次代に向けた大学教育のパラダイムシフト/東京都市大学 デザイン・データ科学部

筑波大学キャンパス


東京都市大学(以下、都市大)は2023年横浜キャンパスにデザイン・データ科学部を設置する。その趣旨や背景にある課題意識について、副学長の関良明教授にお話を伺った。

POINT
  • 1929年武蔵高等工科学校として創立し、1949年武蔵工業大学に昇格、2009年創立80周年を機に東横学園女子短期大学と統合し、東京都市大学に校名を変更
  • 「公正・自由・自治」を建学の精神に掲げ、2022年現在文理7学部を展開する総合大学
  • 2014年度に掲げた「アクションプラン2030」をもとに、学修成果の可視化、大学のグローバル化、研究資金の採択等を徹底して推進
  • 2023年横浜キャンパスにデザイン・データ科学部を設置予定

グローバル大学としての人材育成

 都市大は2010年代後半の積極的な改革で有名だ。都市大を運営する学校法人五島育英会が第1期事業計画(2017-2020)の重点課題・施策の1つとして掲げたのは「教育及び研究の質向上と国際化」。2014年度から始まったアクションプラン2030では、文部科学省大学教育再生加速プログラム(AP)により、ディプロマ・ポリシーに基づく学修成果の獲得を重視した教育改革を推進。同時にRAC(Research Administration Center)が研究成果の社会実装と研究の高度化を進め、教育力も研究力も向上させる打ち手を講じてきた。国際化においては東京都市大学オーストラリアプログラム(TAP)といった独自の留学プログラム、アジア・大洋州5大学連合(AOFUA)等の海外大学との交流推進を図り、理系学生の比率が多いながらも語学力と国際的視野を獲得できるように環境を整備してきた。

東京都市大学 副学長 関 良明教授

 今回の新増設がこうした動きを受けた計画なのは間違いない。検討が始まったのは2018年頃だ。「本学はそれまでも新増設改組を含め、社会ニーズをいかに取り込むかを考えてきました」と関教授は言う。「しかし、文科省の2040高等教育グランドデザイン答申で言われている次代、シンギュラリティ等を見据え、これまでの延長線上にない新たな価値創出をしていく必要があるのではないかと考えました」。既に2020年から都市大では全学生を対象に「数理・データサイエンス教育」を実施しており、文科省MDASHリテラシーレベルにも認定されている。こうした実績も踏まえつつ、学部として体系化し、学内で都市大が新たなフェーズに向かうフラッグシップとして組織しようと議論されたのが、今回の新増設だ。語弊を恐れずに言うならば、新学部はデータサイエンス(DS)を学ぶことが目的なのではないという。では何を、と聞くと、「イノベーティブな人材育成が新学部の目的です。イノベーションをど真ん中に置いた教育をやっていきたい。それが本学全体へのシナジー効果を生み、起爆剤になることを期待しています」と関教授は明言する。

文理融合がコンセプトのキャンパスを代表する学部へ

 設置予定の横浜キャンパスは1997年、文理融合をうたう環境情報学部の設置と同時に開設した。現在は環境学部とメディア情報学部に分かれ、「実際は融合というより、文系と理系それぞれを包含するといった位置づけです」と関教授は控えめだ。しかし、「文理融合をコンセプトに生まれたキャンパスで、今度こそ文理横断的な、例えば文系で入学しても数的思考が身につき、理系が得意な学生でもマネジメント力が身につくような、そういう教育をやっていきたいと考えています」。理工学部を筆頭に構成される世田谷キャンパスはエンジニアリング中心の「創る」キャンパス、文理横断を軸にする横浜キャンパスは社会実装や価値創出を念頭に置いた「活かす」キャンパス、と各キャンパスの顔つきを整理する。一方で、都内の大学ならではの事情として、23区内の定員増抑制政策の影響もある。「新学部設置にあたり100名の定員増をしていますが、規制されている世田谷ではできませんので、必然的に横浜を舞台にする必要があったわけです」と関教授は補足する。

イノベーション×グローバルで生み出す教育の独自性

 では、具体的な教育内容を見ていこう。「本学部は、データ科学の知識と技術に基づき、新たな『もの』と『こと』を『デザイン』することを中心課題としています」と関教授は言う。学部名の通り、「データ科学」で「デザイン」するというのがポイントだ。関教授は、「DSの上にデザインを載せていきたい。工学の領域のみならず、文理横断的に価値創出できるように、イノベーションで価値創造することを中心に置き、価値創出するのに経験や勘によるのではなく、データに基づきクリティカルシンキングする力、マネジメントする力を身につける教育デザインを徹底しています」と強調する。

