入試は社会へのメッセージ[6]高校の探究支援から始まる シームレスな高大連携/宮城大学

 宮城大学は高校の探究支援や教員研修等、高大連携に注力する大学の1つである。その趣旨等について、高大連携推進室室長・アドミッションセンター副センター長の笠原紳教授にお話を伺った。

宮城大学 笠原紳教授

少子化を見据えた将来検討を起点にした高大連携

 宮城大学は1997年創設以来、公立大学という性格上、県を母体とする組織として、県立高校とは交流しやすい立ち位置であったという。高校からの出張講義や大学見学等の要望は学部ごとに受けていたが、学部間の情報共有等はなく、単発の取り組みばかりであった。「頼まれたことに自転車操業的に対応していたため、分野が異なる要望をもらっても大学としての対応がとれず、有機的な取り組みができていませんでした」と笠原氏は当時を振り返る。

 2010年代、国を挙げての高大接続の話が出てきたことを契機に、東北の少子化が進んでいることからして、短期的な入試だけではなく、10年20年後を見据えた長期的な観点で学生募集を捉える必要があるのではないかという機運が学内で高まる。笠原氏は、「一点刻みの選抜が効果的なのは十分な母集団が前提です。では母集団が縮小し、ボーダーが下落したときに従来型の大学入試は成り立つのか。大学教育への積極性や、対人領域で必須である人物評価等はどこで担保されるのか等の懸念がありました」と述べる。将来像からすれば本来あるべき能力を、入試段階で時間をかけて見られるような体制が必要ではないか。そうした議論のなかで、入試制度は2年前公表ルールの存在から急に変更ができないため、まずは前述した部署ごとの対応窓口を一本化しつつ、大学を挙げて高大連携に取り組む方向性が定まったという。行政先導型の取り組みではなく、危機感を持って将来を見据えたときの打ち手として、高大連携を選んだというのがポイントだ。

高校の学習を実質化し大学教育に繋げるコーディネート

 高大連携活動は2019年にアドミッションセンター内に設置された高大連携推進室が担う。高校側の要望に対して大学として支援可能な内容をコーディネートし、最適な形で提案するのが主な仕事だ。高大連携活動には、「大学見学・出前講義」「探究型学習の指導支援」「アカデミック・インターンシップ」等がある。

 出前講義では、高校からは「この分野の講義が聞きたい」と言われても、敢えてほかの分野も含めて派遣し、1つのテーマでも多様な切り口が存在することを示したほうが教育効果が上がると提案することもある。探究支援においては、最近はSDGs関連のテーマ要望が多いという。多様なテーマ要望に対し、各学群の代表教員が推進室に集い、相談しながら誰がどう対応するかを決めていく。探究支援では生徒に直接指導・助言するほか、高校教員に対し、テーマ探しや仮説設定、調査・分析手法等について指導することも多いという。

 アカデミック・インターンシップは高校2年生対象に広報色を廃し、大学の授業を高校生にとっての勉強の機会として提供しており、「総合的な探究の時間」に充てる高校もあるという。ポイントは最初に、どの学群志望でも一般教養を受講する点だ。2022年度はウクライナ紛争背景の国際情勢がテーマであった。土台となる語学や社会情勢を理解する力等を認識したうえで、学類ごとの専門授業へと進む。4年間の学びを凝縮した設計なのだ。こうした設計の背景にあるのは、同大学のアドミッション・ポリシーである。「入学者に求める能力」として、①高校までの「偏りなく幅広く、継続した学習」の内容をしっかりと身につけていること、②理数科目の積極的な習得、③基礎的な英語力の修得 を挙げており、これらは全学群の入試設計でも理数系の受験が適切に配置されていることからも一貫している。笠原氏は、「研究では英語で論文を読み、ファクトを数字で計算して統計的解釈を加え、論文で言語化します。こうした一連のアウトプットを踏まえれば、求める素養が文理横断的になるのは道理」と説明する。大学として行いたい教育に即した要素を正しく入試で問う、その第一歩としてアカデミック・インターンシップがあるのだ。

アカデミック・インターンシップの様子

高大連携活動で培った内容を評価する総合型選抜

 こうした高大連携活動で実践する探究学習で培った成果を評価する手段として、2017年度から実施しているのがAO入試(総合型選抜)である。選考プロセスは図に示した通り、評価するほうもされる側もかなり手間のかかる入試だ。募集人員は6学類各8人で、全体の11%に当たる48人。2023年度入試では56人が合格した。総合型は入学後すぐに学類に所属することができるというメリットがある。そのため、主体性等を含め、専門教育を受ける準備ができているかが問われるのが総合型選抜とも言える。入学生のパフォーマンスは概ね高く、学内でも評判が良いようだ。この入試は文部科学省の「大学入学者選抜における好事例集」にも、「高校生と大学生の協働活動等、地に足がついた連携」である点、「高校の学習と積極的に関わろうという姿勢」等が評価され、選定されている。今後について伺うと、「まずはこの入試の有効性を検証したうえで、拡充等を含めた判断をしていきたい」と笠原氏は言う。そのうえで高大連携について、「探究支援やアカデミック・インターンシップを発展して、入試の時間内だけではなく、素質ある生徒に伴走する流れになっていくとよいと思うし、相互乗り入れ含めて柔軟にできるとよい」と展望を述べる。高大連携を基盤とした入試で長い時間をかけてミスマッチを防ぎつつ、きちんと個人の目的意識が整合する場で学び、その人材が地域に還ることで、少子化が進むなかでも活力ある地域を創っていけるのではないか。宮城大学の高大連携活動に学ぶべき点は多い。

アカデミック・インターンシップの様子



(文/鹿島 梓)


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