 就職環境に目を向けると、リーマンショックによる就職難も経験した「さとり世代」と比べると好転している。

 「とにかく若者の人口が減っていますから、企業にとってZ世代の希少価値が高くなっています。コロナ禍でも新卒採用を増やした企業も多いです。そのため、Z世代の就職に対する危機意識は薄いですね。『さほど優秀でない先輩でも就職できているのだから自分もなんとかなるだろう』と楽観的に考えている大学生が多く、『そんなことでは就職できないぞ』という脅しは彼ら彼女らには通用しなくなっています。また、入社後も、気に入らないことがあればすぐに辞めてしまう傾向も強いです」(原田氏)。

 さらに、Z世代は、デジタルネイティブであることに加え、スマホ第一世代であることも注目すべきポイントだろう。後述するように、それによって利用するSNSにも変化が見られるようになっている。

「チル&ミー」が日本のZ世代を読み解くキーワード

 以上が時代背景を踏まえたZ世代の位置づけと社会状況から分析可能な大まかな傾向だ。しかし、これだけではZ世代の本質は見えてこない。前述の時代背景を踏まえて、この世代の価値観や行動は、前の世代からどのように変化しているのか。原田氏は、「チル&ミー」という言葉で、その特徴を表現する。

 「『チル』とは、もともと米国発のスラングで、『Chill out』の略です。日本語で表すと『まったりする』という表現が最も近いでしょう。Z世代の若者はよく『チルってる』という言い方をしますね。不安や競争の少ない環境で育ってきた彼ら彼女らは、マイペースに居心地良く過ごすこと、つまり『チル』を大切にする傾向が強いですね」(原田氏)。

 同時に、SNSの発達と普及によって、誰でも容易に自己発信ができるようになったことで、Z世代は一見見えにくい過剰な自己意識をもつようになってきた。原田氏はこれを「ミー意識」と名づけている。

 図2は主要なSNSの年代別の利用率を集計したものだ。Facebookは30代の利用率が最も高く、Twitterは20代、10代が高い。InstagramやTikTokも10代の利用率の高さが目立つ。以上の傾向は、若者はその時代時代で最先端のSNSに飛びつく傾向があるということでも説明がつくが、注目したいのは各SNSの特性の違いだ。

 30代に人気の高いFacebook、また、現在の30代、40代がかつて利用していたmixiは「人とのつながり」を重視したSNS。これに対して、10代、20代に人気の、Twitter、Instagram、TikTokなどは、つながり以上に「自己発信」を重視したSNSといえる。

 これらのSNSによる自己発信が日常化したZ世代は、自らの発信に対して、より多くの「いいね」をもらいたいという自己承認欲求が高くなっている。原田氏はこれが、この世代のミー意識を醸成した要因の一つだと指摘する。

 「もう一つ、重要な要素が、保護者との関係が深くなっていることです。Z世代の保護者はとにかく優しくて怒らない。子どもの意志を尊重し、自由にさせる育て方をしている家庭が多いですね。また、少子化の影響で、6ポケッツ、8ポケッツと言われるように、1人の子どもに祖父母や叔父叔母までもがお金を出すようになっています。お金をかけて大切に育てられたことが、Z世代の子どもたちのプチ万能感を醸成し、過剰な自意識につながっています」(原田氏)。


図2 主なソーシャルメディア系サービス/アプリ等の年代別の利用率


高校生に人気なのはTikTokに代表される動画SNS

 次にZ世代の中でも、現在の大学生以上の世代とその下の高校生との間で、価値観や行動に違いがあるのかについても触れておきたい。原田氏は、「本質的な価値観に大きな違いはない」と言うが、前述のように、利用するSNSに関しては年齢が下がるごとに顕著に違いが表れるという。

 「10代のTikTok利用率が抜けて高いことでも分かるように、今の高校生はテキストや静止画ではなく、動画から情報を得る傾向が非常に強くなっています。その点は、今の大学3年、4年あたりの年代と比べても明確に違いがあります。つまり、高校生に何かを訴求しようと思ったら、TikTokやYouTubeを中心とする動画メディアをいかに活用するかということが重要になっているのです。まだまだTikTokを活用できている大学は少ないですから、その点は情報発信に関する改善点といえるでしょう」(原田氏)。

日本のZ世代のSDGs意識は高くない!?

