生徒が自分で調べ、考え、行動し、頼れるパートナーも見いだし、持続可能な開発へ/渋谷教育学園渋谷中学高等学校

学校DATA
■生徒数1235名(男子585名、女子650名)
■進路状況(2021年度)大学166名、就職1名、進学準備等35名

画像 渋谷教育学園渋谷中学高等学校 WWL・UNESCO委員会委員長 北原氏

生徒に引っ張られるようにSDGsに向かう

 渋谷教育学園渋谷中学高等学校は、国際人の育成を掲げている中高一貫校だ。そのなかで「SDGs達成を担う次世代地球市民の育成」という方針も打ち出している。元をたどれば、その構想は、学園長である田村哲夫氏がかつて校長だった2000年代に、ESD(持続可能な開発のための教育)の推進を生徒と教職員に呼びかけたことから始まるという。2002年の国連総会で採択された「ESDの10年」の方向性を目指そう、と。

 だが、当初は教員の反応はやや鈍かった。のちにESDを推し進める北原隆志氏は、こう振り返る。

 「その頃の私が英語教員として目指していたのは、欧米に負けない発信力や論理性をもった人間を育てることでした。海外の名門大学への合格者も増え、『もう十分に国際人が育っている』と思っていたのです」

 考えを改めるきっかけをくれたのは、生徒達だ。ESDの一環で若者の国際会議に参加した生徒達が、以降も自発的にエネルギー問題の対話の場を設けたり、アフリカのHIV撲滅の資金集めをしたりと、勝ち負けを競うのとは違うことに邁進した。その姿が印象に残るなかで、2010年に日米教員が集うESD会議に参加すると、イェール大学が小中高や企業と組み、豊かな自然を取り戻すことに挑んでいることを知った。しかもその課題解決に向け、子ども達が教科横断的に学んでいた。北原氏は日本の教育との落差に愕然とし、教員より先に同じ方向に走り出していた生徒達のことを思った。

 「帰ってすぐに教員にプレゼンしました。学校の中で個別に教科を学ぶだけでは、社会課題は解決できない。多様なパートナーとの連携や、クロスエデュケーションが必要だ。ESDに向かう改革を本気で始めようと」

 それ以降、同校では外部連携や教科連携が進んでいった。前提に置いたのは「持続可能な開発のためには、環境だけでなく平和や貧困など様々な課題と向き合う必要がある」ということだ。2015年、国連サミットでSDGsが採択され、持続可能な開発に向けた17の目標が示された。「自分達が行ってきた教育と、国際社会で目指すゴールが重なった」と感じた。そのSDGs達成に向かう学びをさらに追求した。

自分で調べ、考え、行動して発信する

 現在、同校のSDGsの教育は3つの柱からなる。

図1 6年間の探究活動

 1つ目は、教科横断型のSDGs授業と研修旅行だ。「平和な社会のあり方」をヒロシマの国内外の捉え方から考えたり(図1参照)、「SDGsのゴールとそのための連携」を、貧困やジェンダー、水問題、気候変動などを各教科で学びながら考えたりする。知識を学ぶだけでなく、自分で調べ、解決策を考え、その考えの下に行動し、発信までするのが基本。研修旅行では調べたいテーマに沿って現地でインタビューも行うが、そのためのアポイントメントも生徒自身で取る。

 2つ目は、自調自考論文だ。高校1年生から3年生にかけて自分の研究課題に取り組み、論文にまとめる。テーマは何でもいいし、「誰に頼るか」も自由だ。

 「生徒は研修旅行で外部とアポイントメントを取ってきた経験があるので、大学の先生にも自分で連絡します。大学の先生方には本当にお世話になっています」(北原氏)

 3つ目は、サービスラーニングだ。高校2年生のときに社会貢献活動に挑む。いつどこで誰と何をどのようにやるかは、全部生徒に委ねられる。個人で動く生徒もいれば、友人や家族と組む生徒、他校や企業を巻き込む生徒もいる。唯一の決まりは「行動して発信までする」ことだが、発信方法は自由で、学校での発表でも、Web発信でも、外部の大会でのプレゼンでもいい。生徒達主導で、SDGsをテーマに国内外の中高生が学び合うイベントも誕生した(19ページ参照)。

SDGs達成のためのリベラルアーツを

 こうした学習環境を整えていくと、「生徒達の進路への思いがよりクリアになった」という。

 「進学後や就職後に『そこで何をしたいか』まで語ってくれるのです。『高校生の自分では知識や信用が足りず、ここまでしかできなかった。だからこれを学んでこんな立場になってこうしたい』と。ハーバード大学にも合格する力がある生徒が、自分の進路を見据えて国内の大学を選んだこともあります。逆に『医師になって途上国の医療環境も良くしたいけど、医学と途上国支援の両方を学べるところが国内にない』という理由から、海外に出た生徒もいます」

 その点では、海外に進学した生徒からは「日本の大学は、海外と比べると専門の一分野しか学べないことが多く、リベラルアーツ(いわば課題解決に向けた多面的な教養)を学びにくい」という声が出るという。

 「ある生徒は、ビジネスを通して地球環境を良くしたいと考え、経済と環境の両方を学べる海外の大学に進みました。日本では経済なら経済と、専門に学べる領域が限定されがちです。多面的な知を掛け合わせて壁を越えるような、リベラルアーツの学びが今後一層充実していくことを私も期待しています」(北原氏)


画像 教科横断型授業やサービスラーニングの様子



(文/松井大助)


【印刷用記事】
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