「課題研究」と「面談」で思いを引き出し 「商業ならではの専門的な学び」も深める/兵庫県立神戸商業高等学校

【学校DATA】創立1878年/普通科/生徒数263名(男子108名、女子155名)/
進路状況(2022年3月実績)大学113名、短大12名、専門学校 55名、就職76名、その他7名

キャリアセンター長 武貞氏

専門性を磨いた強みを、総合型選抜でも発揮

 兵庫県立神戸商業高等学校は、商業科、情報科、会計科の3つからなる商業高校だ。卒業後の進路は、進学が約6割、就職が約4割。生徒の多くは「中学校まであまり勉強に自信を持てなかった」という感覚があるそうで、当初は勉強面の自己評価は低い。このため、1年生の頃は卒業後の進路に就職あるいは専門学校を思い描き、大学進学は視野に入れていないことも珍しくない。

 しかし、同校で専門的な勉強や、課題研究に取り組むと、勉強への自信も芽生え、より深く学びたいことを見つけ、大学進学を考える生徒が増加する。そして高校3年間で「実社会で役立つ専門知識やスキルを身につけた」ことを武器に、以前より学校推薦入試やAO入試で結果を出しており、進学全体の約65%が4年制大学となっている。こうした学びは、総合型選抜でも強みを発揮し、現在、大学進学者の約4割が総合型選抜の合格者となっている。

実践的な学びを教員と対話しながら振り返る

 同校では、探究活動に当たる「課題研究」にかねてより生徒が取り組んできた。商業科であれば、地域活性化や新商品のアイデアを構想・実践し、情報科であれば、プログラミングの日常やビジネスへの応用に挑み、会計科であれば、簿記や財務会計を暮らしや経営に役立てることを模索する、といった内容である。地域住民や商店街との連携にも積極的で、課題研究の成果発表の場として校外イベントを定期的に行っている。

 実践的に学ぶ生徒が、自分に合った進路を見つけられるように教員が後押しするが、軸となるのがキャリアセンターだ。8名の教員で構成され、進学・就職情報の収集や分析、提供を行う。キャリアセンター長の武貞朱美氏は、同組織の設立の経緯をこのように語る。

 「前任の校長がまさに大学のキャリアセンターをイメージして設立しました。偏差値的な学力で生徒の進路を指導するのではなく、個々の生徒の持つ原石を掘り起こすことから始めよう、と。生徒がどのような体験から何に気づき、どんなことをやりたくなったかを聴き出し、大学側のアドミッションポリシーなど方針も確認し、互いの思いがマッチしていて学びを深められるような進路につなげることを目指しています」

 また、30~40の主要の大学については、一つの大学につき3名前後の「担当者」を教員間で手分けして割り振っている。そのうえで、2年生の3学期から、担任の教員、キャリアセンターの教員、大学担当者の教員が協力して、それぞれの生徒に対して、進路を見据えた個人面談を行い、志望理由書作成の相談にも乗っていく。受験を終えるまでに、1人の生徒が合計で20回ほど面談をすることもざらだという。


画像1 課題研究の様子


目標を持って学んだ生徒がより飛躍できるように

 武貞氏が実感しているのが、生徒達の伸びしろの大きさだ。商業の学びにはまると、学校の活動を超えて商店街や地域のボランティアに参加したり、外部のビジネスコンテストに挑んだり、簿記や情報処理の資格取得に本気になったりする。内面の成長では、進路を考えるなかで目標が定まると「一気に伸びる」そうだ。こうした生徒達は総合型選抜とも相性が良く、「基礎学力に加えて、人としての成長や思いも評価してもらえる入試が広がるのはうれしい」と捉えている。

 「個人面談を繰り返し、総合型選抜や学校推薦型選抜のために志望理由書を何度も書き直していくと、何をやりたいのか本人のなかで目標が定まってきます。そうなると、私たちが驚くほど、文章も書けるようになるし、プレゼンテーションもできるようになるのです」(武貞氏)

 だが安穏ともしていられないという。どの高校でも探究活動が始まり、自分の学びを深めた生徒が増えた。その点では競うレベルが高まってきているからだ。

 「総合型選抜では、学んだことを実社会でどう生かしたいかまで問われることが増えました。1年生の『ビジネス基礎』の授業で生徒が自ら社会課題について調べるなど、社会にも広く目を向けるよう促しています」(武貞氏)

 進学後の大学のカリキュラムに期待することもある。

 「総合型選抜で進学した子には、高校時代から目標を持って専門性を磨いた『とんがった人材』が多いかと思います。例えば本校には将来ビジネスの実務に生かそうと、在籍時に日商簿記1級に合格する者もいます。そうした子が、大学進学後にしばらくは初歩的なことしか学べず、モチベーションを下げてしまったことがありました。高校生の時から専門性を深めてきた子が、大学進学後も継続してそのスキルや意欲を伸ばしていける。そうした土壌が今以上にゆたかになっていくとありがたいなと思っています」(武貞氏)


画像1 ワークショップやプレゼンの様子




(文/松井大助)


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「課題研究」と「面談」で思いを引き出し 「商業ならではの専門的な学び」も深める/兵庫県立神戸商業高等学校