 では、ここまで述べてきたようなZ世代の価値観や特性を大人世代は正しく理解できているのだろうか。マスコミや企業人は、図3に示したように、Z世代の特徴として、社会貢献意識やSDGs意識の高さを挙げることが多いが、実際に多くのZ世代と接し、リサーチを重ねてきた原田氏はこの見方を否定する。確かに、意識の高い若者は社会に目を向けているし、若くして社会起業家として活躍しているような例もある。しかし、それはあくまでごく一握りだという。


図3 上の世代が若者の実像を誤解する「トランプ現象」が起きている


 「今の日本のZ世代は、他の先進国と比較しても政治意識は極めて低いですし、SDGs意識も低いです。マスコミは偏った優秀な学生を見て、Z世代全体がSDGs意識が高いかのように発信していますが、大多数の実態とは違います。例えば、日本の若者はTikTokやInstagramで映えるおしゃれなエコグッズは買いますが、それが環境のために1000円高かったとしたら買いません。北欧の若者はそれでも買うんです。ですから、企業などが日本の若者を惹きつける目的でSDGs訴求に取り組むのは的外れです」(原田氏)。

 原田氏の指摘を裏付けるデータが図4だ。日本、米国、中国、韓国の高校生の社会参加意識を尋ねたこの調査を見ると、「私の参加により、変えてほしい社会現象が少し変えられるかもしれない」について、YESと回答した高校生の割合は日本が圧倒的に低い。一方で、「政治や社会より自分のまわりのことが重要だ」「現状を変えるより、そのまま受け入れるほうがよい」といった項目は、日本が最も高い。


図4 日本の高校生の社会参加への意識は低い


情報環境は恵まれていても視野は狭い

 同じようなことは、グローバル意識についてもいえる。ミレニアル世代と比べてグローバル化が進んでいる今の社会に生きるZ世代のグローバル意識も、実際には決して高くない。情報環境はグローバル化していても、Z世代の関心はSNSでつながる狭いコミュニティーに限定される。

 選択肢自体は広がっているはずのZ世代のキャリア観についても、原田氏は次のように指摘する。

 「前述のように、保護者は子どもの意志を尊重していますが、その結果、やりたいことを自ら選択し、行動するのはそれができる一部の若者に過ぎません。むしろ、保護者との関係が深まったことで、保護者が勧める企業や仕事を選択する傾向が強くなっています」。

 一方、上の世代と比較してZ世代の強みといえるのが発信力の強さや動画メディアへの親和性だという。

 「発信力は日本人が弱みとしていた部分なので、グローバル社会で生きていくうえでの武器となりえます。また、今後、動画による情報発信がさらに社会全体で拡大していくなら、10代からTikTokに親しんでいるZ世代の活躍の機会が増えるかもしれません」(原田氏)。

 以上のようなZ世代の特徴を踏まえ、彼ら彼女らの強みをどのように伸ばしていくかは、大学にとっては大きな課題だ。原田氏は、芝浦工業大学などでの授業においては、旧来型のテキスト中心の指導は行わず、動画で伝えたり、動画を作らせたりする新たな教育に取り組んでいるという。原田氏自身、自らの教育を「社会の変化を見据えた実験」だと言うが、旧来型の価値観を押し付ける教育が「チル&ミー」の世代には響きにくいことは事実だろう。その意味で、Z世代を研究し、その本質を正しく理解することは、大学教育を見つめ直すために極めて重要となるだろう。


(文/伊藤敬太郎)


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