アクティブラーニング推進大学が作る新たな情報学のスキーム/湘南工科大学 情報学部 情報学科

湘南工科大学キャンパス


 湘南工科大学では2023年4月に情報学部を設置する。その趣旨について、工学部長の森井 亨教授、情報学部情報学科の二宮 洋教授(現 工学部情報工学科)、牧 紀子教授(現 工学部コンピュータ応用学科)にお話を伺った。


工学部長 森井亨教授情報学部情報学科 二宮洋教授、牧紀子教授


POINT
  • 1961年に設立された学校法人相模工業学園を母体に、1963年に相模工業大学として開学。1990年より現校名
  • 「社会に貢献する技術者の育成」をミッションに掲げ、学問研究の推進と、社会の規範となる人格形成を行うとともに、さらに、青年らしい夢と理想を科学の場の中に実現することを目標とする
  • 長らく工学部単科体制だったが、2023年度情報学部を設置し、2学部5学科体制に移行する

学問領域の特性に鑑み学び方を分岐する改革

 今回の改革は、工学部 情報工学科・コンピュータ応用学科を統合して新たに学部を作るというものだ。その理由について、森井教授は「学問内容による学びの最適化」を挙げる。「今回情報学部となるのは工学部のなかでも人気が高かった2学科です。工学部では情報系の2学科とモノづくり系の4学科の計6学科を展開していましたが、情報領域は日進月歩の世界で、学び方も柔軟に変えていきたいところ。しかし、工学部の中にあるとそうした自由な動きがとりづらい。そこで、今後の社会情勢等を鑑み、カリキュラムの自由度を担保するために、新たな学部を開設する決断に至りました」。

 また、同大学の第1次中期計画(2020~2024)には、「-湘南から未来へ-湘南で工学を学ぶ、湘南の課題を工学で解決する」を目標に、専門知識・技術とコミュニケーション力等の社会人基礎力を併せ持つ人材を輩出して、「教育に強い」工科系大学としての地位を確立することに注力し、「湘南地域の中心にある」大学として、その存在意義を自ら明確にし、地域への貢献を命題として教育・研究に取り組む、とある。「藤沢市内に大学は4つありますが、工科系は本学だけなので、そういう意味でも自校領域での地域貢献を最大化したい」と森井教授は言う。今回の改革がそのフラッグシップとなることが期待される。

学生の興味関心と協働経験から自分の課題解決テーマを見据える丁寧なステップ

 では、情報学部ではどのような人材育成を行っていくのか。

 「本学は工科系大学なので、情報学部になっても基本的には技術者育成が軸足です。新学部では、知識を積み上げていく従来型の学びだけではなく、実習において課題オリエンテッドで仮説を立て、解決していくプロセスで必要な知識を修得していく帰納的学習方法に重きを置きます」と二宮教授は述べる。課題を設定し、解決のために必要な情報工学の知識を学び、チームビルディングを経て議論や協働、具体的な解決方策を練っていく。また、自ら考え選んでいく主体性、価値創出のメンタリティを身につけることも重視したという。具体的に見ていこう。

 まず1年次は、情報学部で扱うICT10分野を学ぶ「情報学実習」が必修だ。約30名の教員がローテーションで、自分の研究内容を学生に体験させる実習である。その目的について、二宮教授は以下のように述べる。「情報学部ではまず各分野の研究や課題を体験し、その面白さや社会的意義を知り、そこから自分の興味関心がどこにあるかを模索していく。単なるグループワークではなく、自ら学ぶ意思を得ることを重視します。2年次からはそのプロジェクトに入ります」。卒業研究を2年次からやるようなものだという。まず入門、次に応用といったレベル別ではなく、課題解決そのものを柱に教育の仕方を変えていくことで、課題解決に対するトレーニングを積んだ技術者を育成する。目指すのは専門知識に精通するだけではなく、社会の課題を発見し、専門性を活用してそれらを解決する実装力・推進力を持つ人材だ。そのため、教育においては専門性の修得と社会・地域の両面を知る必要がある。前者は学部教育で学び、後者は教員の研究テーマに応じて社会や地域に出ていくことで学ぶ。教員の研究の場が学生にとっても教育の場となるのである。「大学で学ぶ以上、自らの専門性を高めるのは当然です。それをどこに活かしていくのか、その先にあるものを見据えた教育をしたい」と牧教授は補足する。

