入試は社会へのメッセージ[6]カレッジレディネス醸成と 探究支援のプロセスを重ねる「せかい探究部」/上智大学

 上智大学は、高校生と大学生が探究学習において協働するプログラムを、2022年度から全学共通科目として開講した。その経緯と新たな高大接続教育の可能性について、プログラム担当で特任助教の新 江梨佳氏にお話を伺った。

上智大学 特任助教 新 江梨佳氏

高校生対象のオンライン探究学習プログラム「せかい探究部」

 今回の事業の背景には、同大学が2020年から実施してきた「せかい探究部」の活動がある。これは同大学を運営する学校法人上智学院が、東南アジアフィールドからグローバルで実践的な学びの場を創出することを目的としてタイ・バンコクに設置した教育・研究事業会社、Sophia Global Education and Discovery Co., Ltd. (Sophia GED)が展開する活動だ。新氏は同社の教育プログラムディレクターであり、せかい探究部の監督でもある。

 「せかい探究部」はオンライン探究学習プログラムで、個人参加30名程度を対象に、東南アジアをはじめとする世界のフィールドで自ら設定する探究テーマについて、探究・論文執筆に10カ月かけて挑戦し、そのプロセスを大学教員や研究者が伴走支援するというものだ。主な活動とその設計を図に示したが、軸になるのは「わくわく感」だという。「自分で調べたい、深めたいと思えるテーマを見いだすところが起点になります。それさえ見つかれば、生徒達は行動力に火がついて進んでいきますが、テーマ設定で妥協してしまうと、後になって深めるプロセスが苦しくなってきます」と新氏は話す。10カ月にも及ぶ活動だからこそ誤魔化しがきかず、テーマの妥協が成果に直結してしまう。そのため、ワークシート作成や個別ゼミの時点で何度もストロークを重ねながら突き詰めていくという。


図 主な活動6つ、「せかい探究部」


上智大学の共通教育改革とのリンク

 この活動は上智大学が進める教育改革と無関係ではない。同大学は長期計画「グランド・レイアウト2.1」にて、重点計画の1つに「次世代社会へ向けた学部教育の再構築」を掲げ、2022年度より全学共通教育改革を行っている。その趣旨は、変化の激しい社会でも主体的に生きていける「自立した学修者」として学生を育てるというものだ(※)。自分の「わくわく感」を起点に探究を進めていくというプロセスはこうした趣旨に重なる。「せかい探究部」の活動は、上智大学が教育の軸に据えるコンセプトを体現する内容でもあるのだ。新氏は「本学の強みであるグローバル領域の人脈や研究を、事業会社が機動力ある教育実践プログラムとして高校生に提供し、それを今回、本学の基盤教育改革に接続することで、高大接続を実現することができました」と話す。どういうことか。

量的拡大を経て高大接続という縦の連結にチャレンジ

 もともとSophia GEDはスタディーツアーをメインに事業展開する予定だったが、立ち上げ時期にコロナ禍が直撃し、オンライン展開を余儀なくされた。「せかい探究部」は、4月に構想・設計し、5月に募集、6月にパイロット版というスピード感で立ち上げたという。1年目に高校生に大学のリソースを使った探究プログラムを提供し、手ごたえを得て2年目に量的拡大を図り、対応可能な範囲を見極めたうえで、3年目は大学の授業展開につなげ高大接続へと発展させた。それが「上智大学コラボ授業」である。「せかい探究部」受講の高校生が同大学の授業(基盤教育センター開講全学共通科目「探究的な学びを創る」)にオンライン参加する形式で、高校生が持ち寄る探究テーマについて、大学生が自らの専門性や経験を活かした協働ワークショップや対話を行うことで、深めていくというものだ。2022年度は32名が参加した。「高校生には、今の『わくわく感』を大学以降につなげていこうと話しており、ロールモデルとして大学生と交流できるのはメリットが大きい。また、秋頃はこれまでの蓄積がある一方である種のブレイクスルーが必要になってくる時期です。片や大学生は、研究調査の実践的な学びに伴走することで、自らの専門性を深め研究につなげていくことができるし、今後のキャリアを見据えて学びを再考したり、ファシリテーションやリーダーシップ等の社会的スキルを伸ばすことにもつながります」と新氏はその狙いを述べる。また、3-4年次を対象としたインターンシップ科目「Sophia GEDグローバルインターンシップ」(グローバル教育センター開講)も設置しており、この科目の受講生がインターンシップの一環として高大連携授業の企画運営に携わっている。単に高校生に寄るだけではなく、大学生側にも十分なメリットがあるからこそ、連携授業が成り立つのだ。

探究志向の生徒を個別指導で丁寧に育成するという大学ブランド

 こうした取り組みに応募してくる高校生にはどのような特徴があるのか。

 「自分で見つけたり、学校で先生に聞いたり、保護者が勧めたりといったパターンがありますが、個人の志向によるところが大きく、特定のセグメントというわけではありません」と新氏は述べる。比率としては女子が多く、最近は通信の生徒も増えてきている。「高校でも探究活動が取り入れられているので、その拡張や深耕のニーズに合致するケースも出てきています」(新氏)。そうした動きを見据えれば学校導入等のニーズも高そうなものだが、現状の個別指導のやり方では学校規模への最適化が難しいため、当面は個人対象で続けていく予定だという。参加者30名が30通りのやり方で探究プロセスを突き詰めていくのが良さであり、システマチックに大型化して良さを棄損しては元も子もないというわけだ。

 また、今後の展開として、現状の東南アジア以外の地域にも探究の対象を広げていくことを想定する。「本事業のプログラムはオンラインなので、地域関係なくできるメリットがあります。また、『せかい』とひらがなにしているのは、東南アジアだけではなく自分の外にあるテーマと、自分の内面で何がわくわくするのかを循環してテーマを定めていく意図があります。そうした趣旨からしても、もっとテーマが広がっていくとよいと思います」(新氏)。参加者自らのテーマ設定が事業を超えていくのを待っているという。

 なお、この活動を経て上智大学に入学する学生も出てきているが、直接的に募集に活かすというより、「特色ある高大接続を展開する大学である」ことは、ブランディングとしても有効というスタンスだ。探究教育を通した高大連携プログラムの新たなチャレンジに今後も注目したい。



(文/鹿島 梓)


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