学ぶと働くをつなぐ[39]教職学協働で自立的な学習者を育む学びのコミュニティー/成城大学

成城大学キャンパス

成城大学 学長
杉本義行氏

『学び合いプロジェクト』から生まれた「ピアサポーター」

 成城大学が、学園創立100周年に当たる2017年から取り組む「学生による学生のための学習支援団体」であるピアサポーターの活動が、JASSO(日本学生支援機構)の調査報告書で学生支援の取り組みの先進事例として取り上げられる等、注目されている。杉本義行学長は、2015年に「学び合いプロジェクト」の構想を始めた背景をこう語る。「大学の使命は、学生が成長でき、その成長を実感できる学習環境を提供して、自立的な学習者を育てることだというのが私の考えです。学習環境として重要なのは、いわゆる物理的な環境だけでなく、何を学ぶか、誰と学ぶかといったことです。この観点で、学生の能力を高め、学ぶ意欲を醸成し、自立的な学習者を増やすことを学び合いに期待しました。また本学には学園内からの入学生が全体の10%ほどいますが、その学生達のコミュニケーション能力が非常に高い。この学生の資質と、『学び合いプロジェクト』とに親和性があるという判断もありました」。

 成城大学の学生支援の特徴は「教職学協働」。教・職だけでなく「学」すなわち学生も協働するのだ。それは「ピアサポーター」という現在の名称にも表れている。「学習面をサポートする学生は、一般的には『ピア・チューター』と呼ばれます。しかし『学び合いプロジェクト』の中で学生達から、チューターには何かを教えるイメージがあるため、自分達の名称とするのはためらわれるという声が上がりました。確かにこの活動は、『教える』とは少し違って、『自分の中で答えを見つけていくことをサポートする』ものです。そこで、学習面をサポートする制度自体は『ピアチューター制度』としつつ、サポートする学生は『ピアサポーター』と呼ぶことにしました」(杉本学長)。

ピアサポーター研修やサポーター団体の交流活動にも注力

 既に活動していたサポーター4団体(「キャリアサポーター」「国際交流サポーター」「ライブラリーサポーター」「バリアフリーサポーター」)に、「ピアサポーター」が加わった5団体のサポーターには、今年度、のべ約450人が登録しており、そのうちピアサポーターは37人。現在の活動の大きな柱が、授業の中に入って、教員のもとで学生をサポートする「授業サポート」だ。杉本学長は、コロナ禍で急増したオンライン授業でその効果をはっきり見ることができたという。「例えばブレイクアウトルームに分かれた時に全員がカメラオフにして画面が真っ暗ということもあります。そんな時に学生がファシリテーターとして声がけすることで、グループの対話が活性化するといった事を聞きます。教員からは『非常にありがたい』と評価が高く、授業が対面になっても引き続き利用する教員が多いのに加え、評判を聞いて導入する教員も増えています」。

 ピアサポーターに対するコーチングやファシリテーションの研修が充実していることや、サポーター団体同士が交流するSupporters’ Forumを毎年開催していることも、成城大学のピアサポーター活動が注目され、評価されているポイントだ。

 Supporters’ Forum開催のきっかけは、サポーター団体間において、学内でもお互いの活動がよく分からないことだった。活動内容はそれぞれ違ってもサポートするという意味で共通の問題や悩みを、5団体が一堂に会して出し合い、解決する場にしようと、ピアチューター制度が始まった2017年に第1回を開催。さらに、他大学にも参加を呼びかけ、第2回からは全国の大学・高校のサポーター学生が参加するイベントとなっている。

国際教育、理数系教育、情操・教養教育からなる学園の「教育改革三本柱」

 2017年に学園全体で定めた、「成城学園第2世紀プラン」の一環に、国際教育、理数系教育、情操・教養教育からなる「教育改革三本柱」がある。その中でピアサポーターを含むサポーター活動は、学び合い助け合う情操教育として、「情操・教養教育」の柱に位置づけられる。「国際教育」には、IELTS・TOEFL(R)対策や異文化理解プログラムなどで海外留学を支援するSIEP(成城国際教育プログラム)。「理数系教育」には、文系大学でありながらかなり早い時期に、全学共通教育科目として設置されたデータサイエンス科目群。これらを合わせた三本柱によって、地に足をつけて自立的な学習者を育成していく構えだ。「大学での学びと、社会での学び方とが共通しているとすると、教室での学習経験をリフレクションしていくところが大切なので、そのリフレクションをもう少し体系的に学んでいく場をつくることが必要だと思っています」と杉本学長は語る。


図 成城大学 教育改革三本柱


徐々に広がりつつある自主活動

 サポーター活動をしている学生が自立的・主体的な学習者になったか、定量的な成果の可視化は今のところできていない。「ただ、定性的には、1年生のときには心配だった学生でも、サポーター活動を通じて驚くほど変わっていくのを目にして、効果を強く感じています」と杉本学長は言い、学生達の学び合いが、少しずつだが大きく広がってきたことも実感しているという。「例えば、2018年度から『時間割相談』という活動が始まり、2022年度は5日間で500件以上の相談を受けました。これは大学からの依頼ではなく、時間割をつくるのが大変なのでそのサポートが必要だと、ピアサポーターの中から出てきた自主活動です。こういう活動を、もう少し広げたいですね」。

 最後に、約5年の取り組みを経た今、どのように未来を見据えているか、そこに向けての課題などを尋ねた。「本学はずっと昔から、学園全体で『個性尊重教育』を重視していますが、今、個性・多様性を尊重しながらも合意形成をしていく力が、色々なところで求められていると考えています。ですのでまず1つは、そのための科目をもう少し増やすこと。もう1つが学部横断的なプログラムの強化で、その中に地域や企業といった学外との結びつきや、高大連携等も上手く組み込めればと思っているところです」(杉本学長)。



(文/松村直樹 リアセックキャリア総合研究所)


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