国際通用性を軸に「学び方を文化にする」大学創り/名古屋商科大学 経営管理課程

名古屋商科大学キャンパス


POINT
  • フロンティアスピリットを備えた創造的で倫理感あるリーダーの育成を掲げ、1953年に開学
  • 現在商学部、経営学部、経済学部、国際学部、経営管理課程の4学部1課程を擁する
  • MBA教育を大学教育の主軸とし、2000年以降の継続的な国際認証取得で知られる
  • 2022年に学部等連係課程として、商学部・経営学部・経済学部による経営管理課程(BBA)を設置した

 名古屋商科大学(以下、名商大)は2022年、学部版MBAと称される「経営管理課程」を設置した。その趣旨や背景について、栗本博行学長にお話を伺った。

国際通用性に基づく大学経営で、外来学問の教育研究を極める

名古屋商科大学 栗本博行学長

 まず、「本学は学位の国際通用性を意識した大学改革を行ってきました」と栗本学長は述べる。「例えば学位ひとつとっても、日本は本来の学問領域から乖離した学位が乱立しており、国際的に通用しづらい状態になっている。こうした状況に対して、本学では国際標準に合致した大学創りを進めてきました」。その1つが、MBA教育の国際認証取得である。

 名商大ビジネススクールはAACSB(米国)、AMBA(英国)、EQUIS(欧州)の3つの国際認証を全て獲得した国内初のトリプルクラウン校である。その本旨を栗本学長は次のように説明する。「経営学は米国由来の輸入学問です。教育コンテンツが外来である以上、その原理原則は国際性を意識せざるを得ません。また、国際標準の教育を展開していると分かれば留学生や社会人に選ばれる理由にもなる。現在、本学の学生の属性は留学生や社会人を含め多様です。教育コンテンツのあるべき姿と、授業に参加する学生の多様性や国際性を踏まえた大学創りを行っています」。

 こうした状況を背景に2022年に開設したのが、学部版MBAとも称される「BBA」(Bachelor of Business Administration)、本稿のテーマである「経営管理課程」だ。背景には2016年から商学部と経営学部で連携履修モデルを提供してきた経緯がある。そこでは日本語版BBAのみならず、全てが英語履修のグローバルBBAも展開し、64カ国もの学生を受け入れてきた。こうした実績に経済学部が加わり、学部等連係課程制度を利用して学部相当組織とされたのが、経営管理課程である(図1)。

図1 BBAの概観
図1 BBAの概観

 なお、名商大では教育組織を以下のように、BBA、BSc、BAと分類している。

  • 経営管理課程=BBA
  • 商学部=BSc in Commerce /経営学部=BSc in Management/経済学部=BSc in Economics
  • 国際学部=BA in International Studies

 BBAとBScの共通点は学修対象が社会(経済学)、会社(経営学)、実務(商学)といった「社会現象」であること。そして大きく異なるのがそのアプローチの仕方だ。BBAは後述するケースを使った討論型授業を主軸にした実践的アプローチ、BScは教科書とケースとを組み合わせた理論的アプローチを主とする。また、授業の半数以上は実務経験豊富な教員が担当し、教員の8割近くが博士号を取得した研究者という、実践と理論のバランスの取れた教育を信条としている。

学部版MBAで提供されるケースメソッド主軸の学び

 では、経営管理課程の内容を見ていこう。長年培ったMBA教育を学部教育で展開するのがBBAであり、最大の特徴は「MBA式で成長する」というコンセプトそのものであろう。

 経営管理課程の育成人材として掲げる「フロンティア人材」は、次世代のリーダー人材となり得るアントレプレナーを指すと栗本学長は言う。「本学の建学の精神である開拓者精神を持つ人材とは、誰かを真似するのではなく、誰もやっていない領域に挑戦する人材です。社会に新たな価値を提供する人材とも言えます」。

 そうした人材を生み出す教育として、MBA教育ではよく知られる「ケースメソッド」を主軸に置く。企業の意思決定課題を教材とした討論型授業で、課題解決に向かう様々な思考を訓練する手法だ。「各ケースの主人公の置かれた複雑な状況を主体的に考察し、ケースと自分との関係性の意味づけを繰り返し内省することで、リーダーとしての資質を育む探究型学修を実現できます」と栗本学長は言う。どういうことか。

 名商大では、アクティブラーニングの実践法の1つとしてこのケースメソッドを位置づけ、「正解がない議論を通じて思考力・判断力・表現力を高める」ことに主眼を置く。一方的な講義で知識を詰め込むのではなく、授業に参加する学生が主役となり、学生同士の議論を活発化し、一人では気づかなかった視点や考え方に刺激を受け、多様な観点から状況を推察することを繰り返す。こうしたトレーニングを経て、チームで意思決定するプロセスや、他者との協働、建設的な議論設計を学んでいくのだ。栗本学長は、「分かりやすい授業ではなく、考えさせる授業に変革していく動き」とまとめる。

