創立400年に向け「仏教SDGs」をキーワードに連携、社会課題解決に貢献/龍谷大学
浄土真宗の精神を建学の精神とし、自らを省み自然や人、社会全体の幸せや利益を追求することを意味する「自省利他(じせいりた)」を行動の哲学に据える龍谷大学。その哲学はまさにSDGsの概念と通底するものである。SDGsを軸に社会や地域との連携強化と時代に適応した大学への変革を目指す龍谷大学の取り組みについて、副学長の深尾昌峰氏に伺った。
「誰一人取り残さない」重なる仏教とSDGsの理念
龍谷大学では2019年、2039年の創立400周年まで20年となったのを機に、大学の目指すべき姿を宣言する「龍谷大学基本構想400」を取りまとめた。4年を一つのサイクルとして5つの長期目標が定められており、その5つを包括する将来ビジョンとして、〈「まごころ~Magokoro~」ある市民を育み、新たな知と価値の創造を図ることで、あらゆる「壁」や「違い」を乗り越え、世界の平和に寄与するプラットフォームとなる〉との目標が掲げられている。
この取り組みに当たり、同学の入澤 崇学長は「仏教SDGs」を打ち出した。「現代のグローバルな社会において表出する貧困や環境破壊といった問題に本気で取り組むとき、私達は、自分が何者であり、どう生きていくのかという問いに直面する。そこには仏教が果たすべき役割が必ずあるはず」との思いがそこにはある。深尾氏は「『誰一人取り残さない』というSDGsの理念は、仏教の『摂取不捨(すべての者をおさめとって見捨てない)』という教えと重なる」と語る。そして、社会変革のハブとなり、SDGsという世界共通の価値をのりしろにしながら様々な組織や人とつながっていくのが龍谷大学の役割だと言う。
この「仏教SDGs」の概念は、大学だけでなく浄土真宗本願寺派の宗門に関係する24法人72校からなる国内最大の学園グループ「龍谷総合学園」全体でプロジェクト化されており、グループを形成する中学校や高校でも、総合的な探究の時間などを使って意識の醸成や構造的な課題の把握、SDGsの実現に向けた具体的な実践等に取り組んでいる。
ソーシャルベンチャーへと広がる起業の可能性
龍谷大学はかねてよりアントレプレナーシップ教育に力を入れており、関西における起業家育成の先駆的存在として新聞等にも取り上げられるが、これまでに輩出した起業家の多くはIT関連や飲食事業等に挑戦してきた。しかし近年は、社会問題の解決や新たな社会的価値の創造をビジネス化する「ソーシャルベンチャー」へと起業の傾向がシフトしているという。例えば、障がいを持つ人達の賃金的待遇の改善を目標にある学生が在学中に立ち上げた靴磨き店「株式会社革靴をはいた猫」では、働きづらさを感じた人々に靴磨きのスキル修得をサポートし、雇用。通常の靴磨きサービスに加え、企業の会議中、会議参加者にスリッパに履き替えてもらい、会議の間に革靴を磨く非対面の出張サービスを展開し成長している。こうした動きと今回の「仏教SDGs」の取り組みは、もちろん無縁ではない。
もともと龍谷大学は全国でもいち早く大学の社会連携に価値を見いだし、その方法を模索してきた。1991年、「龍谷エクステンションセンター(REC/レック)」を学内に設置。大学が持つ教育的資産や研究成果を広く社会や地域との連携に役立てるべく、生涯学習や学生向けの講座を開講している。近年は特に起業・創業を支援する講座が多い。
またREC内には、バングラデシュの経済学者で2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス博士の名を冠し世界78カ所に展開する「ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンター」があり、ユヌス博士が提唱するソーシャルビジネスの研究と社会実装を目的にプログラムを展開している。
「龍谷チャレンジ」で学生の活動を支援
さらに龍谷大学では、起業を目指す学生に対し、龍谷学生活動支援制度「龍谷チャレンジ」を用意している。2022年度は「自主活動部門」と「社会連携・社会貢献活動部門」の2部門を設け学生団体を募集。社会連携・社会貢献活動部門では、大学のカリキュラムやRECのプログラムの中で起業への意欲や社会的な課題を感じ、その解決に向けた活動を展開する団体に対して、年間最大30万円を助成している。
助成だけではない。事業を展開するうえで必要となるオフィススペースを確保できる本格的なインキュベーションルームの提供、起業をテーマとしたセミナーの開催、メンターによる起業相談等のサポート、ソーシャルビジネスのマネタイズやビジネスモデルの構築に向けた教員からの積極的なアドバイスなど、ビジネスにおける社会連携を志す起業家が育ちやすい環境がハード面、ソフト面とも非常に充実している。
コレクティブ・インパクトの実現に向けた共創のハブに
こうした取り組みが少しずつ実を結び、SDGsに対して非常にアクティブな大学であることが世間に浸透する中、最近では地域とのパートナーシップ構築に向けた試みが進みつつある。例えば、マネタイズが難しく融資における審査で不利になりがちなソーシャルベンチャーのために、地域の金融機関と連携して財務諸表だけでなく事業そのものを評価・認証する仕組みが構築され、注目を集めている。
「ソーシャルビジネスやソーシャルベンチャーをサポートすることは、今後の本学にとって非常に重要な柱となっていくはず」と深尾氏。行政、教育機関、企業やNPOといった市民組織など、多様なセクターがそれぞれの強みやノウハウを活かしながら協力する「コレクティブ・インパクト」の実現も、2039年に向けて龍谷大学が目指すところだ。共創のハブとして社会とつながりながら、本当に地域にとって必要な大学、「あって良かった」と思われる大学であり続けるために、「仏教SDGs」の概念を今後も突き詰めていきたいと語った。
(文/髙橋晃浩)