女性人材ニーズが高い情報領域の人材育成/武庫川女子大学 社会情報学部

武庫川女子大学キャンパス


武庫川女子大学(以下、武庫女)は2023年4月に社会情報学部を設置する。その趣旨について、学部長予定者の鯵坂恒夫教授にお話を伺った。


武庫川女子大学社会情報学部長予定者 鯵坂恒夫教授


POINT
  • 1939年創設の武庫川高等女学校を起源とし、2022年4月現在、文学部、教育学部、健康・スポーツ科学部、生活環境学部、食物栄養科学部、建築学部、音楽学部、薬学部、看護学部、経営学部の10学部17学科を展開する女子総合大学
  • 2039年の武庫川学院創立100周年に向けたビジョンを策定し、それに沿った改革を進める
  • 2023年4月、新たに社会情報学部と心理・社会福祉学部、スポーツマネジメント学科(健康・スポーツ科学部)を設置し、12学部19学科となる

創立100周年に向けて女性活躍の場を広げる改革

 学校法人武庫川学院は2019年に創立80周年を迎えた際、100周年を迎える2039年に向けたビジョン『MUKOJO Vision 2019→2039』を策定した。ビジョンでうたう『一生を描ききる女性力を。』は、男性に比べてキャリアや人生の変化が激しい女性が、一生を通じて活躍できるように支援する、その方策の1つとして、女性の人材育成ニーズが高い領域で積極的に人材育成を行っていくというものがあり、今回情報系の改革に踏み切ったのもこうしたビジョンが背景にある。また、ビジョンに基づいて策定された『MUKOJO Principles 2019→2039』では、女性一人ひとりのライフデザインを支える総合大学として、教育・研究・社会貢献・運営の各項目で方針を定めている。

 こうした教育の理念を起点とした設計全体を『MUKOJO ACTION2019→2039』として公表している(図1)。


図1 MUKOJO ACTION 2019→2039 の全体構造
図1 MUKOJO ACTION 2019→2039の全体構造


 『MUKOJO Vision 2019→2039』の具現化のため、今回設置するのは社会情報学部である。学部長予定者の鯵坂教授はもともと和歌山大学システム工学部の所属だ。専門は情報科学やソフトウエア工学だが、「情報は社会のためにあり、情報をいかに社会に役立てるかを扱うのは社会情報学。社会学と情報学は相互交流も多く、極めて自然な融合領域と言えます」と説明する。

 今回の改革は、生活環境学部の中にあった情報メディア学科の改組である。生活環境学の学問領域は家政学、つまり衣食住に関する学問であり、そことリンクした情報メディアを扱ってきたが、「生活領域のみならず、社会全体を包含する内容にバージョンアップしていく必要がありました」と、鯵坂教授は学部化の意図を語る。

既存学科の情報メディアを継承しつつ情報サイエンス領域にも教育を拡大

 では、具体的な内容について、特に既存の情報メディア学科との違いに着目して見ていこう。情報メディア学科は、社会の中で情報を「収集する力」「分析する力」「発信する力」を養うカリキュラムで、特に映像制作環境を充実させていることに特徴があった。衣食住を営む生活者が様々なメディアを通じて世界と直接交流する「表現者」にもなるというわけだ。そのため、多様なメディアを使いこなす方法と生活への洞察力を育成の軸足に据え、表現力につながる発想力を開発するべく、演習やフィールドワークに力を入れてきた。

 これに対し新学部は、対象とする領域が衣食住を含む社会全体に及ぶことに加え、これまでの学びの継承である「情報メディア専攻」と合わせて、新たに「情報サイエンス専攻」を立てている。前者は社会科学の視点でデータを読み解くコミュニケーター育成を掲げ、メディア研究、マーケティング、経営情報、社会調査、表現実習等にその軸足を置く。情報と社会の関わりを追究する専攻で、教員も社会科学系が中心である。一方後者はデータサイエンティスト育成を掲げ、情報科学、情報システム、プログラミング、ウェブデザイン、データサイエンス、AI等、技術から情報へとアプローチする新領域だ。専攻は入試段階で選び、募集定員は情報メディア専攻が140名、情報サイエンス専攻が40名。これは、工学系統の女性比率の低さを踏まえての配分だという。「もともと情報学という領域は工学部に多かったものです。私が所属していた和歌山大学システム工学部でも、デザイン工学系を除く工学系の女性比率は2割に満たない水準でした。国際的に見ても、日本は技術系に女性が極めて少ない。本学で情報系の学部を立てる意図は、そうした『女性が少ない領域に女性人材を輩出していく』というところにも当然あります。一方で、入学時点の定員比率については、ある程度現状を反映させておく必要がありました」と鯵坂教授は説明する。なお、現体制でもメディアとサイエンスに分けて希望をとったところ、定員160名のうちサイエンス希望者は30名であり、こうしたフィジビリティの状況も踏まえた配分だという。

