学ぶと働くをつなぐ[38]全科目をキャリア教育と位置づけて育む「駿大社会人基礎力」/駿河台大学
伝統の強化と変化を体現する学部改組・新設
埼玉県飯能市に所在する駿河台大学では、全科目を「キャリア教育」と位置づけ、かつ、社会に出るまでに身につけるべき基本的な能力を「駿大社会人基礎力」として明確化している。ディプロマ・ポリシーでも「『駿大社会人基礎力』と専門的知識・技能の活用力を身につけることを目標」としている。
取り組みのきっかけとなったのが、2004年度文部科学省現代GP 採択の「学生参加による〈入間〉活性化プロジェクト」、通称「いるプロ」だ。大森一宏学長は、「飯能市に隣接する入間市と連携して、学生・教職員が地域に出て行ってまちづくりに加わり、地域の人達を先生にして学ぶ経験をした。これが、社会人基礎力を鍛える試みの始まりだったかもしれません」と語る。
5つの力と15の能力要素からなる「駿大社会人基礎力」
2013年度に導入した「駿大社会人基礎力」は、「基礎的な力」「考える力」「行動に移す力」「協働する力」「総合的な力」の5つの力・15の能力要素(それぞれの力に3 要素ずつ)からなる。「全学年で必修のゼミはもちろん、多くの授業でアクティブラーニングを積極的に取り入れています。また、複数のキャリア科目を1年と3年で必修にして、一つひとつの社会人基礎力を養成しています」(大森学長)。
梅村慶嗣学長補佐(キャリアセンター准教授)は「キャリア教育に『全体で』取り組んでいることがポイント」と言う。「全体で」とは、一部の部署・教員だけではなく全学・全教職員、そして全科目を意味する。キャリア教育に大きく「領域的」「機能的」の2つの側面があると見たときに、その両方にしっかり取り組んでいるということでもある。
領域的・機能的なキャリア教育と客観指標による把握
“領域的なキャリア教育”とは、キャリア発達、進路選択、職業的レリバンスなどを学ぶ科目。「キャリア基礎」「キャリア発展」などの講義に、アウトキャンパス・スタディ(校外体験授業)が加わる。「まちプロ」は2004年度現代GPの「いるプロ」の発展版。「森林文化」は2007年度現代GPで始まった、市域の約75%が森林という地元飯能市の活性化に貢献する取り組みだ。「地域インターンシップ」は、飯能信用金庫、飯能市役所をはじめ地元の協力を得て、3年生を中心に例年100人近くが履修している。祭などのイベントやまちづくりなど、社会の「現場」に飛び込み、「まちを教室に、まちの人々を教師」にして実践的に学んでいくという趣旨は共通だ。
「全体」のキャリア教育の学修成果の可視化には、客観指標が得られる外部テストPROGを活用。1年生と3年生が受験し、その結果(スコア)を「駿大社会人基礎力」に読み替えて「駿大成長チャート」というシートにまとめたものを、3年生ゼミでフィードバックして、学生が自己の成長を確認できる仕組みだ。「配りっぱなし・測りっぱなしが一番よくないので、教員がゼミ単位で説明していますが、まだ改善の余地のあるところです」(梅村学長補佐)。
就職先の7割からは「協働する力」が身についている
取り組み定着のキーとなったのが教職の協働だ。3年生の各ゼミをキャリアセンターの職員がキャリアアドバイザーとして1 人ずつ担当し、教員と職員が連携してゼミ生の就職を支援するのが駿河台大学の特色だという。「キャリアセンター任せにせず、教員も実際に学生達の就職を後押しするなかで、キャリア教育というのは狭い就職だけの話ではない、社会人基礎力を身につけさせることが重要だと教員たちも体得していったと思います」(大森学長)。
「駿大社会人基礎力」を掲げて約10年の成果は、例えば卒業生の就職先へのアンケートで、回答者の7割弱から「協働する力」が「身についている」との回答を得た、という形で表れてきた。「『協働する力』は、領域的なキャリア教育だけで伸びるものではなく、機能的なキャリア教育の成果が出たと見ています」(梅村学長補佐)。
「学生支援ガイドブック」を作成して教職員がスキルを磨く
課題の一つは教職員のスキルアップだと大森学長は言う。「特に教員の場合、面談でも自分の伝えたいことばかりしゃべって学生が本当に何を言いたいかを理解できていないこともあると思います」。そこで2020年から教員職員参加の全学研修を実施、そのテキストを兼ねて傾聴などの基本スキル(カウンセリングスキル)と目標支援スキル(コーチングスキル)をまとめた「学生支援ガイドブック」も作成した。このガイドブックには、教職員が自らのスキルの状況を確認するためのICEモデル※に基づくルーブリックも収録しており、教職員のスキルアップへの手厚さと真剣度が表れている。ICEルーブリックに基づく研修計画のほか、ガイドブックに続き、教職員向けのe ラーニングコンテンツも開発中だという。
キャリア教育の今後の展開としては、授業手法などに関する暗黙知をライブラリー化・形式知化して各教員が自由に共有できる「駿大メソッド」の構築がある。大森学長は「各教職員が個人で一生懸命やるだけでなく、成果を上げたものをみんなで情報共有しながら大学として教育力の向上に結びつけていきたい」と力を込める。中期計画にも盛り込まれ、計画期間内(2026年度まで)の完成を教職協働のプロジェクトで目指すという。「アットホームな大学」の教職の一体感が、ここでも伝わってきた。
- ICEモデル…ideas、connections、extensionsを活用したモデル。本連載37、東日本国際大の事例紹介(234号)の中に詳しい
(文/松村直樹 リアセックキャリア総合研究所)