文系学生にこそ必要な「社会で活きるデータサイエンス力」を育成/亜細亜大学 経営学部 データサイエンス学科

亜細亜大学キャンパス


 亜細亜大学(以下、亜大)は2023年経営学部にデータサイエンス学科を設置する。その意図について、経営学部長で大学理事でもある鈴木信幸教授にお話を伺った。

POINT
  • 東京都武蔵野市に所在し、経営学部、経済学部、法学部、国際関係学部、都市創造学部の5学部8学科を擁する文系総合大学
  • 建学の精神「自助協力」に基づき、日本とアジア地域を中心とした教育研究を通じて、広く社会に貢献する人材の育成を使命とする
  • 2021年文科省数理・データサイエンス・AI教育プログラム(MDASH)リテラシーレベルにデータサイエンス副専攻が認定。2022年8月同応用基礎レベルにも認定され、2023年4月には経営学部にデータサイエンス学科を設置。文系学生のデータサイエンス教育に力を入れる
  • 新学科では、産業界のデータ人材要望と学生ニーズを背景に、データサイエンス×経営学を意識した学びを展開予定

高い学生ニーズを背景にデータサイエンス教育を段階的に整備

亜細亜大学 経営学部長 大学理事 鈴木信幸教授

 鈴木教授によると、新学科設置の背景には2つの大きな理由があるという。1つ目は文科省のSTEAM教育への注力だ。「国が力を入れる分野なので、自然と本学でもやってみようという話になりました。それが議論の末、大学全体のスキームとして“データサイエンス副専攻”制度として実装され、MDASHリテラシーレベルに採択されたのが2021年の夏です」と鈴木教授は説明する。翻って亜大はいわゆる文系私大であり、入試科目でも数学が課されるのは一部のみ。しかも、「数学で受験して合格するような学生は、たいてい他の上位大学に逃げてしまう」のが常だという。そうした状況からすると、データサイエンス(DS)教育に注力して、果たして学生にどの程度反響があるか、鈴木教授自身も少々懐疑的だったそうだ。

 それがふたを開けてみると、「予想に反して学生の応募が殺到し、抽選しなければならないほどでした。現在データサイエンス副専攻を履修する学生は全学の各年で150名前後ですが、その3倍ほどの応募があったのです。あまりの反響の大きさに驚きましたが、本学の文系学生もDSを学びたいのだ、という確信を得ることができました」と鈴木教授は当時を振り返る。現在の履修者数も、亜大全体の入学定員1505名の約1割に及ぶ。こうした嬉しい誤算を経て、「文系学生もDSニーズは高い」という確信が執行部に生まれた。なお、この副専攻は2022年夏にMDASH応用基礎レベルに採択されている(図1)。オープンキャンパス等で副専攻について説明しても、保護者を含めた反応は上々だという。


図1 データサイエンス副専攻の概観
図1 データサイエンス副専攻の概観


 こうしたニーズの背景には何があるのか。履修希望者には、「自分でアプリを開発したい」「あのゲームの改修がしたい」といった、等身大の目的意識を持つ学生が多い。また、「本学のキャンパスで学生認証アプリがあれば非接触かつ合理的にキャンパス生活を送れるのではないかといったように、発想が豊かで自分なりの目的意識がある学生が多い」と鈴木教授は話す。こうした事実は、学科設置の追い風になったという。

 2つ目の理由は、産業界から経営学部に対し、DS人材育成ニーズが多く寄せられていることだ。「社内の蓄積データを会社の論理の中で整備・分析できる人材が欲しい、あるいは外注する際にコーディネート・マネジメントできる人材が欲しいといった声がとても多いです」(鈴木教授)。

 こうした社会ニーズと学生の反響を踏まえ、新学科設置の議論が始まった。前述したMDASHリテラシーレベル採択からわずか4カ月で経営決定がなされ、設置準備に入ったという。このスピード感からして、大学として相応の危機意識や実行推進力によって突き動かされてきたプロジェクトと言えるかもしれない。

 「現在多くあるDS系の学部学科は理系学問がベースのところが多い。しかし、国は文系のDS人材を増やすことを掲げている。でもそれは大変なので、多くの文系私大はこうした取り組みを避ける。他大がやっていないことだからこそ、取り組むことに価値がある、と捉えたのもあります」と鈴木教授は補足する。

経営学を基盤とするDX人材の育成カリキュラムを、目的意識を軸に展開

 新学科では、経営学とDS・AIの知識とスキルを身につけ、社会課題の発見・解決に貢献できる人材を育成する。具体的には、数字やデータを収集して分析する力、それらをもとに商品を開発しビジネスにつなげる力、マーケットの先を予測してサービスを創造する力といったスキルセットの修得が必要だ。カリキュラムの特徴は以下3つに集約される。

  • 経営学を基盤とするDX人材を育成:デジタル技術でビジネスの課題を解決する方向性。技術理解のみならず、技術で創出した仕組みを社会に実装するためのコミュニケーションスキル、経営や組織の論理への理解等を学ぶ。
  • 知識と実践を往来できるカリキュラム:日々更新されるDSやAIの知識を修得しながら、アプリ開発等、知識を形にして社会にリリースする実践力を鍛える。
  • 世界を舞台に活躍する専門性と英語力を涵養:DSの基盤となるプログラミング言語を理解するには、世界の共通言語である英語が必要となるため、ビジネスや世界のトピックスを題材に英語で討論・発表する演習授業を通して、グローバルに活躍できる専門性と語学力を身につける。