 学部ではイノベーション力を分析力×創造力と因数分解し、その両方が身につくカリキュラムを設計した。それにさらにグローバルを掛け合わせた体系化にチャレンジするのが都市大の独自性とも言うべきところだ。「英語力はディベートレベルまでいきたい」と関教授は意気込む。グローバル人材を育成するという従来の都市大の方針を踏襲しつつ、世界のあらゆる「もの」と「こと」を読み解く能力を修得し、新たな価値創出を構想・設計・構築できること。それが新学部の目指すところだ。

 概念図と科目を図に示した通り、都市大の強みである実践的な専門力を磨くための軸をユーザーエクスペリエンスデザイン(UXD)、ソーシャルシステムデザイン(SSD)、グローバル教養に置いたうえで、1・2年次は分析力・国際力を身につけ、デザインとマネジメントの基本を学ぶターム。3・4年次は、デザインを国際的・実践的に展開するタームと位置づけた。

 特に1・2年次には前述したTAPの枠組みを使い、今後の学修の目的意識を涵養するために全学生を海外へ送り出す。「TOEICⓇのスコアを上げるためではなく、国際体験を積むことに意味があります」と関教授は述べる。専門性があるわけではない段階の留学は、海外で課題を発見してくる意味合いも強いという。

 そうして培った課題意識やグローバル感覚を武器にPBLを多用するプログラムで専門性を磨き、3年次以降は海外インターンシップやCOOPプログラム等で実践を積む。最終的には卒業プロジェクト「キャップストーンプロジェクト」で学びを総括し、複数の教員の指導を受けるというのが主な履修の流れである。必修科目は少なく、選択必修を多くして、適切な履修モデルと卒業要件に基づいた文理横断をしやすいようにしているのも特徴だという。


図表1


図表2


図表3


 実はこのプログラムには原型がある。都市大では学部と大学院をつなぎ、5年で修士を修得する一貫プログラムを検討していた経緯があり、今回の新増設はその計画のスピンオフとも言えるものだ。「いずれは学院構想を実現させたいですが、まずは今までの本学の教育を次代に向けてさらにステップアップさせるフラッグシップ学部を建てることになったのです」と関教授は述べる。外部からも積極的に実務家教員を登用し、社会にも世界にも開かれたオープンな場で、イノベーションをど真ん中に置いた人材育成を行う。それが全学教育改革へ波及する効果は大きいと見る。

 都市大には既設で情報工学部とメディア情報学部があるが、その2学部との大きな違いはこうしたコンセプトと、イノベーションを中核に置いた教育設計だ。情報やAI・IoTを専門的に学ぶ情報工学部、社会メディアや情報システムを対象とするメディア情報学部、イノベーション創造をDSのデザインで実現するデザイン・データ科学部という、三者三様の位置づけなのである。

チャレンジ精神あふれる一期生への期待

 期待する入学者属性について伺うと、「新しいことにチャレンジしたい学生に来てほしい」と関教授は言う。「新学部で展開するのは順当に学問パッケージを修得していく学びではなく、自分の問いを軸にした価値創出のメンタリティの修得。学力的な優等生よりも、新しい学部を一緒に作っていく積極性や意欲のある学生がほしい」。こうした属性は必ずしも偏差値によるものではないため、ターゲティングの難易度は高そうだが、特に年内入試ではそういう素養をきちんと見ていき、定員100名のうち40名は年内入試の学生で固める人材ポートフォリオを掲げる。学力的な面を聞くと、「入学後の教育との整合性で言うなら、数学か英語どちらかが得意な生徒に来てほしいというのはある」とする一方、「文理横断を掲げる学部なので、文系の学生にも是非来てほしい」と、共通テスト利用入試の配点は文系重視にする等細部に気を配る。「都市大のこれからを牽引する学部になれるように努力したい。新しいものに飛び込める人達を獲得することは大学が飛躍するチャンスになり得る」と関教授は期待を寄せる。構想中の情報公表もしていたものの、本格的な広報はこれからで、正しくコンセプトを理解した受験生を1人でも多く獲得できるかが今後の課題だという。

 新学部は、エンジニアリング中心の都市大が次代に向けてパラダイムシフトするチャンス。注目したい。


カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2022/9/26)