文・理・芸の融合する総合大学への進化/大阪成蹊大学 データサイエンス学部

大阪成蹊大学キャンパス


大阪成蹊大学は2023年にデータサイエンス学部を設置する。その趣旨について、副学長(23年4月より学長)で学部設置準備室室長の中村佳正教授、経営企画課長・教学改革FSD会議事務局長の河村泰文氏にお話を伺った。


大阪成蹊大学 副学長 中村佳正教授、経営企画課長・教学改革FSD会議事務局長 河村泰文氏


POINT
  • 1933年創設の高等成蹊女学校を起源とし、2022年現在、経営学部、芸術学部、教育学部、国際観光学部の4学部で教育を展開する大学
  • 学園創立90周年となる2023年に駅前新キャンパスを整備し看護学部とデータサイエンス学部を設置
  • データサイエンス学部では座学と演習のスパイラルで「データを価値に変えるスペシャリスト」を育成する

総合大学化のメルクマール

 大阪成蹊学園は2023年で創立90周年を迎える。その記念事業として、2022年に国際観光学部、2023年に看護学部とデータサイエンス学部を開設する。現在の4学部体制から、文・理・芸の融合する6学部の総合大学への進化である。さらに、研究科や新学部等の開設も計画している。

 中村副学長は、「本学が目指すのは、総合大学化による大学の教育研究力強化と、社会に信頼され選ばれる大学づくりによる経営の中長期的安定です。また、今後の社会を見据えた時、現状の学部展開のままではできることは限られてしまう。2つの理系・医療系学部を設置することで、人文科学・社会科学に自然科学を加えた陣容となり、大学としてのスケールアップのみならず、既存学部の教育研究活動の活性化にもつながるのではないかと考えています」とその狙いを述べる。

 それにしても、ここまで立て続けに学部を設置する計画が可能なのはなぜか。その問いに、「人口動態からすれば、この数年が最後のチャンスです。ここで総合大学化を果たして教育研究力と経営力を強化していかないといけない。ここをやりきれば未来は開けるが、ここで何もしなければ停滞してしまうという危機意識が強い」と中村副学長は話す。経営層の強い危機感に裏打ちされた改革の連続性。それを可能とするもう一つの要素が、これまで進めてきた改革の成果が出つつあることだと河村氏は言う。「本学は近年、様々な学部改組や質保証に係る全学改革を進めてきました。アセスメントテスト等では特にここ数年、学生が成長実感を伴いながら大きく成長していることを示す結果が出ています。企業からも評価頂き、毎年高い就職内定率が出ていますし、志願者も10年で約11倍となり、多くの高校生から支持を頂きつつある。こうした状況を踏まえて、次の段階へと進む決断に至っています」。

総合知の核として、価値創出の拠点としてのデータサイエンス

 では、なぜデータサイエンス(DS)なのか。その理由について、河村氏は昨今の文科省の答申等で見られるSTEAM教育、文理融合等、諸科学の総合知を生み出すことがこれからの高等教育の使命・テーマになっている点を挙げ、「社会ニーズが極めて高い分野としてDSを選びました。この学部が本学の『文・理・芸』の交差する『総合知』の核となる学部になることを期待しています」としたうえで、「西日本は東日本に比べて高等教育でDSを展開する私学が少ない。東日本でDSを展開する大学は、企業等と活発に連携して新たな学びや社会課題解決スキームを展開し、多くの学生が意欲的に学び活躍している。そうした大学への視察を経て、既存学部とは異なる価値創出のメンタリティのポテンシャルを見込み、西日本でも需要喚起していきたいという思いが大学全体として強くあります」と述べる。「理系のなかでも情報系は人気があり安定したマーケットですが、既存の情報系学部ではなく、その先にあるものを作りたい」と中村副学長も補足する。

建学の精神に基づくアクティブラーニング(AL)の全学推進

 また、DSを選ぶ理由として、大阪成蹊が推進してきたALとの親和性の高さもありそうだ。大阪成蹊学園の建学の精神は中国の故事である「桃李不言下自成蹊」。「桃や李は何も言わないが、その花や果実を求めて人が集い、その樹の下には自然と道ができる」の意で、桃李に例えられる「優れた人格者」のもとには自然と人が集うことから、人間力の醸成を重視した教育を展開している。人間力の基盤となる要素を「リテラシー」「コンピテンシー」「ディグニティ(尊厳・品位)」の3要素と定め、その3つを総合的に育む「大阪成蹊LCD教育プログラム」がそれだ。具体的には以下のように、他者協働・社会接点のなかで人間力・教養を高めていく仕組みを講じている。

  • 初年次教育で世界共通課題であるSDGsや時事問題等を題材に、世界や社会に視野を広げて様々な議論を繰り返し、思考力・表現力・アカデミックスキルを高める授業を展開
  • 2年次の全学PBL科目をはじめ、様々な科目でソーシャルタッチポイント(社会との接点)を充実し、プロジェクトベースで課題解決する授業を展開
  • 各学科・コースの専門性に応じた産官学連携により学外連携を充実
  • 全ての授業で教員と学生、学生同士のやり取りを重視し、学生が能動的に学ぶALを重視