 学生は自分なりの課題意識のもと、これらを組み合わせて自分の学びを構築することになる。個別化された学びを促進して「とんがった学生を育てたい」(鈴木教授)というのが学科の基本方針だ。そのため、例えば英語の場合は「受験のための英語ではなく、学問における実用英語を早い段階で提示し、マッチアップしてもらえるようにアプローチする」といったように、将来と現在の自分のギャップをあえて認識させ、その中で自分は何をしたいのかを模索させたうえで、そのギャップを埋める教育を学科で行う。目的意識を持ったうえで学ぶトレーニングスタンスだ。関連して、2年次後期では外部のトップマネジメント講義として、DS領域のベンチャーや大企業のトップを招いて起業や企業経営に関する講演をしてもらうことも計画しているという。

 3・4年次では卒業研究をはじめ、企業と協働する授業が多くなる。学内ではインプット、学外連携では業種を問わず、そのアウトプットや利活用について学んでいく。なかでも注目は、ゲームエンジン”Unity”を提供するユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社との連携である。既に亜大ではキャンパスのメタバース化等について連携が行われており、学生×教員×Unity社員という躯体でデジタルコンテンツを開発するといった取り組みも展開している。学生のアイデアを企業の仕組みで実現する躯体を増やすことで、「モーションセンサーを使って短いアニメーション映画を撮ってみようか、それなら画像プログラミングにも力を入れたい、アニメーションの有名企業等ともコラボできないか等、夢が膨らみます。一方、データを分析することを主軸に置きたい学生に対しては、金融関連の会社と高齢者向けの自己資産形成モデル構築をやってみたり。がちがちの勉強から入るより、アウトプットのイメージから入っていくと学生は盛り上がる。そこに自分が関われるなら頑張りたい、という学修意欲向上につながる」と鈴木教授は話す。学生が興味関心を持てるようなきっかけを大学側で多く提供し、そこで生まれた興味やキャリア志向に即したDSの学びを提供できるように、学内外の連携を厚くする。将来的には、「学外のみならず、他の学部が持つコンテンツとも掛け合わせて様々な教育を作っていきたい。それが、学生の多様な進路にもつながると思います」と鈴木教授は述べる。

 また、学生が自分で履修を組むためのガイドとして、学生のニーズや専任教員の研究分野を踏まえ、3つの方向性も例示している(図2)。

  • 経営力を磨く:ビジネス志向科目群
  • 分析力を磨く:データサイエンティスト志向科目群
  • 創造力を磨く:クリエイター志向科目群

図2 データサイエンス学科の履修概観
図2 データサイエンス学科の履修概観


目的意識の涵養と合わせて数的素養は入学後にトレーニングする

 こうした目的意識涵養に力点を置いた教育展開によって、「数学が得意ではないからデータ系の進路は無理だろう」と入口で諦めてしまう学生のマインドを、「数学が得意ではないがこれはやってみたい」とスイッチすることができそうだ。その一方で、改めて学問内容を鑑みるに、数的素養の必要性はどのように担保する予定なのか。

 この問いについて、「もちろん数的素養は必須です。ある程度入学前にリメディアルの必要性は伝えたうえで、入学後にベースメントは整備していきたい」と鈴木教授は話す。具体的には、高校の数学基礎レベルのテストによって「数的思考力」と「一定の計算力」を問い、レベル別クラス構成で鍛えていくことを想定しているという。入試で数学を課して担保するのではなく、入学後の教育でスキルセットとして磨いていく思想だ。これについては、「数的素養が欠けているために未来を自由に選べない事態は避けたい。しかし、入試の時に数学ができないから切り捨てるのでは文系のDS教育は進みません。将来の活躍イメージを軸に、文系も理系も協調できる状態を作る必要がある。それこそ、経営学部の中にDSを創る意義とも言えます」。文系はビジネスについての専門性や理解はあるが、技術的なスキルセットがない。理系は後者があるが前者がない。こうした産業界の現在の課題に対し、文系でも技術的スキルセットを持ちながら、ビジネスの専門性も併せ持つようにしたい。だから、数的素養は後からきちんと修得できるカリキュラムになっているのだ。初志貫徹の設計ポリシーである。

多様性の中で協働できるスタンスを重視

 具体的にどんな学生に入学してほしいのかを聞くと、鈴木教授は「多様性を前向きに捉え、異質との相違を楽しみ、協働できること」を挙げた。「頭でっかちではなく、企業の中で、社会の中できちんと働いていける人を輩出していきたい。社会では個人作業よりも他者と協働する行為が圧倒的に多いので、そこへの適性は欲しいところです」。特に推薦系入試ではこうした素養を面接によって丁寧に見ていくという。「全員がそうでなくても、それこそ多様な学生が揃えば、学科内でも大学内でも相互作用や相互影響で面白い文化が形成されていくのでは」と鈴木教授は期待を寄せる。新学科がもたらす波及効果が楽しみである。


カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2022/10/25)

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