 なお、新学部の学びに数的素養はどの程度必要になるのかを聞くと、「数学が特段得意である必要はないですが、数学アレルギーがあると学ぶ学問領域としては少々困ります」と鯵坂教授は述べる。特に、メディア専攻とサイエンス専攻に共通する素養としてデータサイエンスがあるが、そこでは統計学を始めとする「数値を読み解く」能力が必須となる。一方で、「受験数学でつまずいてしまった人でも、本来の学問の意図を知ったら面白くなる可能性は大いにあるので、そうした人材も育成していきたい」と鯵坂教授は意気込む。学問の応用領域、社会実装の具体を知ることで、それを支える基礎学問への興味関心を喚起できるのではないか。また、「高校卒業段階の文理が分断された成績よりも、大学で学ぶ意思や能力を高める意識がどのくらいあるのかによって教育効果は異なるはず」と補足する。受け身にならず、自分なりの目的意識を携えて入学してくれる学生を求めたいという。

企業連携等の実践と専門性を身につける座学で現場に強い人材を育成

 カリキュラムは両専攻とも、初年次に各分野の基礎を習得し、2年次は演習等を中心に実践的に学び、3年次からは少人数制ゼミにおけるプロジェクトでの学びと、専門性を高める科目の履修、4年次では学びの集大成として卒業研究に取り組むという流れだ。全体としてのポイントは、大学HPに「STYLE」として以下の3点が挙げられている。

STYLE01:多角的な視点を身につける
STYLE02:文理に関係なくICTに関する基礎的な知識と技能を修得
STYLE03:いつでも自分のノートPCで学べる、充実した施設とソフトウエア支援


図2 学びのポイント
図2 学びのポイント


 新学部では学問をクロスさせながら多様な観点を身につけ、実践によってそれを磨き、自分なりの視点を習得する。そのためのステップは基礎から段階的に組まれており、無理なく4年間で専門性と実践力を高めることができるという。「例えばプログラミング技術は理系のアプローチですが、その上流で設計する工程は文系的思考回路や観点整理が必要です。また、学生一人ひとりが興味を持つ対象は異なると思われるため、本学では各分野の基礎をまんべんなく学びつつ、1・2年次は今後の専門性について模索することに使ってもらい、3年次以降の専門性を高める段階に進んでもらいたい」と鯵坂教授は話す。大学からは学生の視野を広げる機会として、企業連携や地域連携を豊富に揃える。「現状でもPBLにおいて企業連携を展開しますが、それをさらに強化したい。幸い、女子・Z世代というアイコンは企業にとってもニーズが高く、連携の希望は多くいただいています。企業の課題に取り組むことで、学生はマーケティングやブランディング等、情報の社会活用を意識し、そうしたダイナミズムの中で学ぶことができます」と鯵坂教授は述べる。特にサイエンス専攻はIT企業とPBLに取り組むケースを増やし、実データを扱えるような連携も考えていきたいという。「演習用に用意されたきれいなデータばかりではなく、データクレンジングが必要な状況でどういう処理が必要になるのかといったリアリティも含めて学んでほしい。統計処理、解析の仕方もデータの性質によって相性があるので、そのあたりの勘どころを掴むには、様々なデータを見て経験を積む必要がある」(鯵坂教授)。

 卒業後の進路として、情報を扱うことができる人材ニーズは業界を問わず高いが、大学として狙うのはデータアナリストやデータサイエンティストといった専門職の領域だ。「女性が少ない領域でのロールモデルを多く輩出したい」と鯵坂教授は言う。

人材ニーズの高い領域で女性活躍人材を育成する意義

 高校や高校生からの反響については、「文理分断された進路領域で、女子が少ない領域の改革を正しく理解してもらうのはハードルがまだまだ高いというのが本音です。今後、高大連携等も増やして、啓蒙も含めた活動を展開していきたい」という。進路指導において、経済や工学といった応用領域の理解はあまり進んでいないのが実態であり、それに対して受験生はキャパシティの大きい学問に進学していく。どうしても、自分の志向と学問の実態がすり合わないまま進学してしまう傾向はあるという。そうした状況に対して、「大学としても志望学問の検討に足る情報提供や機会提供を行っていきたい」と鯵坂教授は言う。

 「社会課題としてデジタル方面に向かっていることは明らかなので、その課題解決に資する学術領域に女性活躍が必要なのだ、ということを強く訴えていきたい。サイエンス領域は女子生徒が少ないですが、社会のトレンドにいかに呼応した女性を育成できるのかは、高校の進路指導段階、あるいはその前段階から始まっている問題です。それをもっと広報していかないといけません」と鯵坂教授は力をこめる。社会課題である情報デジタル領域の人材育成に、こちらも社会課題である女性比率の低さ。双方を同時に解決しようとする意欲的な改革の今後に注目したい。

関連リンク:「一生を描ききる女性力を。」世の中に新しい価値を生み出すハブとして大学の価値を高める/武庫川女子大学 食物栄養科学部、建築学部、経営学部 | 高等教育 | リクルート進学総研 (shingakunet.com)


カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2023/2/10)