 また、教員は人工知能専攻・情報工学専攻・情報メディア専攻の3専攻に分かれるが、各プロジェクトは横断的に存在し、プロジェクト内では学年や専攻の枠を越えて、「やりたいこと」を起点に集まった学生による協働学習になる。一度プロジェクトに所属したからといって卒業研究をそのテーマで取り組まなければならないわけではなく、方向転換も可能である。「多様な刺激を受け、どんどん模索して、自分にフィットする課題を見つけてほしい」と二宮教授は言う。周りが何をやっているのか分かるように教室や研究室はガラス張りにし、自分の専門以外の世界も見ることができる環境を作る。大学公式Webサイトではこうした学びを「混じり合うことでの学び」と称している。機会に触れ、世界を拡げ、自ら選び、他者と協働して学ぶというスタンスは、「主体的・対話的で深い学び」とも言い換えられるだろう。協働経験を豊富に積んだのち、4年次の卒業研究や進路につなげ、自分オリジナルの学びを追究していくという流れだ。


図1 ICT10分野
図1 ICT10分野


図2 プロジェクトテーマ例
図2 プロジェクトテーマ例


全学で推進するアクティブラーニング(AL)のフラッグシップとなる情報学部

 丁寧なステップの作り方や協働に力点を置くカリキュラム設計にも表れているが、同大学は従前よりALに力を入れている大学である。その中核を担うのが、1・2年次全学必修科目である「共通基盤ワークショップ(WS)」だ。1年次前・後期に開講する「共通基盤WS 1A・1B」は、テーマごとに35名程度のクラスでグループワークを行う。必要な情報を集める→課題を見つける→対応を考える→結果をプレゼンする という流れを協働で実践し、クラス全体共有で新たな課題を見つけるというサイクルを繰り返し行う。提示されたテーマから「学び方を学ぶ」授業だ。学科横断的に取り組むため、入学直後の友達作りにも一役買うという。テーマは「スポーツを創造しよう」「エネルギー問題について考える」「豊かさとは何だろう?」等、答えが1つではないものばかりだ。

 2年次前・後学期に開講する『共通基盤WS 2A・2B」は、約20のプロジェクトテーマを展開する。25名前後でのPBL(課題解決型実習)で企業連携も含み、「学びと社会の関係」を考えることを目的とする授業だ。目標達成には何が必要かを考え、課題解決の提案やアイデアの具現化としてのプロトタイプ製作等にも取り組む。

 こうしたグループワークやプレゼンテーション等の協働・発表型授業を積み重ねていくことにより、専門的知識・技術の定着と活用力を育み、自ら学び成長する自律型人材を涵養する。ほかにも、今注目されている先端技術分野について学科横断で学ぶ「横断型学修プログラム」等、いかに社会課題に学生を触れさせ、他者と協働させるかに大学としての重点を置いている。

 こうした取り組みの狙いについて、森井教授は「コミュニケーション能力のある技術者育成のため」と述べる。「本学は実践的で創造的な能力を備えた人間性豊かな技術者を育成することを目的とする大学です。2013年度には『社会に貢献する技術者の育成』をミッションに、専門知識や技術に加えて社会人基礎力を伸ばす教育を特色とする方針と、その方法論としてAL教育の強化を決めました」。ここで言う「社会人基礎力」とは、コミュニケーション力やプレゼンテーション力といった協働から生まれる多様な能力を指す。専門性を専門学科で身につけるだけでは社会で活躍できる技術者にはなり得ず、そこも含めた教育設計をすることが大学の特色と言える状態を作ってきた。「学生に高い社会人基礎力をつけてもらうには、教員がアクティブラーナー、ファシリテーターになる必要がある。そのための研修会も数多く実施してきました。共通基盤WSは全学挙げて取り組むAL教育の導入として、2017年から開始しました。学生が社会で活躍するための、キャリア教育の一環でもあります」。

 情報学部はこうしたAL教育を専門教育で仕組み化した学部とも言えそうである。

情報系の高い注目をフックに大学全体の認知度向上を狙う

 新学部のこうした教育設計については高校からも概ね好評だという。「大学入学後について、そこまで明確に目的志向があるわけではない生徒も多いなか、まず関連ICT10分野を体験できるのは好ましいようです」と二宮教授は言う。オープンキャンパスではVRやゲーム等、高校生が取り組みやすい技術体験のブースに人が多く集まるという。従前よりも多くの女子生徒の注目を集めている手ごたえもあるようだ。

 一方で、令和3年度自己点検評価報告書には、「工学部の各学科に関連する産業においてもICTの活用が進んでおり…中略…このような社会ニーズに対応するためのカリキュラムの検討や、その先としての学科の再編が必要と考えられる」とある。また、工学部で人気の高い2学科が抜けることによる工学部の募集力も課題と言えそうだ。しかし、「情報系が人気なのでそこをアピールポイントにしながら大学の認知度を高め、情報学部をフックに工学部を見てもらい、学内併願率を高める等、改革推進力として捉えていきたい」と森井教授は前向きだ。「本学は小規模校で小回りが利くため、様々な課題にも柔軟に対応していきたいです」と牧教授も述べる。まずは新学部を無事スタートさせることが第一だが、工学部を含めた全学の今後の教育改革にも期待が高まる。


カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2023/1/10)