座学と演習のスパイラルと幅広い支援体制で、専門性と実践力を併せ持つデータサイエンス人材を育成する

 新学部の育成人材像は、「DSによる課題解決や課題探索により未来の社会づくりに貢献するDS人材」である。中村副学長は、「本学はデータを価値に変えるスペシャリストを育成したい。現状、あらゆる業界でそうした人材が不足している。そのため、多様な進路を想定したカリキュラムを組んでいます」と話す。カリキュラムでは基礎から応用に至るDSの専門性を体系的に身につけたうえで、データエンジニア、データビジネスパーソン、データサイエンティストになるための履修モデルを設計している。高等学校教諭一種免許状(情報)も課程認定もされており、教職を目指すことも可能だ。大学院の開設も構想し、研究者養成も視野に入れる。


図1 カリキュラム概観
図1 カリキュラム概観


 カリキュラムは、講義で学び、その内容を演習で検証し、さらなる知識習得のため講義で学ぶという循環を起こすよう設計されている。また、特徴的な科目として、1年次から始まるプロジェクト演習科目である「未来クリエーションプロジェクト」(図2)がある。専門の異なる教員によるリレーローテーション形式で多様な学びを提供するものだ。中村副学長は、「情報系の学びなら通常座学が中心になりますが、DSには課題解決や価値創出のスキームが必要であり、座学と実習・演習の組み合せがポイントになります。本学では座学と演習をスパイラル状に組み合せることで、学んだことを実際に使ってみる機会を豊富に揃え、それを4年間積み重ねることで、頭も手も足も動かせる人材を育成します」と話す。その柱となるのが未来クリエーションプロジェクトというわけだ。

 初年次はドローンや自走ロボットの運行、グループでのプログラミングなどを通じて、DSへの興味を喚起して、次の学びへの動機づけに力点を置く。以降は専門知識を積み重ねながら、DS活用の様々な先進事例を体験し、視座を上げ視界を拡げていく。最終的には自らAIデザインやアプリ開発までを担うことができるまでになる。段階的かつ体系的にDS人材へのロードマップが示されている。また、専任教員の平均年齢は48歳、京阪神の研究大学で学位取得した専任教員17名を揃え、1学年当たりのST比は学生1人当たり教員4.7人と手厚いことも特筆すべき体制と言えるだろう。


図2 未来クリエーションプロジェクト概要
図2 未来クリエーションプロジェクト概要


 もう1つ特徴的な仕組みとして、「Co-Labo(コラボ)」がある(図3)。これは、教員の研究室に隣接する学生の共同研究室のことだ。「他者と協働して価値を生み出す拠点として、教員と学生が隣り合う“共創型”の研究室Co-Laboを設置する予定です」(河村氏)。もともと大阪成蹊は学生と教員との距離の近さが魅力の一つであり、それを新学部の研究フロアの設計に落とし込んだものである。「教員の近くで勉強するとその場で分からないことが聞けたり、今後の進路や悩みを相談できたりと、メンタリングも兼ねることができる。本学でもともとあるこうした文化・風土を、新学部ではとても重要視しています」(中村副学長)。Co-LaboのCoは“Communication”“Collaboration”“Commons”の3つを意味するという。


図3 Co-Labo
図3 Co-Labo


 今回の改革では、同時設置となる看護学部と合わせて、阪急相川駅前に新キャンパスを開設予定だ。2023年3月完成予定の校舎では、高い通信負荷にも耐えられるデータサーバー、日本の教育機関で初となるAI開発ソフトウエア、アイトラッカーやスマートウォッチ等の機器、研究室ごとの要望に応じたスペックの機材を整備したという。こうした投資からも、大学の本気度合いがうかがえる。

全学共通教育やリカレント教育へつながる教育改革

 新学部に対する高校・高校生の反響を伺った。中村副学長は「オープンキャンパス来場者のリピート率が高く、見に来てくれた人に興味を持ってもらえている」と手ごたえを感じている一方で、「本学にデータサイエンス学部ができるというニュース自体の認知はまだまだ低い」と話す。理系志望の高校生だけでなく、文系の受験生にも周知を図っていきたいという。今後の取り組みとして、河村氏は、「高校生の皆さんにDSの学びを体験してもらう機会をどんどん増やしていきたい。本学の学びに触れれば、4年間ここで学んでみたいと思ってもらえる自信はあります」と述べる。来年からは高校生対象のDSセミナーの開催や高校との連携等も強化していきたいという。

 また、大阪市内で初めてとなるデータサイエンス学部への企業や自治体等からの期待値は高く、共同研究等のオファーが現在数多く寄せられている。データを用いた課題解決に資する人材育成は社会では急務であり、データサイエンス学部の設置は大いに注目を集めているようだ。学部開設後の動きとして、大学院の設置や社会人リカレント教育の展開も見据える。「オンラインも含めた履修証明プログラム等も考えていきたい」と中村副学長は力をこめる。また、新学部は全学的なデータサイエンス教育の推進の核としても重要な役割を担う。全学共通教育に新たに「AI・データリテラシー」の区分を設け、データサイエンス基礎・実践、統計学基礎・実践の4科目を新たに開講し、初学者にも非常に分かり易い画期的なオンデマンド教材を開発し、全学部の学生に必履修とすることとした。また、「スポーツの分野では、既に異なる学部の教員間での打ち合せを進め、新たなDS共同研究プロジェクトが進みつつあります。ゆくゆくは、学生同士も、学部の垣根を越えた様々なプロジェクトで協働できるようにしていきたいと考えています」と河村氏も話す。

 大学教育バージョンアップのフラッグシップとして、新学部が担う役割は大きい。


カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2023/2/10)