 また、「学修定着率の高さもケースメソッドの有効性を示している」と栗本学長は補足する(図2)。「経営管理課程はゴールではなく、大学教育全体の質向上のための仕掛けです」との言葉通り、名商大では経営管理課程以外でも全授業でケースメソッドを導入した。「ケースメソッドは日本人のメンタリティには合わないとか、社会人経験者でないと難しいと言われたこともありますが、決してそんなことはない。オープンキャンパスの模擬授業でやってみると高校生に大変好評です。海外に目を向けると、国際認証校ではケースを扱う授業はむしろ普通。国内の前例主義に軸足を置いてしまうと、できない理屈ばかりに縛られてしまいます」。

図2 ラーニングピラミッド
図2 ラーニングピラミッド

確かな実力が身につく欧米由来の教育手法

 名商大がケースメソッドを重視する理由のもう1つに、前述した商学部・経営学部連携課程の順調な就職状況もある。「本学卒業生の就職に関する最近の傾向が2点あります。まず、コンサル系企業の多さ。新卒でコンサルファームに就職できる人はそう多くはありません。そして学生が、CM等でよく目にするB to Cの企業よりも、市場規模の大きなB to Bの優良企業を選ぶ傾向があることです。ケースを全学的に使うため、教材として扱われる多様な企業について幅広く学ぶことに起因するものでしょう。こうした高い学修成果と出口成果があるからこそ、連携課程で培った教育手法のノウハウを他学部にも展開し、同時にその実績を制度で担保する経営管理課程を作ったのです」。

 経営管理課程の構想は10年前からあったというが、「大学として、まずMBAの教育品質を高めることに専念していました」と栗本学長は述べる。まずはビジネススクールとしての根幹を創り上げ、それを学部へ展開(連携課程)し、そこから他領域でもケースメソッドを展開する、という段階的な大学創りのプロセスがあったのである。国際認証を通じた国際標準のMBAが根幹にあるからこそ、それ由来の高い水準のカルチャーを大学に根づかせる経緯だったとも言えるのかもしれない。

ビジネススクールさながらの討論型授業

 経営管理課程は単なる経営学部とは異なり、広範なマネジメント領域に関する実践的な意思決定やコミュニケーション能力をケースやプロジェクトを通じて修得するため、実践的なマネジメント教育を行うビジネススクールの色彩が強くなる。100%ケースメソッドで設計された授業では、ケース予習→グループ討議→クラス討議という学修サイクルが日常的に循環し、学生は常に学びに対する集中力や緊張感を切らさずトレーニングする。カリキュラムとしては、経営管理に求められる実践的な9分野(ファイナンス、情報技術、アカウンティング、企業倫理、マーケティング、組織行動、マネジメント、フィールド、教養科目)を体系的に学ぶように編成されており、その全てが座学ではなく討論型授業だ。「思考力、判断力、表現力、リーダーシップ。経営管理には多岐にわたる能力や高い視座が求められます。経営管理課程ではこれらの能力や視点を予習・グループ討議・クラス討議の3ステップを繰り返すことで培います」(栗本学長)。思考停止を許さない授業設計である。最終的には卒業課題(ケースライティング)として、2年かけて特定の企業の経営課題を見出し、その分析・研究、解決策の提示を行う。

授業スタイルへの適性を入試の選考プロセスで見極める

 では、こうした教育を受けるために必要な入学時点の資質能力をどう考えているのか。

 経営管理課程では一般選抜でも面接を課すが、その理由を「本学の学修スタイルに適応できるかを、発想力や貢献姿勢、意欲等を評価するなかで問いたい」と栗本学長は述べる。面接では、「今までどのようなことに挑戦し、何を学び取ってきたのか」「討論型授業への意欲があるか」等を見極めるという。

 選考プロセスの中でも重視しているのが「課題エッセイ」だ。これは面接のための資料であり、適性を見るために必須の材料だという。「経営にはこうすればよいという魔法の解はありません。ただ、教育手法や体系的な学問領域はある。入学希望者には、答えがない問いに挑戦する力を期待したい。また、本人が入試時点で持っている『思考力』『判断力』『表現力』を知りたい。だから、問われて初めて考えるような課題を課し、それについての思考をアウトプットさせる。他者と切磋琢磨しながら学ぶ本学の学修スタイルにとって、思考力と、思考した内容を言語化して相手に伝達できる力は最重要。その片鱗を持つ人材を選抜したいのです」。ケースメソッドではしっかり予習してくることと、他者との議論の場での瞬発力も問われる。また、定期試験のスコアよりも、授業への貢献度が重視される。このあたりの考え方も、ビジネススクールに由来するところであろう。クラスサイズも下手に大きくはできないのではないか。

 国際標準の教育を提供する大学であり続けることで、グローバルアドミッションが循環し、多様性の中で学ぶのが当たり前になっていく。こうした唯一無二の環境で、思考力と表現力を絶対視する教育トレーニングを積み、実践と理論を併せ持つ人材が育成、輩出されていく。欧米由来の学問を探究する大学が見据えるのは、あくまで国際標準である。


カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2022/11/10)